1話 戻り始める時間
卓が眠ってしまった翌日の朝。休日問わずにいつもセットしてある目覚まし時計の音で目が覚めた。
目を擦り時計に目を向ける。短針は七を示し、長針は十二を示していた。朝の七時。
「まだ七時か。今日は土曜だし二度寝でもするか」
一言呟くと、目を閉じた。しかし、僅か十分後のことだった。
「卓! 早く起きないと学校に遅刻するわよ!」
卓を呼ぶ声が聞こえたが、卓は一向に起きようとしない。
(うるさいな。休みくらい寝かせてほしい)
卓は目を瞑っていた。耳にした言葉が嘘だと頭の中で思っていた。
しかし、卓に近づいてくる重い足音が聞こえてきた。そして、次の瞬間だった。
卓が眠っている部屋の扉が開いたかと思うと大きな声が聞こえてきた。
「卓、起きなさい! 進路が決まっているからって学校サボるな!」
とても大きめな声が卓の耳を劈いた。近所迷惑だとも気にもせず。
「なに、言ってるんだよ! 今日は土曜で休みだろ! 寝かせてくれよ」
大きな声に卓はお構いなく対抗する。
「は? 今日は木曜日よ。遅刻しても知らないわ」
大きな声を出した美琴が呆れて溜め息を零し、部屋を出ていってしまった。卓は枕元にあった携帯に目を落とした。土曜のはずが画面には木曜日と映し出されていた。
(え? 昨日は金曜日だったはずだろ? どうなっているんだ)
卓は携帯の日付を見ながら困惑していた。ただの日付なのに気を取られているせいで周りに気付いていなかった。
「もう一度言うわよ! 卓、遅刻は許さないからね!」
美琴の大きな声が卓の耳に響く。卓の目はすっかり覚めていた。
(うるさいな。朝からよく大きな声が出せるよな。近所迷惑だっての)
さっきの驚きから一変し、卓は冷静に心の中で呟いていた。
そして、今起きた出来事に肩を落としつつもゆっくりと立ち上がると、仕方なく学校へ行く仕度をした。
数分後、卓は学校に到着した。ギリギリの時間に起きたが、遅刻は運良く免れた。卓は教室に入るなり机に顔を伏せた。
「よ! 卓、眠そうだな。寝坊か?」
声を掛けるのは同じクラスの昂だ。
「それがさ、今日」
卓が言いかけた時、ちょうどホームルームの鐘が鳴ってしまった。昂は自分の席に戻っていた。
それからは休日になるはずの今日が前日に戻っていた事を疑問に思いながら、卓は授業を受けて過ごした。もちろん授業の内容など頭には入らなかった。
時が過ぎていつの間にか昼休みになり、卓は友人たちと休憩室に集まって各々パンやおにぎり、お弁当を持ってきて食べていた。
「そういえば、卓が眠そうにしてたって? 珍しいね」
稀が昂から話を聞いていたのだろうか話し始めた。
「そ、その話なんだけどさ。休日かと思っていたのに時間が戻ってたのって信じる?」
卓の言葉に周りが固まった。
(俺、なにかいけない事を言ってしまったか?)
沈黙の空気に卓はふと思う。
「あはは、なに言ってるの? 寝ぼけてるんじゃないの?」
「そうだぜ。もしかして、勉強のしすぎで疲れてるんじゃないか?」
沈黙を破ったのは稀の一言だった。それに乗っかるように昂が心配そうに言った。
「そうか? それもある得るか。でも、勉強って言ってもそんなにしてないけど」
卓は二人の言葉に納得した様子を見せたが、思い返すと心当たりがなかった。
「輝もそう思うよな?」
突然、昴は輝に話を振った。
「え?」
輝は驚いた表情を浮かべた。それは突然すぎる問い掛けだったせいだろうか。少しの間が流れる。他の皆は輝のほうを見る。
「そうだな」
今まで卓たちの話を聞いてばかりの輝が頷いて軽い返事をした。卓は少しの間があったことに不思議に思った。 一度、卓は瑠里のほうを振り向いた。なぜなら、輝と瑠里は仲がいい。仲がいいというより二人は……。
その直後だった。さっきと同じようにタイミング悪く鐘が鳴り出した。
「え、マジか。やばい。卓、俺たち移動教室だ! 早く教室戻って準備しないと!」
鐘の音を聞くなり、昂が焦り始めた。卓は休憩室の掛け時計を見て周りを見渡すと昂と同様な様子を見せる。周りには人が少なくなっていた。
「輝たちも早くしないとやばいぞ。じゃあな!」
「待って。私も一緒に行く!」
昂の言葉にクラスは違えど稀が立ち上がる。
「俺たちはまたあとで行くわ」
「そうか、分かった。またあとで!」
卓は急いで昂と稀と一緒にその場を後にした。輝と瑠里を残して。
輝と瑠里が元気無さそうな表情だったのが気になった卓。放課後に聞けば大丈夫だと思い込んでいた。
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次話更新は来週の土曜7/15の予定です。
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