22話 変わる学年
不意に携帯の目覚まし機能が鳴り出した。目覚ましを止めた人物は起きずにまた眠りについてしまった。
「卓、起きなさい! 学校でしょ!」
今度は卓を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
「は!」
それを聞いていた卓はバッと起き上がった。時間を確かめる。七時半過ぎ。今から急いでも学校に着くのはギリギリだと卓は直感した。次の瞬間、一分もしないうちに卓は階段を駆け下り、支度を始めた。余りに急いでいたせいで降りる途中、足を踏み外そうになった。
「やべえ」卓は思わず声を洩らす。まずはキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。中に入ってる牛乳パックを取り出し、棚から自分のコップも準備。注いで一気に飲み干す。咳き込むが気にせず、キッチンを後にする。
「ちょっと、朝くらいしっかり食べなさいよ」
背後から聞こえる美琴の声に気にも止めなかった。髪を整え、顔を洗い、歯を磨く。トイレにも行く。再び二階に上がり自分の部屋に向かう。自分の部屋に入ると、卓は素早く制服が掛かっているハンガーを手に取り着替える。鞄を持って下へ降りる。
「卓、朝ご飯食べていかないの?」
「うわ! 今日、母さん休み? 父さんは?」
卓が玄関で靴を履くと、不意に後ろで聞き慣れた声が聞こえた。振り返ると、そこには仕事で家に居ることが少ない卓の母の姿があった。その姿を見た卓は驚きの声を出した。がしかし、すぐに冷静になって問い掛けた。
「今日はいないわよ。それよりも朝しょ、」
「行ってきます」
卓の問い掛けに答えて、何か言おうとしたのだが、言葉で遮られてしまった。卓は母に背を向けて、玄関の扉を開けた。急いで学校に向かったのだった。
「あれ? 俺の下駄箱、ここのはずなのにな。誰の靴だ?」
卓は学校に着くと、正門を抜けいつもの下駄箱に来ていた。自分の下駄箱を開けて上履きに履き替える、はずだった。そこにはあるはずの自分の上履きは無く、代わりに見知らぬ誰かの靴があった。
開ける位置を間違ってしまったかと別の段も確認をしたが、卓の上履きはどこにも見当たらなかった。誰かに聞こうと思ったが、朝のホームルームが始まる時間ギリギリだった事もあり、下駄箱には誰も居なかった。
「おかしいな。靴はあるから休みでも無いだろうし。どういうことだ?」
卓は状況に不安感を抱き始め、ついにはその場で固まってしまった。
「やっぱりここに居たか。俺たちの下駄箱はここじゃないぞ」
突然、輝が待ち伏せしたかのようにひょこっと現れた。隣に瑠里もいた。
「ここじゃないってどういうことだ?」
突然の二人の姿に驚いた卓だったが、輝の言葉に疑問を抱いた。
「今日が何月何日か分かればどこに行けばいいのかも分かるだろ」
輝は遠回しに言うと、いたずらっぽく笑みを浮かべた。卓は思考を巡らせて黙ってしまった。
「ねえ、早く行こうよ。授業始まっちゃうよ」
今まで黙っていた瑠里が口を開いた。
「ああ、そうだな。卓、行くぞ」
輝が卓に向かってそう言うと、瑠里と一緒に歩き出した。卓はその後についていった。
数分後、たどり着いた場所。そこは普通の教室の前だった。
「じゃあ、輝またね」
「おう、またな」
輝と瑠里が挨拶のような会話をした後、輝は再び歩き出しその場から立ち去ってしまった。残された卓と瑠里。卓は今の状況が呑み込めず、きょとんとしていたが、察しはついていた。なぜなら、先程まで卓が来たのとは別に見覚えのある下駄箱を通り過ぎたからだ。
「卓? なに、ぼーと突っ立てるの。ほら!」
卓の姿に瑠里が前押しするように後ろから卓の肩を押して教室の中へと踏み入れた。教室の中はいつもと変わらない光景だったが、何かが違っていた。それは見慣れたクラスメイト。一ヶ月前のクラスメイトとは違った。卓は何かを思い出そうと考えた。直ぐにある事に気付いた。
「瑠里、もしかして、」
卓は瑠里のほうを振り返った。
「今更気付いた? そういうこと!」
瑠里は得意気に笑った。
「やっと、思い出した。そういう事だったのか」
状況を把握した卓も笑った。逆戻りをしている卓と輝と瑠里。卓は少しの期間、休みだと二人に言われたままだったから気付かなかったのかもしれない。今まで冬休みだった事も忘れていた。
おかしな事だが、学年も一つ下がっていた事も忘れていた。これから始まる。この二学年こそ卓の知らない真相を知ることになるとは思っていなかった。
作者のはなさきです。最後まで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか?
学年が下がり、逆戻りは変わらずもこれから新しい日常が待っているはず。
次話更新予定日は来週12月16日(土)夕方の予定です。※予定変更の可能性あります。
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では、またの更新を。