プロローグ 最初の一歩
山と山に囲まれた、ちょうど草原の入り口から、クラーテルは傍らのフランツと草原を、己の兵が戦う戦場を見つめていた。
砂埃を上げながら懸命に駆け逃げてくるボリスの騎馬隊と、その後ろを雷神の加護を受けた蹄鉄をはめているのだろう。
雷鳴を轟かせ、足元を青白く光らせながら走り来るカムランの騎兵隊があった。
押し寄せてくる騎兵はその圧倒的な大きさと、そして轟かせる雷鳴と雷光から恐ろしいまでの迫力があった。
その蹄鉄だけではなく、騎馬の質も流石は騎馬民族カムランと言わざるをえない。
こちらも必死で集めた騎馬であったが、相手の馬に比べるとどうしても見劣りしてしまっている。
風の神、シンジェルの加護を与えた蹄鉄をはめさせている。その加護で速度を上げているにもかかわらず、距離を突き放せていないのがその証とも言えた。
騎射に耐えるための盾持ちも、その後ろから長槍を突き出す長槍兵も、皆一様に震えが来ている。
今のところクラーテルの思惑通りに戦場は動いていたが、それでも騎兵のそれは恐ろしかった。
「クラーテル様、万一混戦になれば御身に危険がございます。今少しお下がりを……」
クラーテルの乳兄弟であるヴァレンティンがそう言い、大将であるクラーテルを下げようとする。
「バカを言うな、ヴァルよ。この一戦に勝てなければ、俺は異母兄に取って代わることがなどできはしない。そして、総大将たる俺が外の兵を見捨てて下がれば、士気の低下を招く。既にボリスたちがこっちへ下がっている中で我らまで崩れるような動きをすれば、取り返しの付かない事態になる」
クラーテルはそう一喝して、戦場を見やる。
ボリスたちはクラーテルが見込んだ生え抜き100人ばかりの部隊。それが敵の騎兵に追い立てられながらほうほうの体で駆けて来る。
「ボリスはいい仕事をしましたね、クラーテル様」
傍らのフランツが満足気に笑っている。
「そうだな、後は最後に入ってくる位置さえ間違えなければ、それでいい」
クラーテルは努めて冷静に答える。
ボリスとその騎兵は必死に下がってきている。
それが作戦通りのものであればいいが、敵は騎馬民族カムラン。ともすれば本当に潰走させられている可能性というのも0ではない。
そして、もし本当に潰走させられていたならこちらの作戦どころではなくなる。
「クラーテル様っ」
ヴァレンティンの興奮した声。黒と紫で彩られた牙むく狼と剣の旗が作戦の次の行動を進めるために大きく振られていた。
潰走ではなかった。
ボリスは自らの役目を完璧に成し遂げたのだ。
「ミーシャっ」
ミーシャは委細承知と中央の少し前方に吐出した部隊に号令をかける。
ボリスの部隊が風を切り突っ込んでくる。
そのすぐ後方には剣を持ち、こちらを蹴散らそうとするカムランの騎兵。
「上いっ」
ボリスの騎兵が通り過ぎた刹那、紐でそれは引き上げられる。尖った杭がカムラン騎兵の眼前につきつけられる。
前方の10騎あまりは止まることも回避することも出来ず、その身を杭に突っ込ませその生命を散らし、数騎は唐突に停止しようとして落馬したり、それらを踏んだためにバランスを崩す。
雷が肉を焦がす、悍ましい匂いのはずなのに、食欲すら掻き立てられる匂いが戦場に広がる。
こちらがさらに槍を突き立てようとした直後、カムラン側から銅鑼が鳴らされその轟音が響く。
同時にカムランの騎兵たちは僅かに下がりながら中央の杭を迂回するために左右に割れた。
その判断の早さと号令の的確さ、そしてそれを突如知らされて動けるような柔軟さは今のクラーテルたちの軍には持ち合わせていないものだった。
「早い」
狩猟民族であるカムランと一兵一兵の質も大きく違った。
だが、それを言い訳にこちらも負ける訳にはいかない。
カムランは柔軟に対応してくるが、こちらはこの一戦にまずは全てを賭けて準備をしてきているのだ。
