卒業
駆け足ですが、学校を卒業します。
3. 卒業
「えっと、ノエル様。この大量の招待状どういたしましょう?」
ヒラリーが指し示す方にはうんざりするほどのパーティやお茶会などへの招待状が私の目の前に有る応接室の机の上にうず高く積まれていた。。。。。たった二日前にデビューしたばっかりなのに、一日でこの量かとうんざりしている。
「取りあえず、全てお断わりの返事を出すから用意だけしてくれる?」
うず高く積まれた招待状を見つめながら思わず小さく溜息をついてしまった。
「全部お断りするんですか?無理だと思いますよ。一応平民って事に為ってるんだから、ノエル様。」
「学業を理由にうまい事断るわよ。大丈夫よヒラリー。」
「でも、流石に王家は無理だと思います~ノエル様。」
え!?又王家まで来てるの!とヒラリーが私の目の前でひらひらとさせている招待状には確かにこの国の王家の紋章が蝋封された招待状だった。私は頭を抱えて、こうなるのが嫌だったからデビューなんてしたく無かったのに~!!とダグラス様の顔を恨めし気に思い浮かべながらソフャーでもんどりうっていた。
取りあえず、私一人では処理できる量で無い事は確かなので、今日の午後にでもフィーデラ様に相談して、良い家令を紹介してもらわないと行けないなぁ。と大きなため息をつきながら明日の算段を付けていた。
翌朝いつもの様に一緒に四人でお昼を囲んでいると。
「お前、家令を探しているんだって?フィーデラに聞いたぞ。」
とダグラス様が私にニヤニヤしながら聞いてきた。
「そうなの、大量の招待状が来てるからそれの処理と私のスケジュールの管理、ついでに商売の方も手伝える人が良いかなぁ、ってとこかなぁ。ベテランじゃ無い方が良いかなぁ、っていうかベテランだとこの程度の仕事じゃ失礼だしねぇと思っている。仕事はさほど多く無いし、私の学業と社交スケジュールの管理、アヤカ商会の商売の管理って感じだから、若くて今後経験を積んでいきたいって感じで3年の契約で大丈夫な人。となると結構難しいと思うけど。。。。。」
「それ位簡単だ。一人宛てが有るから聞いておこう。返事を急ぐか?」
急いではいなかったのでその旨だけ伝えると、早ければ次の休みまでには返事するとダグラス様は言ってくれたので、少し安心してダグラス様の返事を待つ事にした。まあその間も招待状で断れそうな身分の方々の分からお断わりのお手紙を出していた訳だが、一向に量が減っていないのは気のせいだろうかと思いつつ、毎日少しずつでも処理をしていた。
そして約束の一週間後、ダグラス様が紹介してくれた人物は私の理想をほぼ完璧と言える程に網羅していた。
「タイラー・リンツだ。家令としてはまだまだ修行を始めた所で家令見習いだが商売にも明るいし、何より王宮の作法や式典等にも明るい。どうだ?お前の条件にぴったりだと思うぞ。」
そうダニエル様から紹介されたタイラーの印象は優し気な中に真の通った雰囲気を持つ意思が強そうな瞳の輝きを見せる青年だった。
「たった三年の契約だけど大丈夫なの?それにちょっとややこしい事情も有るんだけどその辺は聞いているの?色々と他言無用な事も承知の上?」
「大丈夫でございます、ノエル様。全てを承知の上でこのお仕事をお受け致したいと承知させて頂きました。今後3年と短い間でございますがよろしくお願い致します。」
とても綺麗な礼を取る様子を見るからに貴族の出身者だろうなぁと思うが、私には渡に舟なのでありがたくダグラス様の紹介で有るタイラーを受け入れた。
「よろしくね、タイラー。少しずつ私の商売の事やプライベートの管理をお願いするわ。明日から大丈夫かしら?その時に詳しい仕事内容と給金とかの打ち合わせもしましょう。あなたの希望に沿う様に努力するわ。それで良いかしら?」
「結構でございます。それでは私は明日学園が終わります頃にお伺いいたします。」
「ええ、部屋の方で待って入るわ。」
