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祖父の試験

9月3日

前話の後半部に加筆修正を入れました。


読まないと話が理解できない。という程のものじゃありませんが祖父の質問で突然どうしてそんなことを?という疑問が出てくる可能性があります。


加筆部分は後半2000字程度、全体5600字程度なので3分の1くらいが修正加筆にあたります。


推敲が足りておらず申し訳ございません。

 クラーテルは魔力制御の練習は毎日行っていた。

 せっかく魔法世界で魔法が使えるのだ。今日は少しいつもと違うことをやってみていた。

 前に母は掌で弾丸を作っていた。なら、指先に集めて射出することができれば、昔アニメで見た霊○や、ど○ん波のようなことができるのではないかと考えたのだ。

 体内の魔力をぐるぐると回し、指に集めていく。人差し指がどんどん靄がかっていく。だが、そこで声をかけられる。

「魔力を集めてなにをしているんだ」

 祖父フェリックスであった。相変わらず厳しい顔をしている。

「魔力を一点に集め制御する練習です。放ち方はわかりませんし、危険であろうことからやっておりません」

 素直に答えることにする。

 クラーテルは○丸や、○どん波などをやってみたかったがまだそういったものは出来ない。

「ふむ、本当にできるのか……」

「お祖父様、なんの御用でしょうか?」

「少し、話がしたいと思ってな。私の部屋までちょっとついて来てくれないだろうか」

 特に拒否する理由はなかった。祖父、フェリックスは厳しい面構えではあっても暴力的ではない。

 むしろ、厳しい顔のくせにいつも酒ではなく茶を嗜んでいたりする。クラーテル自身、前世では割りと茶が好きであっただけに親近感すらわくのだ。

 フェリックスの部屋に連れてこられるが、羊皮紙で出来た書類や文字の書き込まれた木片が置かれており忙しいだろうことがわかる。

 そんな最中にいきなり話とは何かとクラーテルは内心首を傾げる。もし、疲れたから孫との一時というのであれば精一杯の愛想を振り撒いて、祖父の心を癒してあげよう。

「座るといい。メドヴェンコ、茶を用意しろ」

 勧められるままに席に着くとフェリックスは早速話を始める。

 簡単に言うと母から家庭教師をつけてほしいと頼まれ、クラーテルの能力がどの程度なのかを知りたいということだった。

 クラーテルは前世では学校での成績があまり良くなかった上に、学業を辞めて時間もかなり過ぎていた。

 だが、それでも流石に5歳時にそんな無理や無茶はふっかけてこないだろうと、四則演算程度ができれば幼子としては十分だと勝手に考えていた。

「ではな、ここに銅貨5枚と銀貨2枚があるとしよう。合計何枚になる?」

「銅貨5枚と銀貨2枚を足しあわせて良いのでしたら7枚」

 単純に足しあわせた枚数が知りたいのであれば答えはこれしかないとクラーテルは答え、そうしながらも一応の保険をかける。

「ですが、銅貨は銅貨ですし、銀貨は銀貨です。なので銅貨が5枚銀貨が2枚かと。それとも価値として換算するのでしょうか?」

 普通に考えたら7枚と答えるべきだろうが、本当にそれが正しいかわからなかった。

 故に質問の意図を尋ねるとフェリックスは軽く頭を抑える、呆れられたのだろうか。

「あー、いや。7枚で良い。それではな、小銅貨30枚もっていた。そこで小銅貨7枚分の足袋を3足買った。残金はいくらだ」

「9枚です」

「むっ」

 流石にこれくらいなら簡単だった。この程度のレベルなら何ら問題ない。

 そう思っているとフェリックスはぐっと眉間の皺を濃くする。

「自信満々に即答するのだな」

「え、はい。だって、9枚じゃないですか」

 30-3✕7=9。

 これくらいはすぐに分かる。

「計算は得意なようだな。では今度は何か、お前が儂に問題を出してみなさい」

「は、はい」

 大人であるフェリックスに同程度の問題をだすわけにはいかなかった。ならばせめて中学数学の問題程度なら出しても失礼ではないし、すぐに問題も思いつく。

「それでは、剣7本と盾を3個買うと銀貨115枚、剣4本と盾2個日雨と銀貨70枚。剣と盾はそれぞれいくらになりますか?」

 答えは剣が銀貨10枚、盾が銀貨15枚。連立方程式で一応すぐに出る程度の問題だ。

「ぬ、ぅ」

 しかし、フェリックスはわからない様子だった。

「ラティ、これは本当に解ける問題なのか?」

「はい、連立方程式を使えばすぐにでも」

「れんりつほうていしき?」

 そこでクラーテルは理解した。自分が知っている数学的な知識というものがこの異世界では割りとハイレベルなものなのだと。

 考えてみたらこの世界は窓はガラスではなく鎧戸であったり、道の舗装も悪く、正直文明としては未成熟と言ってよかった。

 だから、学問が発展していなかったり、発展していたとしても一部の学者が知るだけで、万人が知るようなものではないのだろう。