今までの時間も、資金も、己の未来すらもをベットして挑んでいる。
だからこの一戦、柔軟に動く必要なんてない。
決められた動きをある程度できれば、準備のないあちらと、準備を万端整えたこちらで拮抗させられる。そう信じていた。
「左右部隊は足下に注意し、陣形を崩さぬように押しでろっ」
クラーテルが檄を飛ばすと左のパーウェルと右のイヴァンがゆっくりと陣形を維持しながら張り出していく。
それを蹴散らそうと弓に構え直したカムランの騎兵が迫る。
双方の距離が100メートルを切った、その時だった。
戦闘の騎兵数頭が崩れ落ち後続に踏み潰される。そして、同じように前に出た騎兵数頭が足を取られ他を巻き込む。
「成功だ」
ゆっくり、ゆっくりとだが長槍兵は足を止められた騎兵に近づき、4メートル近い槍を振り上げ、叩きつける。
中にはそれでも暴れ、周囲に雷を撒き散らそうとする騎馬もいるが、4メートルもある長槍相手では届くことなく、その生命を散らされる。
この混乱が長引けばよかった。だが、再び銅鑼が鳴ったと思ったらあっという間にカムランの騎兵は後退していった。
これだけ速やかに判断を下し、そしてそれに逆らうものが居ないというのはこの世界、この時代ではなかなかに難しい。
だというのに、それをあっさりとやってのける敵の長はかなりの手練であり、権力を持つものなのだろう。
敵ながら天晴であり、羨ましくもあった。
「左右部隊は待機、中央も隊列を整えボリスとともに陣を厚くするように……」
クラーテルが次の伝令を走らせようとしたその時、ことは起こった。
一騎の魔導甲冑が杭の並べられた中央に向かって突っ込んできたのだ。
「なっ、この遠征で、魔導甲冑を持ってくるなんて」
フランツが驚き声を上げる。
そうしてくれて助かったとクラーテルは思った。
そうでなければ自分が口にしてしまいそうだったからである。大将たる自分がそれでは兵に動揺が、恐怖が伝播する。
だが、クラーテルもまさか全身で約300kgを下らぬであろう魔導甲冑を別働隊が、数百の距離を超えて持ってくるとは考えていなかった。
魔導甲冑が突っ込んでくる。
次の瞬間、杭を支えていた数人がその圧倒的な暴力によって散らされた。
力任せに腕を振るっただけ。それだけでその豪腕に触れてしまった数人の上半身が肉塊とされ飛び散る。
まさに、単騎駆。
クラーテルは次の瞬間に思考を開始する。
呆けてなどいられない。
あれをなんとかして止めなければならない。
杭が打ち破れるのであれば、罠がある左右ではなく中央を騎兵に再び集中させればそれで詰んでしまう。
あの騎兵隊が雷鳴を轟かせて殺到すれば、士気は崩壊。万が一士気が保てても、あの衝突力を受け止めきれない。
魔導甲冑を囲んで殴り続け倒す。
却下。
それでは騎兵が殺到してこちらを蹂躙するほうが早い。
全軍退却。
却下。
そうすれば喜んでこいつらは村を略奪する。そして、それは自分たちの敗北であり飼い殺される人生が待つだけ。
様々な可能性を考え、やはり手段は1つしかないと諦める。
「フランツ、刹那の間頼む」
「は?クラーテル様?」
返答は待たなかった。クラーテルは己の内に声をかける。『アリヤ』と。
次の瞬間視界が暗転して、見慣れた薄明るい空間にクラーテルは居た。
「アリヤ、悪いが貰いに来た」
そこには黒と紫のトーガを着た女神アリヤが、いつもの様に藍色の髪をたなびかせ、微笑を浮かべて待っていた。
「おぅ、おう、待ちわびたぞクラーテルよ」
歓喜の表情。
クラーテルが女神アリヤと出会いそれなりの年月が経っていた。
アリヤはようやく自分の望みが叶うことに喜びを隠す気などないようだった。まさに喜色満面迎えてくれる。
