18話 二度目の夢と楽しいひと時
卓、輝、瑠里が話し合いをした日から結構経った。あれから一ヶ月くらい経ったが、何も分かったことがなにひとつなかった、ように思えた。卓はまたあの不思議な夢を見た。
それは雲がどんよりしていて、雨が降っていた。雨が降るなんて事はこの季節にしては驚くことではなかった。それもちょうど六月の梅雨に差し掛かったばかりだったからだ。
「ねえ、梅雨って好き? 私は苦手かな」
突然、卓に問いかける後ろ姿の少女が目の前に現れた。あの時の夢と同じ声の少女だった。
「……」卓は黙って考え込んでいた。
考える事でもないと思う問い掛けのはずだが、そうさせたのは今の状況からだろうか。
「ねえ、卓ってば! 卓?」
卓の沈黙に少女は呼び掛けて、卓のほうを振り返る。卓は少女の顔を見てあの時の少女だと確信した。
「んーと、俺も雨は苦手」
少し考え込んでから答える。不意に苦笑いしてしまったのか、顔がやや引きつっていた。
「一緒だ! なんだか嬉しくなってきちゃった! でも、梅雨が好きな人なんて少ないだろうね」
少女が卓に微笑みかけた。それにつられて卓も思わず笑みを零す。そこで少女の姿が忽然と消えて卓の目の前が真っ白になった。
「痛っ!」
不意に卓の頭が何かに叩かれた。卓は頭に痛みを感じると思わず声に出して起き上がった。
「お! 起きた起きた。卓、おはよう」
卓の目の前に昴の顔が現れ、手には教科書を持っていた。おそらくそれで叩かれたのだろうか。卓は回りを見渡すと、なぜだか卓の友人たちの姿が目に映った。
「え? 皆集まってどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもねえって。お前寝てたじゃん」
卓は目を擦りながら突然現れた目の前の昴に驚き、友人が集まっている事に疑問を抱いた。卓の疑問に昴が答えると、そこに居た友人達は卓を見た。
「俺が寝てた?」
卓は益々訳が分からなくなりぽかんとしていたが、我に返って辺りを見渡した。覚えているのは少女の姿と雨が降っていた事。本当はそんな光景は全くなかった。
今居る場所はどうやら学校の教室らしい。教壇の上に掛けてある時計は午後三時半を示していた。窓の外を眺めると部活動中の生徒達の声が聞こえてくる。
「放課後か」卓は小さく呟いていた。
「卓も起きたし、早くカラオケ行こうぜ!」
「行こう行こう!」
元気な声で昴が急かすように言うと、稀が続いて言う。卓は混乱していた。
(カラオケ? そんな事言ってたか? しかもみんなで?)
覚えがない記憶に次々と疑問が浮かぶ。卓は不意に輝と瑠里のほうへと向く。二人は軽く首を横に振るだけだった。
「よし、行こう!」
卓は昴に引っ張られるように教室から廊下へと連れていかれた。後ろに稀。その後ろに輝と瑠里もついていった。廊下を進んでいき、下駄箱へ。靴を履き替える途中に通りかかった知らぬ誰かが『テスト』と発した言葉を卓は耳にしていたが、何の事かさっぱり分からずそのまま外へと飛び出す。
それからは友人達と一緒に部活動に励んでいる後輩の声を背に、校門を抜けて学校を去っていった。
「やっぱり、稀って歌上手いよな。俺も上手くなりたい!」
「えーそうかな? 昴も上手いと思うけど」
楽しそうに会話をしている稀と昴。あれから数十分経った今、カラオケに行くと決めた卓とその友人たち合わせた五人は駅前のカラオケ店で順番に歌っていた。楽しんでいるかに見えたのは稀と昴だけ。
後の三人はどこか浮かない表情をしていた。その訳は『逆戻り』の生活が原因だろうと卓は思っていた。
「ねえ、確か来週にテストあるんじゃなかったっけ? 廊下で話してたじゃん」
「そうだよな。こんな事してる場合じゃないはずだよな」
卓は何か勘づいたのか、不意に輝と瑠里のほうを振り向く。二人はこそこそ話していた。それは囁くような声の大きさではなかったためか、卓にも少しだけ聞き取れた。
(テスト? あ、そういえばあったような。でも、逆戻りしているから気にしなくてもいいのでは?)
そんな事を思う卓。
「卓! 次、卓の番!」
卓は我に返って声のするほうを向くと、稀が手に持っていたマイクを卓に渡そうとしていた。
「あ、悪い」
卓がマイクを受け取ると、先に選んでいた曲がタイミング良く流れ始めた。中間に差し掛かるとテンションが高い昴や稀が合いの手を入れる。
そうして、楽しんだ時を過ごしたせいか重要な事などすっかり忘れていた。
作者のはなさきです。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
感想くださった方ありがとうございます。もう少ししたら時系列的なものを入れてみようかと思います。
さあ、再び夢を見た卓。そして、重要な事とは?展開を更に大きくしたいものですが執筆時間によりゆっくりになってしまいます。
次話更新は来週の11月11日(土)の予定です。※予定変更の可能性あり
ではでは。良ければ感想、アドバイス、ブックマークなどしていただけると嬉しいです。