11話 お墓参りと鋭さと
あの後、卓たちを乗せた車は緑が囲まれたとある場所に止まった。卓は車から降りる前からも降りてからもほとんどどこか上の空状態だった。しかし、それは突然だった。青く澄み渡っていた日のことだった。広い緑に囲まれたとある場所。
少女と思われる両親と友人三人とここに来ていた日の事が卓の頭の中に流れてきたのだ。一瞬で流れて、すぐに消えた。消えると強い頭痛が襲ってきた。
(痛っ!)
少しの間だったのだが、頭に痛みが走った卓は頭を抑えた。
「卓くん、大丈夫?」
その様子に気付いた女性が声を掛けた。
「少し頭痛がしただけで、大丈夫です」
卓は答えると、苦笑いを浮かべた。同じ『逆戻り』の状況の輝と瑠里が心配そうな顔で卓を見ていた。その後、卓は今いる場所に検討がつかなかったが、数歩歩くとどこだか分かった。
辺りは静かだが、広く明るい。
「?」
目の前にはたくさんの墓があった事に卓は驚いて立ち止まってしまった。そこは墓地だったのだ。
「卓、驚いたよな。憂に会いに来るってこういうことなんだよ」
立ち止まっている卓に気付いた輝が近付いてきて誰にも聞こえない声の小ささで耳元で囁いた。
「会いに来るって、まさか、」
頭では分かっているのにも関わらず、卓は声に出して言った。
「いいから、行こうよ。行けば分かるってば」
輝の隣にいた瑠里が急かすように卓の言葉を遮って二人のほうを振り向いて言った。瑠里は輝の腕を引っ張り女性と男性についていくように先に行ってしまった。昴と稀も先に行っているため、卓は一人その場に残された感覚を覚えた。安堵ではない、ため息をついて追いつくように歩き出した。
数分後、卓たちと女性と男性合わせて七人はある墓石の前に辿り着いた。墓石には苗字が掘られていた。その近くにあった小さな墓石を見ると、幾つかの名前があった。その中には憂という文字もあった。
(憂という人が亡くなっていたとは、しかも同級生だなんてな)
卓は憂という文字を眺めながら思っていた。
時間はあっという間に経ち、お墓参りも一通り終わった頃、帰ろうとしていた。不意に男性が皆を見渡した。
「せっかく来たんだし、お昼をどこかで食べないか?」
皆は嬉しそうな顔を浮かべた。ただ一人、卓だけはどこか浮かない様子だった。その姿を見ていた者がいた。
「あの、私たち用事があるんです。申し訳ないですけど、また今度食べに行きましょう」
瑠里がそう言って隣にいた輝の腕を組んだ。輝は突然の事に驚いていた。
「あらあら、デートかな?」
瑠里の言葉に笑顔で問いかける女性。
「仕方ないか。じゃあ、今度食べにきてくれないか? なあ、いいだろう?」
男性ががっかりした様子をした後、女性のほうを向いた。
「もちろん。今度は皆で家に来るといいわ。その時はご馳走を作ってあげる」女性は微笑んだ。
「じゃあ、車の所まで戻ろう」
男性がそう言って歩き出すと、皆はついていった。車まで着くと、皆は男性と女性の合図で車に乗り込んだ。行きと同じで女子二人は中央に、男子三人は三列目の座席にそれぞれ座った。
「ねえ、卓。この後、私たちと会議をしよう。だから、降りる時にお昼断ってくれると、」
車に乗る際に瑠里が卓に小さな声でこそこそと話し掛けた。しかし、瑠里はある視線を感じて直ぐに止めた。
「さっき瑠里になんて話し掛けられたんだ?」
車が走行中、卓が窓の外を眺めていると不意に隣に座っていた輝に話しかけられた。卓が横を振り向くと、それに合わせて輝の鋭い視線が刺さった。
「いや、この後三人で話し合おうって言われただけで」
しかし、その言葉も直ぐに信用してはもらえず、輝は鋭い視線から表情が変わらなかった。ふと、前の女子達を見る卓だが、その視線の先には瑠里が映る。女子達は後ろの男子が座っているほうへは向かず助手席に座っている女性との話に夢中だった。
卓はどうすることも出来ないこの状況に耐えなければいけなかった。
「なになに、二人して。喧嘩してるのか?」
突然、横から昴が二人の話に割って入ってきた。
「こんな日に喧嘩なんてよくないだろ?」
昴が続けて言うと輝は鋭い視線を昴に向けた。
「なんだよ。何かあったか知らないけど、そんなに睨みつけるなよ」
輝の視線に怯まず落ち着かせようとする昴だったが、苦笑いで誤魔化していた。空気は重たいまま、車は走り続けた。
こんばんは、はなさきといいます。
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