「こっちとしては師が去った後でも、俺が異世界人だと知っていて、色々とアリヤと語り合える日を今しばらく満喫したかったんだがな」
「神を相手に話すのが楽しいとは少々無礼ではあるが、同時に嬉しい事を言ってくれるのぉ。まぁ、妾も楽しかったとは言っておこうかの」
クククっとアリヤは笑う。そして、アリヤはクラーテルとアリヤの2人以外に存在する、されど眠り続ける少女の首を優しく撫ぜる。
「ヴィクトリカを頼む。妾のために眠ったまま死ぬかも知れぬのに、悠久の時を待ってくれていた孝行娘だからな」
「もう、何度も聞いてる。任せておけ」
綺麗な銀糸のような髪に、すっきりとした鼻立ち、まるで人形のような少女はアリヤとクラーテルが幾年とこの空間で語り合う中でずっと眠るようにそこにあった。
「初回サービスをしてやろう。目が覚めたら、甲冑はつけておるようにしておいてやろう」
「悪い、緊急だから助かる」
「まぁ、妾としてもそなたに死なれるのは困るからの、気にするでない」
「そうだな、アリヤが俺に託してよかったと思えるくらいには勝って教会と信者を増やしてやるよ」
「頼んだぞ、クラーテル」
「あぁ、頼まれた」
「そう、寂しそうな顔をしてくれるな。本来神々である妾はこの世を離れて見守るが定め。妾は少々諦めが悪く、見苦しくも出てきただけよ。最後に一粒種を残し、再び去らねばならぬ。なに、心配するなクラーテル。お主とこの娘が死んだら迎えには来てやる。我が眷属として、再び輪廻に戻るも、解放を望むも自由よ」
「ふ、まぁじゃあ再会が遠き日であることを」
「うむ、そう望むぞ。すぐに来たなら死んでからもういっぺん首を刎ねてしまうからな」
それ以上、なにもなかった。
次の瞬間視界は暗転し、クラーテルは先程までの戦場に戻る。
「フランツ、戦闘はどうなっているっ」
そう、時が流れたようには感じていない。
「く、クラーテル様!?」
流石に突然魔導甲冑を纏って現れたことに驚きつつ、しかし冷静に状況を伝えてくる。
「中央部隊のボリスとミーシャがなんとか押さえ込んでいますが被害は甚大です」
「わかった。あれを止める間に何か起きたら指揮は任せる」
魔導甲冑を身にまとっている時点でそうなることはわかっていたのだろう。
「わかりました、クラーテル様どうかご武運を」
「任せておけ、あれを倒せばあちらも流石に手はないはずだ」
そう言ってクラーテルは一気に駆ける。かなりの重量であるにも関わらず、魔導甲冑の重量は感じない。
魔力炉心に燃料である魔力をくべてやればそれを上回るパワーを魔導甲冑は発揮し、重力を無視したかのように重厚な音を上げて爆走する。
中央のボリスは敵軍を心の中で罵りながらも応戦していた。
敵は徹底して杭を持つ人間や杭そのものを破壊していく。
紅い魔導甲冑は最初圧倒的膂力を見せつけた後は巨大な槍を振り回しあたりを薙ぎ払った。
魔法を使えるものは魔法を使い、相手の魔導甲冑と同じくらい長い長槍を上から叩き落とす。
だが、敵は止まらない。バランスを崩したり、倒れるだけで明確なダメージを与えることができない。
ボリスが率いる部隊も100名ほど居たのに、もう10人以上は討ち取られているたし、ミーシャの部隊はさらに多くの被害を出していた。
ミーシャの部隊はほとんど統率が取れないくらいに怯え、半狂乱に陥り弓を乱射したり、勝手に後退を開始したりし始めていた。
単騎の魔導甲冑とはいえ、持っているのと持っていないのとでは大違いだった。
もしも、魔導甲冑が敵中にあるとわかっていればそれ相応の対策を練った。
だが、遥か北から遠征してきている騎馬民族カムランの、しかも奇襲するための別働隊がわざわざ魔導甲冑を持ってくるとは考えていなかった。
このまま部隊が蹴散らされ、機能を失ったのでは遠からず敵の騎兵が自由に突入してきて、蹂躙を開始するだろう。
