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何を言われたかわかる。
だが突然口調の変わったフィリップに、固まる。
『え、、』
『あぁ、、やっと言える。二人きりになるチャンスを伺っていました、フィリア様』
普通の令嬢が聞いたら、舞い上がりそうな台詞だ。
だがフィリアは、この時とんでもなく嫌な予感しかしなかった。
『貴女が嫌いです、フィリア様』
笑顔で言われて、がつんと衝撃をくらう。
とんでもない台詞だった。
『そ、れは、、私が、貴方に失礼をしてしまったから?』
『そうです。それ以外に何があると言うのです』
平然とそう答えるフィリップ。
目の奥が笑っていない。
『申し訳、ありませんでした、、。本当に、心から無礼であったと、思っています』
『謝れば済むとでも?』
フィリップの追い討ちだった。
『貴女はどうも、勘違いをしていらっしゃる。貴女は美しいが、それだけだ。あれも社交辞令の一つに過ぎなかった。だというのにあの仕打ち。あの後、貴女を悪く言うご令嬢を宥めるのに苦労しました。何故言われた私がそこまでしなければならないのです。本当に、今思い出しても腹が立つなんてものじゃない』
『、、』
『もっと淑女的な振る舞いをして頂きたかった。他のご令嬢は、そうして下さっていた。あるいは、私に頬を染めてくれるか』
極め付けに、にこ、と笑ったフィリップに、悪いのは自分、とひたすらその批判に甘んじていたフィリアの我慢の限界が、きた。
『、、まぁ。それではまるで、私が貴方に熱をあげることを期待していたように聞こえますわ』
フィリアの悪い癖である。
男性に余りに叩かれると、昔の反骨的な部分がむくむくと湧き上がってくる。
『あぁ、やはりそちらが本性でしたか。それでも2割程度でしょう?貴女がしおらしいのは、とても嘘くさい』
『な、嘘くさ、い、だなんて、、おほほ、フィリップ様ったら、ご冗談を、、』
『フィリア様、顔が崩れていますよ』
ぶちーー!!と、血管が切れるのがわかった。
『わたくし、フィリップ様は、もっと紳士的なお方かと。思い違いのようでしたわ、また、この社交界の思い違いでもありますわね』
『淑女とも言えない、まるで品位のなっていない女性に、紳士的な振る舞いは必要ないでしょう。公の場で詰らないだけ、分別があると思うのですが』
『、、』
あぁ言えばこう言う。
フィリアは目の前がくらくらとした。
『あの、、疲れましたわ、私。そもそも、もともとは休みにここへ来ていたんですの。そろそろ居ないことにも気づかれる頃ですわ』
『それはどうでしょう』
『、、く、百歩譲って、存在感が薄く気づかれないのだとしても、フィリップ様、貴方の不在は気づかれます。そして、どこに誰と何人で居るのか知られればーー、フィリップ様にとって、これほど不名誉なことはないでしょう』
『一理あります』
一々腹の立つ返しだ。
『、、程のいい八つ当たりだわ』
『それもありますね』
『み、認めるんですの、、』
きゃあきゃあとご令嬢に囲まれ、女王陛下にも可愛がられ、にこにこと笑う姿は、だがしかしその頻度が高まれば普通の人間であればそこそこにストレスが溜まるものだ。
ナチュラルにこなしている方だと思い、少しカマを掛けてみたのだが、、まさか認められてしまうとは。
思わず、フィリアはたじろぐ。
『当然、《賢く勇敢な》フィリア様ならご存知でしょうが、私は他の方には誓ってこのようなことは言わない。貴女だけですよ』
不名誉すぎる。
『ですから、私の噂をどうこうするのは無駄ですよ。貴女にその発言力があるとも思えませんが、、』
『ないですわ。仮に力をつけ、したとしても、全力で潰されるのが目に見えています』
『当たりです』
何が当たりだ。
調子の良い時の父の発言とかぶり、イラっとする。
『ではご機嫌よう、バルコニーの花、フィリア様』
、、嵐が、過ぎたと思った。