25話 夕日の輝きに面影を残して
(よし、授業が終わったし、みんなで集まれる!)
あれから時間が経ち、やっとの思いで授業が終わっていた。鐘が鳴ると、卓は嬉しそうに微笑んで不意に心の中で呟いていた。自分の席から立ち上がり、真っ先にある場所に向かおうとした、その時だった。
「よ! 菅原、一緒にカラオケに行こうぜ!」
「え?」
誰かが卓に声を掛けてきた。咄嗟に卓は見覚えのある声に振り向いた。振り向いた先に内海がいた。
「あ、えーと、」
卓は混乱していたせいか、何かを言おうとするも言葉に詰まり途切れてしまった。
「卓、行くよ! 輝たちが待ってるよ!」
そこへタイミング良く、卓に声を掛ける人物が近づいてきた。その人物は瑠里だった。卓は瑠里の声さえも言葉を詰まらせる。ついには一切その場から動こうともしなくなった。
それは、内海という人物の誘いに困惑していたのが大きかった。
「ほら、なにしてるの!」
瑠里はそう言いながら卓の腕を掴んで教室を去っていった。卓は掴まれると、ハッと我に返った。瑠里の手を振り払おうとするも上手くいかず、仕方なく引き摺られていった。瑠里に掴まれながら、咄嗟に内海の方を振り向く卓。
「じゃあ、またな!」
内海が手を振っていた。元気に声を出していたが、その表情はどこか苦笑いだった。
「いきなりなにするんだ!」
暫くして、引き摺る瑠里に向かって卓は怒鳴る。その理由は輝の彼女でもある瑠里との間に変な噂が広まったら、たまったもんじゃないと心底思っているからだ。だが、それを気にしてない様子の瑠里はこう言った。
「だって、私が言ったこと忘れたの?」
言葉を耳にした卓はある事を思い出した。
「あ!」
「あ! じゃないよ」
瑠里は卓の反応に呆れていた。そんなやり取りしつつも二人はいつの間にか友人が居る場所へと着いた。
「あ、来た来た! なにしてたんだよ」
卓と瑠里の到着に第一声を発したのは昂だった。昴は不機嫌な顔をしていた。
「おそーい!」
続いて昂の隣に居る稀が不満そうに言った。なぜ、隣同士に座っているのか気になったが、卓は聞かない事にした。
「ごめん、卓のせいだよ」
「俺のせいかよ!」
瑠里が昴と稀に答えるようにムスッとして言うと、卓は突っ込みを入れるように口にした。その光景が漫才のように見えた昂と稀は声を出して笑った。ただ一人、輝はどこか不機嫌そうだった。
「あ、」
察した瑠里が卓の腕を掴んでいたのを離して輝に近づいた。輝は卓を睨んでいるようだったが、卓は昂と稀の話に夢中だった。
「それでどうだった?」
「やっぱり輝の言った通りだったよ。どうして分かったの?」
「それは、なんとなくだ」
三人を差し置いて、輝と瑠里がなにやらコソコソと話していた。その雰囲気は如何にも怪しい。その時だった。
「おーい! 輝と瑠里、そろそろ行くか!」
突然、昂が声を張り上げた。
「そうだな、行こうか」
昂の言葉に輝は首を縦に振りながら言った。そこに居た女子は嬉しそうに微笑んでいた。卓だけが何のことかさっぱり分からないでいた。
「なあ、どこに行くんだ?」
卓が問い掛ける。
「決まってるだろ!」
卓の問い掛けに昂は元気な声で答えるが、詳しい場所までは言おうとしない。卓は友人達の行動や言葉に悩まされた。だが、仕方なくついていった。校舎を出て、校門を通る。
(こんな風にみんなで集まって帰るの久々だな)
卓は立ち止まって物思いに耽りながら、笑い合っている友人達の背中を眺めた。
「卓、なにしてるんだ? 置いていくぞ!」
昂が振り返り呼んだ。他の友人達も振り返って卓を見やる。
「お、おう」
卓はたどたどしく答えて一歩踏み出す。その直後だった。
友人達と一緒に並んで背を向ける一人の人物の姿が卓の脳裏を過ぎった。
「え、憂?」
突然すぎて、卓は戸惑いつつも頭に過ぎった人物の名前を声に出していた。そんな事も知らずに再び昂は振り返った。
「卓、なにしてんだよ! ほらほら」
今度は動かない卓のところまで寄ってきて、背中を後ろから押して歩かせようとする。
「おい、なにすんだよ!」
後ろから押されて転びそうになった卓は少し怒ったように言う。
「早くあの場所へ行きたいんだとよ」
卓の怒鳴ったような声に輝が昂の代わりに答えた。その言葉で昂は卓に笑顔を向けた。
(なんだよ、気持ち悪い)
卓は無意識に心の中でボソッと呟いていた。
「で、どこに行くんだよ」
卓はムッとして友人達に聞こえる声で言う。
「行けば分かる」
輝が答えるが、やはり正確な場所まで教えてはくれなかった。卓は仕方なく溜め息を吐くと歩き出した。歩きだそうと踏み出す前に瑠里が卓のほうをチラッと見やるが、卓は気付かない。
「憂のこと、思い出してほしいな。それが卓にとってこの時間を抜け出せる鍵だから」
誰にも聞こえないような声でボソッと呟く。
「瑠里、何か言ったか?」
「んーなにも、」
輝には聞こえたのだろうか、瑠里のほうを振り向いて問い掛ける。誤魔化すように答える瑠里。
「あ、もうこんな時間! 日が暮れるよ!」
時計を見て稀が言うと、昴、輝と瑠里は慌てた様子で走り出した。それに稀も走り出す。
卓も追いかけるが、友人達の姿が夕日に当たった。友人達が輝いて見えて眩しさを感じた。同時にどこか懐かしさを思い出す。ここにも忘れている『憂』も居たのだろうか、と。
作者のはなさきです。ここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?
今回で年内の更新最後となります。
久々の友人達と集まった事により憂という人物との記憶が…?
次話更新予定日は年明け始め(来週)1月6日(土)お昼の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、良いお年をお過ごしくださいませ。