「はい、剣が7本と3個で……」

 連立方程式での解き方を説明する。

 2式を半分にして3倍にすれば剣6本と盾3個で銀貨105枚となる。

 そしてその式同士をぶつけて消せば剣1本は銀貨10枚となる。

 さらに、それを2式に導入してやれば銀貨10枚の剣が2本と盾1個で銀貨35枚。つまり、盾が銀貨15枚であった時になる。

「……という計算です」

「な、なるほど」

 フェリックスは目頭を抑えて考えこんでいる。クラーテル自身もどうしてこうなると言われたらわからない。

 中学生の時に解き方は教えてもらったし、変数1個に対して1本の式があれば分かる程度しかわからないのだ。

「うむ、算術に関しては文句の付け所もない。では、他のことならばどうだ?例えば蛮族のことなどだ」

 正直数学的な事のほうが答えるのは簡単だった。生活のことなどになると、まだまだ知識量が足りていない。

 本でもあれば勝手に調べるのだが、この家には本が殆ど無い。

 伯爵家であるのにこの本の少なさはおそらくこの世界では本というものが高値なものなのだろうと判断していた。

「蛮族はこの世に確認されているだけで草原の民で、半人半馬であるセントール。川原や沼地、海に住む半人半魚のサハギン。遠き地に居るという森のワーウルフ、山や谷に多く住まうと言われているハルピュイア。知っているのはこれくらいです」

 クラーテルは窓から初めて行商の馬車を曳くセントールを見た時、その姿に興奮したものだ。そして、他の蛮族について聞くと、母とリリアは丁寧に話をしてくれたのだ。

「それだけ知っていれば問題ない」

 フェリックスはそう言って軽く頭をなでてくれる。

「それでは、もう1問なにか適当に儂に問題を出してくれないかな?」

「そう、ですね。それでは天秤と27枚の金貨があります。このうち1つは偽金貨で重たくなっています。何回で偽物を見つけられますか?」

 フェリックスがあれこれ考えだすが、答えは3回である。

 有名なクイズで、昔中学生の教科書にも載っていた有名な問題。

 わかってもいいし、わからなくてもいい。少なくともクラーテルの知性の証明にはなる。

「13枚ずつ乗せて1回。傾いた方から6枚ずつで2回。3枚ずつで3回、残り1枚ずつで1回。傾かない時はそれぞれに乗っていない金貨が偽物になる、でいいのかの?」

 一番わかりやすい回答で、おそらく誰もが考える方法であった。

「いいえ、違います。答えは3回です」

「3回だと?」

 どうやって、とフェリックスは眉をひそめる。

「はい。まず最初に9枚ずつ乗せます。重たいほう、釣り合った場合は乗せなかった9枚を次は使います」

「そして、次は3枚ずつ入れます。手順は先ほどと同じです。また、重たいほうか釣り合った方の3枚を使い……」

「なるほど、最後は1枚ずつ乗せて傾くか、釣り合った場合は載せていない1枚が本物となるわけか」

 この問題は常にグループを3つに分け続ける問題だ。だから、3の乗数で偽物の金貨がわかる。

 もちろん、軽いか重たいかわかっていないといけないという前提だが。

「それでは、クラーテル。最後に聞きたい。母が、エレナリーゼが好きか?」

「もちろんでございます。母さまは大好きですし、父さまや兄さま、アグリッピーナ母さまも好きです」

 笑顔で答える。家族は仲良く助けあう。それがクラーテルの理想だからだ。

「母はお前の兄や姉を産めなかったが……」

 何を言いたいのかわからず、首を傾げる。

「母さまは、体がお強くないのですね……」

 クラーテルはあまり文明が進んでいないこの世界では良くあることなのだろうと思っていた。そして、そんな母が母体を損なわず自分が産めてよかったと安堵する。

「憎くはないか?」

 フェリックスのその素っ頓狂な質問にクラーテルは目を丸くする。

「え?何故ですか?」

 どうして、兄か姉であるものを産めなかったからといってクラーテルが恨まねばならないのだと首を傾げ、そして1つの結論を得る。

 クラーテルが聡明なのは、生まれるはずだった兄姉の霊がくっついているからだ。という話し。

 クラーテルは、自分クラーテルに憑いているのはそんな上品なものじゃない。異世界から紛れ込んだエレナリーゼとはなんの関係もない男だと、自嘲気味に思ったものだ。

 兄の霊も姉の霊も見たことがない。それに、見えたとして2人がエレナリーゼを恨むとも思えなかった。

「おじい様、僕は母様を憎んでいません。兄姉のことももちろんわかりませんが母さまを憎んでいないと思います」

「何故そう思う?」

「子を愛さない母がいないように、母を愛さない子があるでしょうか」

 そう言って、穏やかにクラーテルは笑った。偽らざるクラーテルの、そして優木だった時からの思い。母を心底嫌いになれる子など、しかもそれがほんとうに小さいのであればありえるわけがないのだ。

