13話 すれ違い
突如、卓の家に電話が掛かってきた。
「はい、もしもし」
ちょうど、卓が受話器を取って出た。
「もしかして、卓か? ちょうど良かった。俺だけど、約束を忘れたのか?」
少しの間を置いて、第一声で卓の声だと認識した輝は問い掛ける。
「約束? あ、悪い」
卓は『約束』という言葉にきょとんとしていたが、直ぐに何かを思い出した。
「今、何時だと思う?」
電話越しで怒ったような口調の声が聞こえてきた。
「午後三時だな。本当、悪い。瑠里と一緒に居るのか?」
卓は咄嗟に家の掛け時計に目を向け答える。
「瑠里は今いない。それよりも例の事で話がある。今すぐ来てくれないか?」
輝はそう言うと、電話を切った。卓は輝の雰囲気を不思議に思った。いつもより異様だと感じた。
まさか、昨日の帰りの出来事のせいではないのかと考える。考えただけでも恐怖が押し寄せてきた。一方で例の事で話があると行くしか選択肢がない。すぐさま準備をし、外へと出た。
暫くして、卓はある家の前に居た。入るか入らないか躊躇っていた。それはさっきの電話での事があったからだ。
「あら、卓くん? 待って、今呼ぶわ」
突然、手に買い物袋を提げた女性が卓の姿を目にし、声を掛けて家の中へと入っていた。どうやら買い物袋を見る限り、その女性は今まで買い物へ行っていたらしい。卓は不意に起きたことに少しばかり焦っていた。
数分後、さっきの女性と入れ替わるように家の中から誰かが出てきた。
「なにしてるんだよ。早く入れよ」
「いや、輝。いつもより怒っているのは気のせいか?」
「いいから入れよ。時間ないだろ」
家の中から出てきたのは輝だった。卓は輝の異様な雰囲気に不安を持ちつつも、少々会話をして仕方なく輝の家の中へと入っていた。
「それで話って何か分かったことがあるって事か?」
卓は輝の部屋に招かれると話を切り出した。
「…………」
輝は話すことはなく、黙って卓に睨みつけるような視線を送っている。卓にはそう見えた気がしたのかもしれない。少しばかりの間が空気を重くさせる。
「卓、お前。ふざけるな!」
口を開いた輝が予想もしてない言葉を大声で発した。
「え?」
「え? じゃねえよ! 憂が死んだから、次は瑠里と付き合うのか?」
思わず声が出てしまった卓に突っかかるように怒鳴る輝。一方で、突然の事で卓は混乱していた。混乱と輝の冷徹な視線の中でなんとか言葉を探そうとする卓。
「なに言ってるんだ? 瑠里は輝の彼女だし、付き合うわけないだろ?」
「…………」
さっきの態度とは一変し、輝は卓の言葉にまた黙ってしまった。
「悪かった」
輝は急に冷静になったのか、卓に頭を下げて謝る。
「気にしてない。それよりも例の事で何か、」
気にしてないと言うと、それは嘘になると卓は言いたかったが、言えずに話を進めた。言い切る前に輝が首を横に振った。例の事とは『逆戻りしている日常』のことだ。彼らともう一人、瑠里はそんな普通じゃない日を送っている。
「なにも無い。正直、俺はどうしたらいいか分からない。戻ったまま生活を続けるしかないとさえ思う。けど、」
輝は頭を下げ俯いた。何かを言いかけた様子だったが、それ以上何も言わなかった。
卓は言葉を聞いていて、疑問を抱いていた。だが、口には出さなかった。
「それよりもさ、情報交換は瑠里が居る時に話そう。そのほうが伝えやすいしな」
卓は不意に部屋の窓の外を見やると、辺りはいつの間にか日が沈んでいた。その後、卓が帰ろうとしたところ、玄関で輝の親に夕飯を一緒にと誘われた。一言断って、輝の家を後にした。
帰り道の事だった。
「あれ、こんな時間に?」
普通ならこんな時間に見かけない人物を遠目で見かけた卓は疑問を抱いた。信号がある交差点でその人物を見かけた。空が暗くなりつつある中での信号機の前。赤信号でその場所で止まる人々の中、卓の向かい側にその人物がいた。しかも一人じゃなく、卓の視線に映るのは二人。
車がその人物達を遮るが、確認出来た。卓は彼らが誰だが気付くが、向こうは話に夢中で気付く気配がない様子だ。
数分が経った頃に信号は赤から青に変わった。卓と向かい側の人物が歩き出す。それなのに卓に近づこうとする二人は卓に気付かない様子だ。
どれだけ話に夢中かは分からないが、卓にとっては不思議でならなかった。
そのまますれ違いになってしまった。卓はその場に留まり立ち尽くしていた。
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
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もっと頑張り文章力をつけたいものです。
次話更新は来週の10月7日の予定です。※予定変更の可能性あります
まだまだ書きたい内容たくさんなのでがんばります。
今後もよろしくお願いします。




