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「、、結構、凄いこと言われてますね、お嬢様」
まさかそこまで、とミリーが眉を顰める。
彼女は、時折ストレス発散にわざわざ家に来るフィリップの姿しか知らない。
フィリアの苦手な物を絶妙にセレクトし、彼女の家の者に気づかれない程度に、言葉の裏の裏を読むと相当な皮肉、という、なんとも高度な会話術を披露する彼の姿しか。
「初めての罵りがこれですもの。後の社交場なんて、、どれ程憎まれてるのと笑ってしまうぐらいよ」
「お気の毒に、、」
ミリーは心底同情した。
「これは私の憶測ですが、」
ミリーが、フィリアの髪のセットの最後に取り掛かりつつ、言う。
「今回の政略結婚は、フィリア様のお父様ーーつまり、旦那様が楽しげにまとめたお話だと、伺いました」
「は、はぁ?!」
寝耳に水である。
父のことはそれなりに好きだが、今この瞬間から、大嫌いになりそうだった。
「信じられないわ!どうしてなの?!」
「私なりに考えてみました。そして考えた結果、今回の政略結婚には、フィリップ様にも原因があるのでないかと」
「、、と、いうと?」
「あの方、この家に来過ぎです」
、、確かに。
フィリアは冷や汗流しつつ、納得した。
仮にもフィリップ様は、しかる家の、しかる爵位の方。
対して私は、位から見れば侯爵令嬢。
そして二人は、はたから見れば仲が良さそうに、家まで訪ねて茶を飲んでいる。
フィリアの父が邪推し、仲のいいうちにくっつけてしまえ、と強引に話を推し進めても、なんら不思議はなかった。
ただでさえ、お節介で気の早い父のこと。
「ふ、、けれどあの方もまだまだね。自分で自分のお首を絞めるだなんて、、」
「フィリア様、それ、フィリア様にも当てはまることです」
ずばり指摘され、ぐぅの音も出ない。
「あぁ、、どうしたらうまくお断り出来るのかしら?!悪夢だわ!!」
「ご両親たちが勝手に決めてきているお話ですから、現時点で、すでにとても難しいのではないかと、、それこそ、一度結婚してしまい、毎日微量の毒をお食事に混ぜていくぐらいの、、」
「そんなサスペンスはお断りよ、、」
げんなりとすると、ミリーは顔色ひとつ変えず、嘘です。と言った。
誰かが聞いていれば、とんでもない冗談である。
「ともかく、そこまでおっしゃるのであれば、一度フィリップ様へご相談したらどうです?」
「えぇ、、その必要はあるわね。大体、あの方だって、今頃あの手この手を考えているに違いないわ」
「本日お茶にくるとご連絡もありましたし。ちょうどいいタイミングですね」
「憂鬱だわ、、」
フィリアは重い溜息をついた。
長い一日になりそうであった。