その恐怖はつい先刻までカムランの騎馬隊に、雷鳴轟かせる悪鬼のような騎馬隊に追い回されたからいやというほどわかる。
それでもボリスは部隊を恐慌状態に陥らせないために前に出る。
敵を、魔導甲冑をこちらがある程度でも止められたら、部隊の士気は立ち直るはずで、そうすれば囲いこんで殴ればいい。
魔導甲冑とて弱点がないわけでも、無敵なわけでもない。
ボリスが覚悟を決め前に進み出たその時、一人の男が魔導甲冑の前に現れる。ミーシャだった。
考えたことは同じであったのだろう。ミーシャはボリスよりよほど熟練した騎士であった。それが僅かな差となって、先に前に出てくることになったのだろう。
敵の魔導甲冑もミーシャが進み出たのがわかったのか、ミーシャに向けて静かに構える。
そして、なんの合図もなく、その豪槍が振るわれた。
横薙ぎに襲い来るそれを、ミーシャはなんとか反応して防御を試みる。だが、鉄で出来たはずの盾は、まるで木片か何かのように一撃で砕け散った。
ミーシャはそのあまりの衝撃で左腕を砕かれ、騎馬ごと薙ぎ倒される。
そこでボリスは自分の考えが浅かったことに気づく。
あの魔導甲冑を何とかすれば、そう考えていたがあれは生身の人間がなんの準備もせずにどうにかしようとして、なんとかなるほど甘い代物ではない。
次の瞬間ボリスの目に入ったものは、打ち下ろされた豪槍を剣で受け止めようとして、倒れた己の騎馬ごと押しつぶされるミーシャだった。
圧倒的な暴力というより他になかった。
次は自らがああなるとわかっていても、ボリスの頭には退却という二文字はない。
ボリスが死を覚悟し、ゆっくりと進み出たその時、暴風が駆け抜ける。
ボリスの髪を乱しながらそれは魔導甲冑との間に割って入る。
戦うべくは自分であると、主張するかのように。
「黒と紫紺の魔導甲冑?」
見たことがない魔導甲冑だった。
そもそも、こちら側には魔導甲冑なんて存在していないはずだった。
さらに、現れた魔導甲冑は敵の着ている魔導甲冑より高性能だろう。
敵は第4世代アシエ、若しくは第5世代フェール・ブロンズだが現れた魔導甲冑はそれより前の第3世代アルジャンクラスかそれ以上のものだ。
第3世代でさえ国にも数える程度にしか存在しないそれが、何故か目の前に現れ、己を背後にかばうように立っていたのだ。
「ミーシャ、遅くなってすまない」
魔導甲冑をまとっているせいで声がくぐもっているが、それでもそれが主君と仰ぐクラーテルであるとすぐに分かる。
一体どこにこんな魔導甲冑など持っていたのか。
運んでいた記憶はボリスにはなかった。
しかし、今は細かいことはどうでも良かった。これで、対等な条件になったのだ。
辿り着いたらミーシャは死んでいた。
おそらく、味方の士気が崩壊するのを避けるために前に出たのだろう。
圧殺されたその姿に怒りや悲しみ、思うところは様々あった。だが、今は目の前の敵を何とかするのが先だった。
「我が名はクラーテル。クラーテル=クルスヌイルナ。父はクルスヌイルナ伯カミニ、母はエレナリーゼ。いざ尋常に勝負」
「我が名はコメテス=ルプス。カムラン族が長エルプティオの息子なり。その意気やよし。尋常に勝負っ」
相手にこちらの言語が伝わる自信はなかったが、伝わるどころか返答まで来た。
そして、同時に驚いていた。カムラン族の長ルプス家の息子だというのだ。
力量、権力、ともにあるとは思っていたがまさか長の直系が出てきているとは思っていなかった。
合図もなく、互いにぶつかる。コメテスの豪槍を剣で受ける。恐ろしい膂力だが、弾き飛ばされるには至らなかった。
コメテスはこちらが剣の間合いに飛び込んでくると思ったのだろう、防がれたあと軽く下がる。
「家畜の守り手にして戦争を司る我が女神アリヤが眷属よ、我が怨敵を切り裂けっ」
クラーテルの剣はさらに鋭さを増してコメテスに振るわれるがコメテスはそれを受け止める。
