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27話 真実を明かして

「あのすみません。聞いてください。俺、実は、」

 真剣な表情をして(たく)は切り出した。それは、数分前に戻る。

 学校の放課後、卓は友人達と一緒にある場所に向かった。そこはなんと卓が忘れている『(ゆう)』という少女の家だった。そこで新たに知った事実。その『憂』は既に亡くなっているのだが、その原因が事故だったということだった。卓は『憂』という少女の事を忘れている。それを言おうか悩んでいたが言おうと決め、憂の母親である女性に打ち明けようとしていた。

 卓の言葉に耳を傾けていた女性は一瞬戸惑ったが、真っ直ぐな姿勢に思わず笑顔が零れてしまう。

「まあ、取り敢えず、そこに座って」

 女性は卓をテーブル席の向かい側に座るように促した。

「はい」

 返事をした卓は落ち着きを取り戻し、言われた席の椅子を引きゆっくりと腰を下ろした。

「飲み物、何がいい?」

卓が座った瞬間、今度は女性が立ち上がり問い掛ける。

「いえ、すみません。今は、」

 卓は申し訳なさそうに断った。

「そう、」女性は残念そうに呟くと、椅子に座り直した。卓と女性は直ぐに会話しようとはしなかった。暫くの沈黙が流れた。微かに掛け時計のカチコチという刻む音だけが響き渡る。

「あの、俺、実は、憂さんとの思い出を忘れているみたいで、その、信じてもらえるか分かりませんが、」

 静かな空気を切ったのは卓の言葉だった。卓は緊張しているのか途切れ途切れに話し始めた。女性は見守るように聞いている。

「それでもう一つ、巻き戻っている時間を過ごしているんです。おそらく、憂さんとの記憶を、」

「分かったわ」

 卓はちゃんと説明しようと、言葉を続けようとした。途中で、女性は全てを察したように言葉を口にした。

「え?」卓は呆気にとられて口を開けたまま固まってしまった。

「卓くんの言葉を信じるわ。だって、あの子の彼氏さんだもの。あの子が居たらきっと、信じてあげてって言われるわ」

「でも、憂さんが彼女であることも忘れているんですよ! それでも信じてくれるんですか?」

「うん、信じるわ」

 卓の言葉に女性はあっさりと受け入れた。その言葉にまたしても、呆気にとられる卓は予想外の事に思わずテーブルに顔を伏せてしまった。それは残念がる様子ではなく、あっさりと受け入れられて打ち明けようか悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えた事によるものだった。

「卓くん、そんなにならなくても、」

「はい」

 女性の悲しそうな声に卓は顔を上げて返事をした。

「あの、話終わりましたか?」

 そこへちょうど廊下から(てる)がひょこっと顔を出し女性に問い掛けた。

「あ、ごめんね。今終わったところよ」

「卓、憂の部屋に案内する。そこにみんな集まってるから」

 話が終わった事が分かると、輝が卓に手招きして言った。

「え、でも勝手に、」

「いいのよ」

 卓が戸惑っていると、女性が微笑みながら言う。

「私はここに居るから行ってくるといいわ」

「すみません」

 卓はなぜだか申し訳なく思いながらも椅子から立ち上がり、ひょこっと顔を出している輝のところへと足を向けた。女性に軽く会釈をすると、輝と一緒に『憂』の部屋へと向かった。


 憂の部屋の前で卓と輝は立ち止まる。部屋の扉は閉まっているのにも関わらず、中からの話し声が聞こえていた。

『やっぱりさ、卓が一番辛いだろうな。憂と付き合ってたってのもあるだろうし、』

『私もそう思う。瑠里(るり)も思うよね?』

『そうだね。卓が一番辛いと思う。けど、私たちまで悲しんでたら、雰囲気が暗くなっちゃうだろうし、』

 卓と輝はそんな会話を耳にした。卓は聞くつもりではなかったのに立ち止まって聞いてしまったのには少し罪悪感を覚えた。

「なに話してたんだ?」

 突然、輝が部屋の扉を開けてさっきまで会話していた三人に問い掛けた。

「は? 驚かすなよ、」

 輝の姿に驚いた(こう)が思わず声を出したが、卓も居ることを知ったと同時に黙ってしまった。

「いや、今のは、聞いてないから」

 卓は友人達の視線が自分に向けられていると察して咄嗟に口にする。

「もし、聞いてたら。気にしなくていいから。あ!」

 瑠里はもしもの事を考えて卓に向けて言うと、窓の外からの茜色の光に気付いて時計に視線を移した。時刻は六時半を示していた。気が付けば空が橙色に染まって部屋を照らしていた。

「嘘? もうこんな時間?」

「あ、本当だ! でも、そんな焦る必要無いと思うけど」

「頼まれてる事があるの! 私、帰るね。あとよろしく!」

「え⁉︎ ちょっと待って。私も帰る!」

 瑠里がすっかり忘れていた頼まれ事を思い出し、焦りをみせて帰ろうとする。つられて(まれ)も帰ろうと部屋を出ていく。

「待てよ、俺も!」

 昂もつられて部屋を後にする。バタバタと慌しく友人達が出ていき、その気でもなかった輝までも居なくなった。

 いつの間にか一人取り残された卓も直ぐに女性に一言残して『憂』の家から去っていった。

作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?

卓は女性に今の状態を明かしてあっさりと答えた女性に驚かされる。これが意味のある行動だったのだろうか?

次話更新予定日は1月21日(日)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。

良ければご感想、評価、ブックマーク、アドバイスなど頂けると嬉しいです。

では、またの更新を。

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