現実は残酷って本当だな
今以上に四ツ谷さんに来て欲しいと思ったことはないぜ…………
隣に座る狐面の男性は、電子書籍か新聞を読んでいるのか、時折スマホ画面をスライドする動作を見せる。
(何で誰も狐面に注目しないんだ……?)
通りすがる人々は勿論、近くのベンチに座る人達でさえ、隣の人物に視線を向けない。
そこに誰もいないように。
そこに変なことなんてないように。
それぞれが思い思いに生きている。
ただ一つ
[異形の者達]だけは、
彼を見るなりそそくさと逃げ出す者や視界に入らぬように静かに逃げる者までいる。
(狐面にあいつらを退ける効果でもあるのか?
あと、妙に語尾がカタコトだし……)
ふと、そんなことを考えていたら……
「……コレが気になるカイ?」
「あ、いえ!すいません……」
横目で見ていたことがバレていたようだ。
「まあいいサ。趣味ダカラ」
「はあ……」
(趣味かよ!何か期待してた俺が馬鹿みてぇじゃん!!)
そんな心のツッコミを見透かしたように彼は、クックックッと笑う。
「ここら辺では見ない顔ダネ。君は待ち合わせカイ?」
いきなりの問いかけに少し戸惑う。
「まあ……そうです」
「ふぅん……奇遇ダネ。僕もダヨ。」
(やっぱり胡散臭い、つーか……怪しい)
余りこの人の隣にいたくない。
早く距離を置きたい。
空気が重く感じる。
気を抜いたら食べられるんじゃないかと錯覚する。
[この人は怖い]
本能が警報を鳴らす。
しかし、別の位置に移動するのは失礼だ。
(四ツ谷さん、早く来てください……よ)
謎の気持ち悪さに根を上げかけたその時だった。
「凛太郎君!すまない、前の仕事が少し立て込んでいて、遅れてしまった」
「よ……四ツ谷さん」
待ち人である四ツ谷がやって来た。
走って来たせいか、少し息が上がっている。
情けない声が出てしまったが、そんなことは気にせず、心の底から安堵した。
(良かった……これで少しは気が軽くなるかも……)
そう思った。
「っ!何でアンタがここにいるんですか!!」
四ツ谷は呼吸を整えると、凛太郎の隣にいる狐面の男性に気付いたらしく、そう言い放った。
「作業が一段落してネ。暇だったから来チャッタ☆」
「そんな言い方しても、面白くも何ともない!」
(おお……四ツ谷さんが珍しく怒鳴っている……って)
「知り合いですか……?」
凛太郎の一言に冷静さを取り戻したのか、四ツ谷は溜め息を吐く。
どうやらかなり因縁深い相手らしい。
四ツ谷は、因縁深い相手だと深い溜め息を吐くのを凛太郎は知っている。
実際、幼馴染みである破戒僧・黎湘を前にした四ツ谷は、よく溜め息を吐いている。
「知り合いも何も……」
少し言いにくそうに言葉を詰まらせてから、冷静な声で告げた。
「彼…………七辻さんが、これから行く“裏目荘”の大家さんなんだよ。」
「ヨロシクね、新入り君☆」
「 」
一刹那の沈黙
少し深呼吸してから、言葉を整理する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!??」
ばーちゃん。
今だけ恨むぜ。