12話 渦巻く混乱の中で
車が走行し始めてから数十分の事だった。既に車は目的地に着いていた。用事があるという瑠里と輝が降りて車の扉が閉まろうとする時、卓が口を開いた。
「あの、すみません。俺も用事があるので降りたいんですけど、」
卓の言葉に乗っていた皆が振り向く。
「卓くんもか」
溜め息をついたのは女性ではなく男性だった。
「すみません」
「いや、大丈夫だよ。また今度よろしく」
その言葉を後に卓は車を降りた。卓は車を降りた後、車内の昴と稀を見る。二人はどこか嬉しそうな顔を浮かべていた。それから、車は走り去っていた。
「なあ、瑠里。これどういう事だ?」
「え、この後三人で例の事で話し合おうと思って。まずかった?」
「まずいも何もこの後約束してただろ」
車が去った後、数秒間経つと直ぐに二人が話し始めたが、なぜだか言い争っているような雰囲気に卓は割って入る事も出来ず黙っていた。
「約束はしてたけど、それよりも今日の状況を卓に説明したりしなきゃいけないと思う」
「説明はまた明日でもいいだろ。約束してた今日しかないかもしれないじゃないか」
「いや、でも、」
言い争いは続き、気まずい空気が更に増していく。
(どうすれば、)卓はこの状況に戸惑い始める。
「卓、ごめん。明日、午後に輝の家に集合って事で。じゃあまた」
卓は瑠里の声が聞こえると我に返った。卓が悩んでいるうちに言い争いはいつの間にか終わっていて、瑠里が輝を連れて手を振って帰ろうとしていた。この状況をなんとか乗り切った卓はホッと安心していたが、輝が睨みつけるような視線を送っていた事に少しばかりの恐怖を覚えた。
(いつもの輝とは違っていたけど、あれはなんだったんだろう)
そんな事を頭の隅に卓は帰路についた。
午後十二時過ぎの事。卓は家に帰ると驚いた。なぜなら、玄関を開けるとそこには卓の帰りを待っていたかのように姉の美琴が立っていた。
「お母さん、お父さん。卓が帰ってきたわよ」
リビングに居るであろう母と父を呼びに声を掛けた。卓はあまりの出来事に口をぽかんと開けたまま、靴を脱がないまま固まっていた。
数分もしないうちにリビングから母がやって来た。
「どうだった? 憂ちゃんのお墓参り」
卓の様子を見て第一声を発した。その事に卓は驚いて頭の中は混乱で真っ白だった。
「卓?」
その様子に心配そうに卓を見つめる母。後ろで父もチラッと顔を覗かせていた。
「卓、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。それでなんだっけ?」
卓は二回目の呼びかけに冷静に答えて硬直した足をやっとの思いで動かした。
「憂ちゃんのお墓、」
卓の母はそう言おうとしたところ、後ろの父に遮られてしまった。
「なんでもないかな。ごめんね、お昼ご飯食べよう」
母は苦笑いしていた。卓にはその姿がなぜだか、遠慮しているように見えた。昼だと言う事を思い出してリビングに向かった。
昼から数時間が経った頃。卓は自分の部屋で寛いでいた。今日あった出来事が余りの事で、頭の中で整理するのに時間が必要だった。
(今日、予想もしてない事があり過ぎたからな)
皆が知っていて自分だけが知らない事実が判明した事。過去に『憂』という同級生が居た事。『憂』という人物が既に亡くなっていた事。卓の母も父も『憂』を知っていて自分から言ってもない『お墓参り』に行っていた事も知っていた事。
それに、事実かも分からないが、その『憂』という人に好意を寄せていた事も。後は輝の様子が途中からいつもと違っていた事も今日あった出来事の一つだった。そんな事を一つ一つ卓は頭の中で整理していった。
不意に卓の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「卓、私。今日本当に大丈夫だった? 無理しないで何かあったらお母さんかお父さんに言いなさいよ。一応、あれでも医療関係の仕事している人達だから」
「美琴姉ありがとう」
どうやら、卓の姉の美琴だったらしい。美琴は扉越しにそれだけ言うと、足跡をたてて行ってしまった。卓は美琴の言葉を聞くと、お礼だけ言い返してはフッと笑みを零した。
(父さんと母さんの事を一応あれでもって失礼じゃないか)
知らず知らずのうちに内心呟いていた。その後は何もせず、部屋でのんびりと過ごした。
こんばんは。最後まで読んで下さりありがとうございます。
いかがだったでしょうか?よければ、感想などお待ちしております。ぜひぜひ
突然思いついた物語も入れながら書いているのでもっと内容をしっかり練ったものが書きたいなとふと思いました。
次更新の予定は来週の9月30日の土曜日です。※変更の可能性があります。
ぜひとも次回も読んで頂ければ嬉しいです。よろしくお願いします。