そうして、私は期待以上の上等で優秀な家令を手に入れ、私の生涯のサポートとなる人物を手に入れたのだった。
その裏では。
「ダニエル、お前タイラーを手放したんだって聞いたが本当か?」
「相変わらず耳が早いですね、ベネディクト兄上は。」
「タイラー位優秀な奴はそうそういない、その人材をお前が将来の為に囲いこんで居たのは知っているからな。幾ら男爵家の三男と言えどお前の懐刀候補をね。で、ノエル嬢に付けるという事はお前の気持ちが決まったと思って良いのだな。」
「この事は父上にももちろんバレてますよねぇ。」
「バレて無いと思うほどお前は阿呆じゃ有るまい。」
「ま、ね。取りあえず否定も肯定もしませんよ兄上。もう少しお待ちください。」
そうしてダグラスはノエルへの包囲網の形成を順調に進める準備を始めるのだった。
一方ノエルとタイラーの方も順調に商売の説明、他言する事を禁止する項目などの条件をもう一度確認した上でノエルの身分を明かし、最小限の舞踏会やパーティ及びお茶会の招待しか受けない様に厳重な管理を任せる事を説明していた。
さいわいにして、ダグラス様が言って居たようにタイラーは宮中の事や社交界に詳しくそれらの管理は問題無いと言い切ってくれたので、ノエルは安心してタイラーに招待状の対応とスケジュール管理を任せる事が出来、又それら招待状の返書もヒラリーなどが手伝ってくれたので最小限の仕事で済むように為った。タイラーはヒラリーとも一緒に問題無く仕事が出来る様なので安心していた。
自分のアヤカ商会の方の事業に関してはまだ準備段階の物が多いのでそれの資料を集めてもらったり、現在軌道に乗っている王都の支店の管理をお願いしていたのだが、予想以上にこの分野にも通じており、後はノエルが知っている仕事のやり方に慣れてもらい応用してもらうと言った計画が直ぐに建てれた。
この世界での自分の右手を始めて手に入れた嬉しさで、ダグラス様への感謝が溢れて来ていた。
前世でもそうだが、仕事の上で自分の右手・左手を持つ事の重要さを自覚している。自分で判断して仕事をして仕事の重要性や優先順位を付けれる人材は貴重だし、そういった人物が自分の右手や左手と為って動いてくれるだけで自分は些末な判断をする必要が無く為り、仕事の煩雑さが少なる事は大変大切な事だ。それは管理職としては欠かす事の出来ない重要な事で有り。管理職として些細な事に構っていられない事情もあるのだが、やっと自分にもその右手が出来た。その喜びに少し有頂天に為っていた。
だが、この世界にはPCなど無く、もちろんエク〇ル様もいらっしゃらない。。。。。。その複雑な書面や会計管理システムの見直しなどの構築をしたかった。提出される書類の統一化もしたかったし、幸いにも簿記を取っていたので、その辺の基礎を取り入れながらこの世界に併せて応用して取り入れ、大きく為って行く商会の財務管理にやっと乗り出せそうだと希望が出て来た。これまでは商売や自分のスケジュールの管理だけで目一杯だった為財務管理の見直しにまで手が出せなかった。だけど、これで前世の財務管理のやり方がこの世界でも通用するのかの実験がやっと出来るとワクワクもしていた。取りあえず、基本的なブレインストームの訓練とか、危機管理の為に魚の骨とか色々とツールを少しづつ教えて行くか。と、計画を楽しく組んでいた。
それもこれも全てタイラーと言う優秀な家令のおかげで有る。
そうして、順調に私の商売も私が目指す方向へと一歩を踏み出し始めた。が、社交界の方は頭が痛い状態で有る事は変わりなく、王家や公爵主催の舞踏会やパーティには顔を出すようにしていた。って言うか断れる訳もなくその上半分以上の割合でダニエル様やアレクに連れ回されております。。。。。。
