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「今日も貴女はお美しい、フィリア様。貴女の前ではこの白薔薇すらも霞んでしまう」
「、、ありがとうございます、フィリップ様」
心にもないことを、、
心の中でつぶやきながら、フィリアは手渡された薔薇を受け取る。
鼻をくすぐる、白薔薇のいい匂い。
綺麗な、花束。
「、、」
しかしふと気付く。
目の前には、怪しすぎるフィリップの爽やかな笑顔。
「、、どうしたのです?フィリア様」
、、いたく楽しそうだ。
じぃっとその真意を見極めるために、フィリアはフィリップを見返す。
白薔薇に、悪い意味はないはずだ。だとすれば。
、、16本。
薔薇の数。
見れば、少し離れた所で、ミリーが、パラパラと古びた花言葉の本を捲っていた。
、、遠い遠いかの国では、花には隠れた意味があるのだという。
それを花言葉というのだと、以前、彼が教えてくれたのだった。
初めての時は、スイセン。この国では、とても珍しい花をもらった。
白く綺麗で、そしていたくまともな贈り物にびっくりしたフィリアに、彼は笑顔と共に、言い放った。
『自己愛、うぬぼれ』
当時は、何を言われているのか全くわからなかった。
そうしてそんなフィリアの表情にご満悦のフィリップに後々貰ったのが、あの古びた花言葉の本だった。
スイセンの花言葉。それは、自己愛、自惚れ。
やはり、嫌がらせ以外の何物でもなかった訳である。
そうして、フィリップはその後もちょくちょくとこのような花言葉を持つ花を律儀にプレゼントしてくれた。
なにせ花言葉という概念自体がないこの国である。
誰も、その真意には気づかない。
、、ただ一人、ネタばらしをされているフィリアを除いて。
そしてその本が、現在ミリーの手元にある本なのであった。
そのミリーが、は!とをあげた。
「 」
何かぱくぱくと口を動かしているが、なにぶん距離が遠いため、わからない。
しかし、雰囲気でなんとなくわかる。
、、どうせ、いい意味ではないのだろう。
「、、有難く頂戴致しますわ。感謝の気持ちでいっぱいです、、。それで、本日はどのようなご用件ですの?」
意味を聞くのも癪なため、早々にそう切り出す。
「ご用件、ですか?」
いつも余裕綽々でフィリアを貶している彼に、少し珍しいぐらい、ぴりっとした空気が流れた。
「それは、フィリア様が一番ご存知なのでは?」
確かにご存知ではあるが、一番ではない。
それに、この調子では、おそらくフィリアが望んだことなのではという疑念も抱いているかもしれない。
そんなこと、万が一にもあり得ないというのに、、
フィリアは軽く首を振った。
「わたくしも、寝耳にみず、、こほん。つい先ほどまで全く知らなかったのです。誓って、本当ですわ」
「、、なるほど、では、その話を聞いた貴女が、私と同じ気持ちだと良いのですが」
そう言い、鋭い、真剣な目で見つめられて、どきりとする。
「、、そ、れは、、そんなの、同じですわ。ですから今日、そのつもりでお話を、、」
「えぇ、フィリア様は話が早くて本当に助かります。では、解決法も見つかったのでしょうか?」
フィリップが、茶目っ気を出して、楽しそうに目を細めながら、手元に来た紅茶を啜った。
「、、考えた策は、あります」
あるにはあった。
しかし、あまり得策ではないと思われる策しか考えられずにいるため、気まずさに目を伏せる。
「策。どのような」
あくまで、フィリアの口から言わせようとしているタチだ。
フィリアは、ぐ、と拳を握った。
「、、貴方か、私のどちらかが、別の方とーー既成事実を作ること」
顔を真っ赤にして、フィリアがフィリップを見る。
正解、と言わんばかりに、フィリップが微笑んだ。
「えぇ。それが一番、すんなりと行く方法でしょう」
フィリップは、恋に愛にまだ憧れを抱いている乙女に、汚れきった回答をさせる大人であった。
「、、あ、貴方でしたら、一人や二人、いらっしゃるのではありませんか?その、いい雰囲気の方が、、」
恥ずかしさを隠すように紅茶を啜り、フィリアが言う。
「まさか。居たら、結婚していますよ」
「、、」
居ないらしい。
意外だ、とフィリアは思った。