28話 うわの空
卓とその友人達が『憂』の家に行った数日のこと。その日はいつも通り学校があり、気が付けば放課後になっていた。その日の放課後は偶然にも昂と稀がそれぞれ用事があるため、直ぐに帰っていった。残った卓と輝と瑠里。
卓も早く帰ろうかと思っていた。その理由は逆戻りの生活で疲れきっていたからだ。残った一日を家でのんびり過ごしたいのだ。だが、その気持ちは簡単に打ち砕かれた。
瑠里の提案により、三人で集まって例の話し合いをする事になった。話し合いは重要で逆戻りの日々から抜け出す手がかりになる。卓は仕方ないと溜め息を吐き、二人に付き合う事にした。
数分後。卓たちは学校から少し離れた場所で集まり、それぞれ新たに変わっている事を含め分かった事を話している、はずだったのだが……。
「卓、なぜぼーとしているんだ?」
卓は何か考え事をしているのか、どこかうわの空状態だった。それに気付いた輝が問い掛ける。
「あ、いや、悪い」
輝の声に我に返った卓は謝っているが、再びどこかうわの空状態に戻った。それはまるで抜け殻状態と言ってもいいだろう。
「もう! いいや。輝、二人だけで話そう」
卓の様子に瑠里が呆れてしまった。ついにはムスッと頬を膨らませて知らんぷりをした。
「待て、卓を待とう」
「それで、最近変わったことだけども、」
輝は卓を待ってみようと思っていたが、その言葉を無視して瑠里が話を進めようとする。輝は横目で卓の様子を伺いながら仕方なく瑠里と一緒に話を進めた。そうして、時間が過ぎていった。
輝と瑠里はこれまで変わった事、分かった事を言い合った。話を終えた頃に不意に輝が卓のほうを振り向いた。
「なあ、卓」
「ん?」
依然として変わらないと思ったのだが、卓はさっきまでの様子とは思えないほどにまで回復しているかに見えた。実際そうだった。
「憂のことで変わった事は無かったか?」
「んーと、」
輝に聞かれて卓は言葉に詰まった。というよりも迷っていたが正しい。あの事を言うべきか黙っていようか、と。
数秒の沈黙が流れ始めた。輝は黙って卓の言葉を待っている。一方、瑠里は先に帰って既に居なかった。卓が思考を巡らせているだけでそれ以外はただただ沈黙が流れたままだ。
「……なにも無い」
二、三分くらい経った頃だろうか、唐突に卓が言葉を発した。
「そうか、」
たった一言の言葉に輝は相槌するだけ。その後、無言の解散で話し合いは強制終了した。
翌日の教室での出来事。それは、突然だった。
「やあ、菅原。元気か?」
ある人物が卓に話し掛けてきた。
「え?」
卓は突然の問い掛けに驚いて目を丸くした。卓に話し掛けた人物は内海だった。卓は今まで『憂』の事についてばかり動いていた。そのせいか、同じクラスである内海の存在を忘れつつあった。あの時、カラオケに誘われて以来ほぼ話していない。実際、話し掛けられてもいなかった。
「やっぱり、まだ憂ちゃんのことか? 大丈夫か?」
「あ、ああ」
内海の言葉に卓は曖昧な返答をする。
「ふーん、そうか」
卓の言葉に納得してなさそうな顔をして呟いた内海はその後、斜め下に視線を向けて何も言わずに去ってしまった。
「なんだったんだ」
内海の言動に卓は不思議に思いつつ、自然と辺りを見渡していた。知っているクラスメイトの人達がそれぞれ楽しそうに会話をしている。卓も同じように過去では何度かクラスメイトと会話していたことはあったはずなのだが、なぜだか二年に戻ってからの日々はそんなクラスメイトとの会話が減ってきているように思えた。
それも時間が逆戻りしてからの事だ。まだそんなに逆戻りの時間が経ってないからなのだろうか。いくら思い出そうとしてもクラス替えの三月の時にはもっと話していた記憶が薄らと残っていた。それからはというもの、その日は何も変わらない平凡な日常を過ごした。
「っく。たく。卓!」
突如、下の階から卓を呼ぶ声と足音が卓の耳に届いた。
「なんだよ。今日は休みのはずなのに」
卓は不満を零し目を擦り、携帯に表示されている日時と時間を確認した。
『日曜日、午前七時半』
確認すると、卓は目を瞑った。
「卓、輝くんと瑠里ちゃんが来てるわよ」
再び声がすると、その言葉を聞いて卓は飛び起きた。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
二人の声が交互に聞こえると卓は慌てた。トントントンと軽い足音が聞こえてくる。予想外の訪問に卓は戸惑った。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?
卓がどこかうわの空状態が続いている。後々分かってくるはず。そして、久々の内海に卓は…。
次話更新予定日は1月27日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。