どうやら私のエスコートに関しては、密かにダグラス様とアレクとの間で協定が結ばれた様で必ずエスコートを二人が私とフィーデラ様に交代に行う事、その際の私のドレスなどを一式用意するのはエスコートする人の責任で。と私抜きに勝手に色々と決めているようで、毎回送られてくるドレスや靴が嵩張りつつある。。。。。困ったもんだと愚痴が出るが、同じドレスばかり使い回しが出来ない現実も有るんで、仕方が無いと諦めています。
まあ、社交界に顔を出すおかげでアヤカ商会の商品のアピールとかも少々出来るので、バカには出来ないし、人脈がダグラス様やアレクを通じて広がる事は多いに助かっているのも事実で有る。
そうして、自分のしたい事を好き放題しながら、勉強の方もこの世界の経済構造を学び色々と考える事が出来、大変有意義な学校生活を送っていた。
まあその平穏な学園生活の陰でダグラス様とアレクの二人が私の為に隠ぺい工作を行って居てくれたのを私は全く知らなかったのだが。。。。。たいした社交界での噂や、必要以上の注目を集める事が無かった事を感謝するのはずっと後の事で有る。
そして、大きな事件も無く私の正体もさいわいにしてバレる事も無く平和に時が流れ、ダグラス様も優秀な成績で学校を卒業され、王子としての執務や外遊を忙しくこなしてられて入るのをフィーデラ様から聞き時々お会いしては執務のお話を聞いてと穏やかな時を過ごし。私達も又専門的に為って行く授業に必死について行きながら、新しい事を学ぶ喜びをかみして学校生活を楽しんで過ごしていた。そうして月日は駆け足で流れていった。私が17歳の誕生日を迎えた日、いつもの様に皆が集まってくれて私の誕生日のお祝いをしてくれている。
「ねぇ、ノエル。あなた18歳に為ったらどうするか決めたの?」
「う~~ん、まだ迷ってる。本当にここは居心地が良いからねぇ。私には最高の環境かなぁ。でも、両親とは学校を卒業したら帰国して社交界デビューする約束で出て来てるから、こちらに残るにしても一度は帰国して約束を果たさないと行けないしね。だから、その後どうするのか実際の所全く決まって無い。」
「じゃあ、とりあえず卒業後は一旦帰国するのね。寂しくなるわノエル。アレク様もご卒業なさったら帰国されるのでしょう?」
「ええ、フィーデラ様。私もいったん帰国して落ち着いたら、その後は将来の為に諸国を外遊すると思います。」
「アレク様はしっかりと将来を決めて入らっしゃるのね。ダグラス兄様も最近は外交関係のお仕事で諸国を飛び回っているようですし。中々にお話が出来ておりませんが、アレク様もあの様に為られるのですね。」
フィーデラ様はつぶやく様にお話をされ少し悲し気に微笑んでいた。
「まあ、私の場合もダグラス様と近い状態には為ると思いますよ、フィーデラ様。」
「フィーデラ、そんなに悲しい顔をするものでは無いよ。今日はノエルの誕生日だろう。それに、私もしばらくは国に居るし、ノエルやアレクもまだ学校に居る。余り先の話をするな。」
「ええ、そうよねダグラス兄様。ごめんなさい、ノエル、アレク様。」
そうして私達は少し寂しい気持ちを抱えながらも久しぶりに4人で揃って美味しい食事と共に楽しく話を続けた。
最後の一年の授業は大変だったが最も充実した勉強が出来たのは確かで、私の最終の経済学の卒論は私のMBA時代に鍛えられたレポートを書く力と前世の社会で経験した知識を生かし、こちらの世界に有った形で卒論を仕上げ、その卒論が経済の学会で注目を集めたのも私の最後の学生生活を飾るイベントだった。その公開された卒論を読んだ数々のスカウトやらをうまく断りながらこちらの支店の引継ぎやタイラーの家令継続契約の延期、って言うより一生の契約を結んだりと本当に忙しい一年を過ごしていた。
まさか、その私の書いた卒論が生んだ学園と学会の騒動が原因で私の事が母国に伝わり大事に為っているとは知らずに、のんびりと帰国の準備をしていた訳だが。。。。。。
卒業式が始められる、妙に外部の注目が集まった卒業式だったが。まあ、この国の王女様が卒業されるからそんなもんだろうと思っていたが、どうやらそれだけでは無かったようで。。。。。
