15話 授業中で見た夢
それはちょうど、暑い日の雲一つない空の日のことだった。
「それにしても暑いね。七月でこんなに暑いと八月どうなるんだろうね」
「あ、ああ」
見慣れない少女が制服姿で卓を見ながら言う。少女の言葉を聞いて頷くように答える少年。その返答はどこか覚束無いようだった。
「そうだ! この後、映画観に行こう」
「でも、」
「学校終わりのこの時間が貴重だよ。ねえ、行こう」
「わかった」
元気な少女に素っ気ない返事をする少年。暫くすると、二人で目的の場所まで向かっている姿が映る。二人の姿がどこか微笑ましい。だが、それもここまでで途切れてしまった。その理由は……。
「……く。たく。卓!」
「痛! なにするんだ、よ」
不意に卓を呼ぶ声が聞こえた次の瞬間、叩く音と共に卓の頭に痛みが走った。痛みに思わず声に出した卓は頭を上げて辺りの状況を把握した。
「なんだ? 菅原寝てたのか! マイナス五点な。じゃあ、菅原の代わりに夏河。二番の問題をよろしく」
「はい!」
どうやら卓は授業中に眠ってしまっていたようだ。月に一度の席替えをしていたため、卓は居眠りの最中に後ろの席にいた昂に叩かれていた。叩かれた後は卓の代わりに後ろの席の昴が問題を解いて、その授業は難無く終えた。
授業が終わった後の休憩時間。教室内の皆は他クラスの人達を交えてそれぞれが話で盛り上がっていた。
「さっきの授業寝てるとか真面目な卓にしては珍しいだろ。つーか、俺に問題が回ってくるなんて予想はしてたけどさ、感謝しろよ!」
「あ、ありがとう。助かった」
卓と昴もそれぞれ話していた。昴が言う通り、卓は今まで授業中寝てることはほとんどなかった。今回が初めてだといってもいいくらいに。
「な、今度奢ってくれよ。そのくらいに値することやったんだからな!」
「なぜ、そうなる。まあ、いいか」
随分と上から目線な昴に理解出来ない卓はちょっとイラッとしたが、呆れて仕方なくといった溜め息をついた。ちょうど席が窓際だった事もあり、窓の外を眺めた。
「あれ? そういえば、」
昴が思い出したように何かを言いかけた時だった。タイミング悪く次の授業の始まりの合図の鐘が鳴ってしまった。卓は昴が何を言おうとしたのかが気にはなったが、授業担当の教師が教室に入ってくると直ぐに教科書を準備した。
他の生徒達は教室に戻ったり、席に戻ったりし、教室が少しざわついた。
「今度は寝るなよ。今日の日付からしてまた当たるかもしれないんだから。頼む」
卓の後ろの席の昴がこそこそと卓に話し掛けると、卓は今日が何日か思い出した。今日は十五日。卓の出席番号と同じ日。授業中に当たる確率は充分に有り得る。先程だって昴のおかげで当たりはしなかったものの実際当たってたのだから。今度こそは寝ないで頑張ろうと思った卓だった。
それから数時間後、お昼休みの時間だった事もあり、卓とその友人達が集まり、それぞれ食べ物を食べていた時だった。
「そういえばさ、卓のやつ初めて授業中に寝てたんだぜ」
「ぶはっ!」
不意に話題を切り出した昴に卓は飲んでいた飲み物を吹き出してしまった。
「ちょっと、卓。汚い」
「はい、これ使って!」
女子たちが卓を見て口にする。瑠里が咄嗟の対応で小さなハンカチタオルを二枚渡す。
「あ、ありがとな」
「いいから早く拭いて。汚いから!」
大きめの声で瑠里が言うと、卓の友人達は笑い出す。 ただ一人を除いては。卓が汚れた服の裾、机を拭くと落ち着きを取り戻した。
「昴、酷いじゃないか。わざわざ寝てたことを言わなくていいじゃないか」
「いや、だって珍しいことを言いたくなったからさ、」
「確かに真面目な卓にとっては珍しいね」
「だろ?」
昴の話に稀が珍しいと納得する。
「珍しいって。そんな納得しなくてもいいだろ。それよりさ、夢を見たんだ」
「普通、そんな短い時間に夢を見るか。まあ、どんな夢か教えろよ」
「私も知りたい!」
『夢を見た』という言葉を出した卓に昴と稀が興味津々になって微笑んでいる。
「よく分からないが、俺と同じ年くらいの女の子と一緒に会話している夢だった」
元気な少女と素っ気ない返事をする少年。少年は卓自身だった。
「あはは、なにそれ」
「本当、なにそれだよ。まさか、卓誰かに恋したのか」
卓の言葉に昴と稀が笑い出した。瑠里と輝は笑っていなかった。真剣な顔をしてお互い見て頷いていた。何かを悟ったのだろうか。
卓は何も知らず昴と稀と楽しそうに会話していた。
こんばんは、作者のはなさきです。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
ついに卓と昂の苗字が判明しました。他の登場人物も後に苗字を出していこうかなと思います。
卓が見た夢の意味とは何だったのでしょうか?
次話更新日は来週の10月21日(土)の予定です。※毎週土曜の予定ですが、変更の可能性もあります。
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