16話 一致と急かし
学校のお昼休みの事だった。
「ねえ、輝はどう思う?」
「そりゃ、憂のことなんじゃないか?」
「やっぱり」
卓が輝と瑠里に近づくまでに聞こえてきた会話。二人は卓が来たことに気付くと、そこで会話は途切れた。
「なに話してたんだ?」
「いや、何も。ねえ、輝 」
「ああ」
卓の問い掛けに二人は話を合わせるかのように言った。卓には分かっていた。聞いていたのだから。
それは僅か数分前に戻る。卓が昼食を買うために学校の購買から戻ってきた時の事だ。休憩室の場所にいた輝と瑠里のところに戻ろうとした時だった。
「そういえばさ、私たちがこの時間を過ごして、大体三ヶ月は経つよね」
「そうだな。何も情報がないよな」
「私、どうすればいいのか分からないよ」
「大丈夫。いずれ戻れるさ。そのためには情報交換が重要だ」
「だといいけど……」
卓はすぐ近くのテーブル席前で二人の会話を聞いて無言のまま立ち止まっていた。幸いにも気付かれなかった。盗み聞きはするつもりはない卓だったが、同じ状況の不安が押し寄せてきて動くことが出来なかった。
「それに比べて卓はいいよね」
「……」
「この間、言ってたことも、」
「……」
瑠里が話していても輝の無言は続いた。
(おい、何か言ってやれよ)
咄嗟に卓は心の中で呟いていた。
「ねえ、輝はどう思う?」
「そりゃ、憂のことなんじゃないか?」
「やっぱり」
さっきの会話が聞こえてきたわけだ。卓はどういう事か気になって、二人のところに戻って話に加わろうとした。だが、上手く誤魔化された。
「憂っていう人の事で話していたんじゃないのか?」
「えーと、」
卓の質問に二人は目を泳がせた。
「それよりも昴と稀はここにきてないんだな?」
突然、輝が違う話を持ち出してきた。
「そ、そうだな」
卓は突然の問い掛けに戸惑った。
「そういえば、二人で食べるって言ってた」
瑠里は思い出したように話した。
「それよりさ、」
「悪い。俺たち食べ終わったから教室に戻るわ」
輝は卓の言葉を遮って食べたものを片付けて、瑠里の腕を強引に引っ張ってその場から去ってしまった。
卓は引き止めることなくテーブル席に座った。休憩室の時計を見ると、時間はそんなに経ってないように思えた。周りでは他の生徒達の声が聞こえてくるのに卓は独りポツンと居る、そんな感じになっていた。
「なあ、この後、」
「悪い。約束があるんだ。先に帰る。じゃあな」
時間はあっという間に放課後になり、卓は皆で集まろうと同じクラスで席の近い昴を誘おうと話し掛けた。卓が誘いの言葉を発する前に昴は約束があると言って鞄を持って先に教室を出てしまった。
(どんな約束だ?)
卓はそんな疑問が浮かんだ。不意に卓の横に輝と瑠里が来ていた事に気付き、少し驚いた表情をする。
「今日皆で集まろうかと思ったんだが、さっき昴が先に帰るって、」
卓が二人に説明するように言う。
「あ、それなら稀が昴と一緒に帰るって、」
『え?』
瑠里が答えるように言うと、輝と卓の驚きの声が重なった。二人は無言のまま急いで教室を出た。
「ちょっと、鞄はどうするの!」
瑠里は二人の急な行動に驚いて追いかけようとしたが、諦めて卓の机に置きっぱなしの鞄に視線を落とした。
「仕方ないな。あと、ついていこう」
呆れた溜め息をつきながら、呟くと瑠里は机の鞄を取った。それから、二人の後を追うことにした。
「なあ、もう校内には居ないんじゃないか?」
「それもそうだな。諦めるか」
卓と輝は稀が居ると思われる教室、昇降口、自転車置き場、校門を順に回ったが、昴と稀を見つける事は出来なかった。見慣れた昴の自転車も無くなっていたため探すのを諦めた。昴と稀は既に校外だった。
「もう、どうして二人とも先に行っちゃうの? ほら、鞄忘れてるよ」
二人に追い付いた瑠里は持っていた鞄を卓に渡す。
「あ、ありがとな」鞄を受け取る卓。
「仕方ない俺達も帰ろうか」
卓が諦めて帰ろうとした時だった。
「待て、丁度いい。情報交換を俺の家でしよう」
輝が提案をした。瑠里は納得した。卓は輝の言葉に不信感を抱いていた。この言葉を信じるべきか否か。
それでも、卓は立ち止まる事は出来なかった。二人の後について行こうと決めた。
それが正しいのか分からずに。
こんばんは。作者のはなさきです。
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時間が進むにつれ輝の行動が不信になっていく卓。そして、前を進むと何かが分かってくるのか。
次回更新は来週10月28日の土曜の予定です。※予定変更の可能性あります。
ではまたの更新を。