やけに学者や商人が多いなぁと言う感想を持っていたが、大して気に掛ける事も無く無事に卒業式を終えた。
「ダグラス様。」
卒業式を終えていつも3人が集まる所には大きな二つの赤とピンクの花束を抱えているダグラス様が私達が来るのを待って入た。
「まずは卒業おめでとう、3人ともよく頑張ったね。レディーの二人にはこの花束を」
そう言ってダグラス様はピンクを中心に配色された花束をフィーデラ様に赤を中心に配色された花束を私にくれた。それはとても大きな花束で私は初めて男の人から頂いた大きな花束に感動していた。
「これは、僕からだよ。一緒に勉強出来て本当にこの三年は楽しかったよ。」
そう言ってアレク様は私とフィーデラ様にお揃いの真珠とダイヤで飾られた少し大きめの髪飾りをプレゼントされた。フィーデラ様にはピンク真珠を使った物を私には青真珠を使った色違いのお揃いな髪飾りで、フィーデラ様と二人で、お揃いだね、と二人で笑い合ってアレク様から受け取った。
フィーデラ様からはアレク様と私には万年筆を下さった。それも又色違いでとても高価な物だと分ったが、私はありがたく受け取った。
そして、私から二人にはこれまた色違いで揃えたガラスで作られていて、この国の風景を透かし彫りにした美しい文鎮をプレゼントした。同じ物でやっぱり色違いの物をダニエル様にも贈った。よくもまあこれだけプレゼントが重ならかったものだと感心したわけだが。
そうして入る内に、別れの時が近づいて来た。私の用意した馬車とアレク様の用意した馬車には荷物が積み込まれ、後は私達が乗り込むのを待つだけだった。
私達はそれぞれ抱きしめ合い、私とフィーデル様は涙を浮かべながら別れを惜しんだ。
だけど、その時間も無く為り馬車に乗り込む寸前にダグラス様が私をエスコートして馬車へと乗り込むのを手伝う前に。
「ノエル、お前のデビューの時には俺がお前のパートナーに為る。そしていつも通りドレスを用意するから、お前は何も用意する必要は無い。解ったな。」
えっ!? と私はダグラス様の顔をマジマジと見つめてしまったが、ダグラス様はにっこりと微笑み私の口の直ぐ傍にキスを落とし私の手を取り馬車へと押し込んだ。
「直ぐに会おうノエル。楽しみにしているよ。」
そう言ってダグラス様は馬車のドアを閉めた。それが合図の様に私の乗った馬車は帰国の途に就いたのだが。私は馬車の中で呆然として今の言葉をもう一度頭の中で確認しながら、うそでしょ。と思っていたが、ニヤニヤと笑うヒラリーやデルタンテ教授とタイラーの顔を見て、私の顔は真っ赤になってしまった。
一方それを見送った三人は。
「ダグラス。お前ノエルに求婚するのか?」
「ああ、他の奴というか彼の国の王子にかっ攫われる前に俺の物だとせいぜい大きな印をつけておくさ。」
そう言ってダグラス王子は微笑んでいた。それを見たアレクは少し溜息をついて。
「じゃあどっちにしろあっちで会う訳か。向うも動き出して入ると聞いているから俺も最初の外遊はタナイス国と決めているのでね。」
「そうだと思ってたよ、アレク。じゃあ最終的な事はあちらで合わそう。楽しかったよ君と知り合いに慣れて。今後も楽しいお付き合いを頼むよ。」
そうして二人は握手を交わして、アレクが馬車に乗り込み帰国の途に就くのを二人で見送っていた。
「ねぇ、兄様。ノエルをちゃんと捕まえてよ。アレク様は優秀なんだから、取られる可能性は高いんだからねぇ。解ってるの?お兄様。」
「解ってるよ、フィーデラ。」
心配してダグラス王子の顔を覗き込む妹の顔を見て、ダグラス王子は苦笑いしながら安心するようにフィーデラの頭を撫で、アレクの馬車が消えていくのを眺めていた。そして、何かをする為に急ぐようにフィーデラを促し、城へと戻る為の馬車へと二人で乗り込んだ。
週一の更新を次も出来るように頑張ります。
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