10話 遅刻と向かう先にあるもの
ここは凪中央駅。商店街があり、それぞれ賑わっている。バス乗り場もあり、バスで数分のところに凪東高校がある。駅から離れれば緑にも囲まれている。そんな駅には四人の人物が人を待っていた。
「卓、遅くない? 本当に呼んだの?」
少しイライラした表情を浮かべて呟くように言う瑠里。
「呼んだのは確かなんだが、それにしても遅いよな」
答えるのは瑠里の隣に立っていた輝だ。
「まだ待ち合わせの時間から十分しか経ってなくないか?」昴が言う。
「そうだよ。まだ十分しか経ってないよ!」
昴に続いて稀が言う。しかし、輝と瑠里は不安に思っていた。
「何も起こってないといいんだけどな」
輝は昴と稀に聞こえないような小さな声で呟いていた。四人は夏真っ盛りな暑さと戦いながら仕方無く卓を待つことにした。
五分後、凪中央駅に卓が到着した。
「皆、悪い。お待たせ」
卓は駅に着くと改札で待っていた友人たちを直ぐに見つけて、頭を下げた。
「もう、遅いよ。十五分も遅刻して」
四人が卓の声に気付くと、第一声を発したのは稀だった。稀の横で不機嫌な雰囲気を出していた昴には誰も気付かない。
「こんなに遅刻する卓は珍しいな。何かあったのか?」
輝が珍しそうな顔をして卓に訪ねた。
「いや、それがさ。母さんと父さんが珍しく家に居て、皆で出掛けるって言ったら一緒に行くって聞かなくてさ」
卓は遅れた理由を苦笑いで言葉にした。それを聞いていた四人は卓が知らない事実を知ってか、とても嬉しそうではない表情をそれぞれ浮かべていた。
「なあ、卓。憂のさ、」
「話もその辺にしといて、そろそろ行こう。待たせると悪いし」
突然、卓の話に輝が何か言おうとしたが、気を利かせてか瑠里が遮った。本来の目的を忘れまいと少しばかり焦っていた。
「よし、行くか!」
「うん」
昴が気合いを入れるように言うと、稀は首を縦に振った。
「行くってどこに? 待たせるって?」
「いいから。私たちについてきて」
なにも知らずに一人でその場に来た卓は浮かんだ疑問を口にした。その理由も教えずに瑠里が卓の背中を押して引き連れていった。
暫くして、五人が来たのはある車の前だった。車には運転席に男性、助手席に女性が乗っていた。いずれも若くはない。五人の高校生に気付いた女性が助手席の扉を開けてにっこりと笑っていた。
「おばさん、こんにちは。今日はお願いします」
「瑠里ちゃん、こんにちは。皆も揃って来てくれてありがとうね」
瑠里がその女性に声を掛けて頭を下げると、おばさんは嬉しそうに口にした。それから五人を眺めた。すると、他の三人も挨拶代わりに軽く頭を下げた。卓も遅れて、会釈する。卓が頭を上げると視線を感じた。
その視線は女性からだ。女性は卓を静かに見つめていた。それが何を意味するのか卓は分からなかった。
「それじゃ、車に乗って」
女性の言葉を合図に車の後ろの扉が開いた。順番に車に乗り始めたが、卓だけはその場に突っ立っていた。卓が黙っていると、先ほどの女性が車から降りて卓に近付いてきた。
「卓くんだったよね? 今日はよろしくね」
優しく卓に話し掛けた。その姿は本当に優しくて嬉しそうな顔をしていたのだが、卓にとってはちょっぴりどこか物悲しそうな顔をしていたように見えていた。
「は、はい」
女性に向けて卓は返事をした。全員が車に乗り込むと、車はものの数十秒で動き出し、どこかへと出発した。
運転席と助手席には見知らぬ男性と女性。その後ろの席には女子二人。三列目の座席には男子三人。高校生といえど男子三人が座る三列目の座席は少しばかり窮屈だった。目的地に着くまではこんな会話を卓は聞いたり、話したりしていた。
「ねえ、おばさん。急にごめんね」
「いいのよ。それよりもこんなに憂に友達が居たなんて嬉しいわ」
「憂が居ればいいよね」
女子たちは助手席の女性と楽しそうに会話をしていた。
「なあ、卓って憂の事やっぱり好きだったんだろ?」
「ん、俺が? その憂って誰だか分からないけど、好きではなかったと思う」
「思うってなんだよ。好きなくせに」
三列目の座席に座っていた男子たちは卓の知らない人物である憂の話になっていた。最後は輝の言葉で、会話は途切れた。窓側にいた卓は太陽が照らされ、澄み渡る空を見上げた。
車がどこに向かっているかも分かっていないままで。
こんばんは。はなさきといいます。
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