「大砲」
同時にクラーテルは左手の指を突き出し、魔砲を構築する。
魔力の筒を作り、玉を2ついれる。
「ストリリバーッ」
そして、後方の魔力玉を爆発させて飛ばす。つい先程まで神聖魔法を使うことができなかったクラーテルが編み出し、そして使い続けた魔力を練上げ放出する、クラーテル最大の攻撃魔法。
それが魔導甲冑の魔力炉心を介してさらに威力を上げて轟音とともに襲いかかる。
予想外の衝撃にコメテスがたたら踏む。魔導甲冑を貫通させることはできなかったが、それでもバランスを崩し、足を止めさせたただけでも御の字だった。
クラーテルは慣れない魔導甲冑を必死に駆使してコメテスに剣を振るう。
鈍い音がしてコメテスの左腕部が歪む。
だが、コメテスも黙ってやられているわけではなかった。蹴りがクラーテルの魔導甲冑の膝を襲う。
幸いにして膝部分が折れたりひしゃげることはなかったが、それでもかなりの衝撃があった。
「うおぉぉぉおおっ」
雄叫びを上げて、再度剣を振るうが、今度は槍で受け止められる。
歪んだ左腕部は動かしにくいだろうに、それでもコメテスは豪槍を綺麗に振るってくる。
「ボリスっ呆けてないで部隊を再編してくださいっ。騎兵に突入されたらクラーテル様が敵を惹きつけている意味がなくなります。ミーシャ隊の指揮は以後ヴァレンティンが取ります」
慌ただしく動くボリスとフランツ、そしてヴァレンティンを尻目にクラーテルはコメテスとの戦闘を続ける。
互いの剣と槍は魔力を纏い、青白い火花をちらし合っている。
コメテスはすさまじい膂力と魔力を込めて豪槍を振るい、クラーテルはそれを何とかいなしながら倒れることだけはないようにしていた。
豪槍はその大きさゆえに薙ぎ払うか、打ち下ろすかが基本となっていた。
クラーテルはその軌道を読みながら、魔力を込めて一撃一撃を払いのける。全身の筋肉は軋み悲鳴を上げている。
戦況は膠着状態に陥っていた。カムラン騎馬隊が突撃したくてもクラーテル軍は籠城するかのように柵と罠を張り巡らせ出てこない。
それを取っ払うための戦いは2つの魔導甲冑がぶつかり合い、互いの目的を邪魔しあっている。
「うぉおおおっ」
「ぐおぉぉぉぉおっ」
両雄は雄叫びを上げながら、それでも自らが敗北した陣営がそのまま敗北につながるとわかっていた。わかっているからこそのぶつかり合いである。
最初は拮抗していたが、徐々に、徐々にクラーテルが押し始める。
それは甲冑の性能差であり、同時にクラーテルが使用する神聖魔法ではない、魔弾による牽制であった。
近づけばクラーテルは魔法などの飛び道具の間合いと剣の間合いで戦えるが、カムランの魔導甲冑は己の槍の間合いでしか戦うことが出来ないのだ。
そして、ついに拮抗は崩れた。
クラーテルの魔導甲冑が2回り近く巨大な魔導甲冑にタックルを見舞い、足を内側から引っ掛け転倒させたのだ。
柔道でいうところの小内刈り。
「勝負あり、貴君の命まで奪おうとは思わない」
「……お見事、御見事也」
豪槍は手放される。流石にこの上戦っても損害を出すけだけとわかったらしく、降伏の意思を伝えられる。
次の瞬間味方が歓声を上げる。
「コメテスどの、身柄は申し訳ないが拘束させてもらう。君たちの兵が逃げるというなら追撃はしないが、負傷兵はこちらで面倒を見よう」
「慈悲深き対応誠に感謝する」
そんな話をしている間も勝鬨は轟く。
クラーテルは領主の座を願い5年、転生して13年でようやくここまで来たのかと軽い溜息を吐くのだった。
はじめての方は初めまして。
他作品を読んでくださいっている方は毎度ありがとうございます。
この度第3回オーバーラップWEB小説大賞に応募いたしました。
これから暫くこっちに全力投球していきますのでよろしくお願い致します。