「く、っはははは。いいだろうクラーテル。お前のために良い師を連れてこよう」

 安堵したように「馬鹿なことを訊いた」とフェリックスは外に響きそうなくらい、大きな声で笑う。

「あ、ありがとうございますお祖父様」

「しかし、本当にクラーテルは頭がいいのだな」

 一応クラーテルは自身が答えられる範囲の質問をしたが、祖父は答えられなかった。


 さらに、クラーテルは祖父フェリックスの質問に全て答えることが出来た。それはつまり、かなり高い知性を示してしまったことになる。

 優木であった時の学生時代などは勉強なんてと思っていたが、就職してから学ぶことの大切さをいやというほど思い知った。

 就職したら学びたいと思っても誰も懇切丁寧に教えてはくれないし、教えてもらおうと思えば時間と金をかけねばならない。

 せっかく祖父が良い師をと探してくれるのであればありがたくその好意を賜る方がいい。

 少し問答や生まれてくることのなかった兄姉の話しなど、重たい話が続いた。だが、それが一段落したあたりでメドヴェンコが2人に茶と茶菓子を持ってくる。

 クラーテルは祖父の茶の趣味が好きだった。優木だった頃からお茶は人よりは好きで、紅茶や緑茶、台湾茶、中国茶、ルイボスティーなどに手を出していたのはいい思い出だった。

 メドヴェンコが丁寧にされど迅速に入れてくれる。同時に出てきたのはいくつかのドライフルーツだった。

 クラーテルはドライフルーツ自体は嫌いではないが、この世界の甘味については言いたいことがあった。

 それは、"砂糖"がほぼ存在していないのだ。甘味といえばこのような果物を干したものや、果汁、または蜂蜜だった。

 クラーテルとしてはこういった紅茶にはクッキーのような甘すぎない菓子がをお茶請けにするのが好きだったのだが、ないものをねだっても仕方がない。

 そもそもフェリックスの茶に混ざる形で食べらせてもらっているのだ。あまり贅沢を言えばバチが当たるというものだった。

 卵や牛乳、砂糖を多く使うお菓子はやはり贅沢品なのだろう。

 だが、今度フェリックスには蜂蜜のクッキーや、紅茶を混ぜ込んだクッキーなどを食べさせてあげたかった。

 前世でも自分と同じ程にお茶を共にしてくれる人物はいなかった。祖父であるフェリックスをお茶友達とするのは失礼かもしれないが、ともにこういうひとときを共に出来る人がいると言うのはいいだろう。

 美味しいと思える茶と茶請け、そしてそれを満喫する一時。

「クラーテルは茶が好きか?」

「はい、とても美味しいです。お祖父様は本当にお茶が好きなのですね」

「まぁな、儂もだが、祖母のヴィネラが好きだった」

 クラーテルの祖母の名前で、クラーテルが生まれるよりだいぶ前になくなった人物だった。

「お祖母様も、お好きだったんですね」

「あぁ、あれもお前と同じように匂いを嗅いでゆっくりと茶を楽しんでいた」

 仕草が似ていたのだろう。フェリックスは少し懐かしそうに語る。

「お祖母様は、お祖母様はどんな方だったんですか?」

「優しいが、苛烈な女だった。儂が戦闘戦闘の繰り返しでなんとかなったのは、あれが家を、そして儂の心を守ってくれていたからだな。得難き女だったよ」

 祖母の絵姿を見たことはあるが、優しそうな女性だったのを覚えている。

 だが、祖父に言わせると一見嫋やかであるが、敵対するものには容赦の無い人だったということだった。

「クラーテル、お前もいつか妻を娶るだろうが男を堕落させる女ではなく、男を奮い立たせる術を知る女にしなさい」

 と言っても早すぎるか、とフェリックスは笑ってクラーテルの頭を少し乱暴に撫ぜる。

 クラーテルは意味はわかるがそんな女性を見つけて妻と言われてもまだ実感がなかった。なにせ前世でも三十路間近で結婚もしていなかったのだ。

 その後も少しそんな他愛のない話をしてフェリックスの部屋に後にするのだった。

 前書きにも書かせていただきましたが、後半部のコインの後からの話しが前話の修正を読んでいないと今ひとつ意味がわからないと思います。

 気にされない方は良いのですが、気にされる方は前話の後半2千字くらいだけでも読んでもらえれば大丈夫だと思います。


 注意書きはここまでです。


 多数のブックマークと、評価をいただき誠にありがとうございます。PVも1日で800を超えて2日で1000を超えており、正直こんなにブクマや評価をしてもらえると思ってなかったので嬉しい限りです。

 今後とも全力を尽くす所存ですのでよろしくお願い致します。

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