19話 勉強会と迫り来る時間
卓とその友人がカラオケに行った翌日のこと。正確には卓と輝と瑠里は一日戻った日のこと。
「なあ、そういえば来週テストだよな? 勉強教えてくれよ」
不意に昴が卓に声を掛けた。卓は一つ溜め息を吐いた。
「ああ。まあ、いいけど」
「よし! じゃあ、今日は集まり決定な! 他の皆にも呼びかけるわ」
「は?」
卓は予想していなかった言葉を聞いて、思わず声を出してしまった。
「ちょっと、待て。昴、お前バイトは?」
「なに、そんな事で驚いてるのさ。テスト前だし休ませて貰ってるさ」
平然と言う昴に卓は驚くばかりの反応を見せた。それからは昴の呼びかけにより、集まることになった。
午前授業が終わり昼休み休憩の時がやってきた。放課後、卓とその友人達はいつもの場所で集まって話していた。
「この中で勉強が一番出来るって言ったらやっぱり、」
昴が悩んだ顔をしながらそう言うと、なぜだか考え込んだように黙ってしまった。昴はすぐに顔を上げて卓を見た。それが合図かのようにそこに居た他の友人達までもが卓を見始めた。
「は? え?」
卓は自分に向けられた視線に戸惑い、思わず声を出してしまった。
「決まりだな。って事で学校が終わったら卓の家に集合な! 勉強会!」
「いえーい!」
昴が突如発した言葉に稀は嬉しそうにしてその場はなぜか拍手で盛り上がった。ただ一人、卓は突然の言葉に動揺を隠せなかった。
時間が逆戻りする同じ時間を過ごしている輝と瑠里のほうを向いた卓だったが、二人は笑って卓を見ていた。卓は仕方なく溜め息を吐いた。
それからはそれぞれ昼食を済ませ、午後の授業へと向かった。卓は思っていた。昨日のカラオケといい、今日の勉強会といい思い出そうとしてもそんな過去がなかった。いや、本当はあったのかもしれない。高校三学年という進学や就職を控えている学年にこんな事をしていていいのだろうかという疑問が過ぎったりもした。それももう少し先かと思い始め深く考えていない卓だった。
ただ過去と変化がありすぎる事におかしいとは思っていた。だからこそ、勉強会で輝と瑠里に聞いてみようと思った。
気が付けば、時間はあっという間に経っていた。
「卓。卓!」
卓の耳元で呼ぶ声が聞こえてきた。それも小さい声で。卓は考え込んでいたのだろうか、はたまた疲れていたのだろうか。呼ぶ声に耳を傾けず、止まっていた。
今度は誰かが卓の肩を叩いた。
「え?」漸く、気が付いた卓は我に返ってとある人物のほうを向いた。
「卓、大丈夫か?」卓の視線には輝の姿が映った。
「ああ」軽く相槌を打つ卓。
「ねえ、やっぱりおかしいよね。二日連続で変化が起こるなんて今までなかったもん」
「そうだな。卓もそう思うだろ?」突然、瑠里と輝が小さな声で話し始めた。近くには昴と稀もいるが、二人とも勉強を教え合っていて気付いてないようだ。
「俺もおかしいとは思ってた」
「だよな。これから何が起こるんだか、」
卓も小声で答えると輝と瑠里は険しそうな表情を浮かべた。卓はこの変化に疑問を持っていたが、内心どこか安心もしていた。それは同じ時間を過ごす輝と瑠里もこの変化におかしいと思っていたからだ。
卓はふと昴と稀の二人を見る。なぜだか二人の姿に苦笑いを浮かべてしまう卓。それに気付いた昴が振り向く。
「なに、笑ってんだよ! 卓が一番勉強得意だろ!」
「なによ! 私の教え方が分かりづらかった?」
「いや、そういう訳じゃないって!」
昴の言葉に稀が反応して顔を歪めながら言った。昴は咄嗟に否定する。その二人を見て輝と瑠里が笑い出す。卓もそれにつられて笑ってしまう。その場がなぜか笑いに包まれていたが、ある事に気付いた。
いつの間にか窓の外から橙色の光が照らしていた。
「もう、こんな時間だ。暗くなる前に帰らないといけないとな」
卓が言うと、そこに居た友人達は部屋に掛けてあった時計を見上げる。
「そうだな。また近いうちに集まろうぜ!」
昴が大きな声で言う。それから、それぞれが解散した。
卓は人が居なくなった部屋を見渡し呆然と立っていた。
溜め息一つ零し部屋を出ていく。誰もいない部屋は時計の針がカチコチと鳴り響いていた。卓はこの時知らなかった。この時計のように刻一刻迫ってくる時間に。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
カラオケ、突然の勉強会、2つの変化このあとに何が起こるのかが気になるところです。
時間が進むにつれて…?
さて、ここでお知らせです。
今まで土曜の19時(夜)くらいの更新でしたが来週からお昼の時間帯に変わります。(都合上の為)
次話更新日は11月18日(土)の予定です。※予定変更の可能性あり
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