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悲劇〈高校一年生連続惨殺事件〉  作者: (two)
第一章──最悪の悲劇──
8/19

すれ違う関係

 「悲劇」第七部も無事に1日一作で出せました!

 今回も謎だけが残るお話です。

 是非、ご一読下さい!

 体育が終わり、制服に着替え、俺は帰りの支度をしていた。

 ……大介はあの後早退したらしい。

「どうしたものかね……」  

 本人にも聞けないし、アイツの彼女側を調べるなんてもっと出来ない。諦めて忘れるか…。

 ──大介がちゃんと別れていると信じよう──。

 そう、考えてしまった。

「ね、響ー」

 横から声が掛かる。

「なんだ?」

 呼ばれた方を向くと、そこには悠が立っていた。

「今日、一緒に帰らない?」

 唐突だな…。俺は一瞬考える。

「悠の家、どの辺なんだ? 俺、寄る所があるんだが」

「うーんと、この学校から見て東の方だよ」

 この学校から東か……、響音の中学もあるな…。あそこだと。

「そうか、なら大丈夫だな」

 俺はそれだけ言って、携帯を開く。  

 午後の授業中も茜から返信は来ていなかった。

 本当にどうしたのだろう…?そこまでショックだったのか?

 はっ、さては茜。山田の事が好きだったのか!?

 などと変なことを考えていると、先生の話が終わった。

「じゃあ、気をつけて帰れよー」

「「さようならー」」

 部活に行く生徒、真っ直ぐ家に帰ったり遊びに行く生徒。放課後の生徒達は様々だ。

「さぁー、帰ろー♪」

 悠はそう言って、俺の袖を引っ張る。

 ──待ってこの子めっちゃ力強い──

「ははっ……はぁ……」

 恐ろしい速さで悠に引っ張られる俺は、乾いた笑いとため息を吐いた。


 日は大きく傾き、正面に見える赤い球体はもう落ちようとしていた。

 そんな帰り道、俺と悠は話をしていた。

 切り出しは俺からだ。

「……悠は今起きてる事件をどう思ってるんだ?」

 悠は歩きながらうーんと首を捻り、考え悩む仕草をする。

「酷い事件じゃない? 殺してる人数だってそうだし、殺し方だってそう。何か被害者達に強い怨恨をぶつけているようだと思うよ……」

 俺はその言葉を聞いて少し驚いた。

 悠も、俺と殆ど同じ事を考えていたのか……?

 だが、悠の発言で最も驚愕したのは、その先だった。

「そうだね…。強いて言うなら『ほっといていいんじゃない』?」

 な──っ!?

 ほっといていい……だと?

「なぜそう言える。もう7人殺されてんだぞ……」

 そう、もう7人殺されているのだ。それなのにほっといていいとは……。

 いや、待てよ。そう言うって事は悠も──。

「そこまでは、至っているのか?」

 それを聞くと、悠はこちらを向いてニコッと微笑む。

「ああ──響君と同じ。事件はまだ続くんじゃないかって考えてるよ──」

 やはりか……。じゃあなぜ、そこまで分かってて『ほっといていい』と言えるのだろうか?

 そう考えていると、悠が口を開く。

「響君もさ……、この事件は被害者に強い恨みを持った犯人の仕業だと考えているんでしょ?」

 図星だった。

「なぜ、それを?」

「さっき言った通り、僕も同じ考えだからだよ。犯人は、対象のヤツらに強い殺意と怨恨を抱いていると思う。だったら僕は、それを消化させてあげたいよ」

 例え、僕が死ぬことになっても──。

 最後の台詞は、小声でよく聞こえなかった。

 しかし、俺はそれに共感出来ない。

「──恨みがあろうと無かろうと、やってる事は人殺しだ。しかも残忍な…、人間とソイツはもう別の生き物だと俺は思う」

 俺がそこまで言うと、悠はまた微笑んでいた。

 共感でもない、温かさも感じない冷たい微笑みだった。

 俺は『それ』に、背筋がぞっと冷たくなるのを感じた。

「──じゃあ僕、こっちだから」

「……おう、じゃあな」

 俺は軽く手を振った。

「うん!じゃあね~~」

 悠は大きく手を振り、こっちに笑顔を振り撒きながら帰っていった。

 俺も進む方向へと向き直し、歩を進める。

 だが、その足取りは何故か重かった……。


      *    *    *

 茜の家に向かう途中、一つの黒い影。その怪しい存在の気配を感じる。

 尾行されてる──。

 そう感じたのは、悠と別れて少し経ってからだった。俺が1人になるのを待っていたんだろう。

 俺は自分が相手に気が付いている事を相手に気付かれないようにする為、後ろを振り向くことはしなかった。

 振り向いたら最後、アイツが持っているかもしれない刃物でブスッと刺される可能性だってある。

 ──さて、どうしたものか。

 恐らく今尾行しているヤツは、事件の犯人だ。俺の昼休みの話を聞いてしまったのだろう。

 ──俺はお前に近付く情報を持っている。

 それだけで犯人は、俺をターゲットに加えるだろう。

 だからこうして、今俺は追われることになってるんだろうけどな。

 その時、茜から着信が入る。

 いきなり電話かよ…。俺は電話に出る。

 あ──そうだ。

 そして、瞬時に閃いた作戦に出る。

「もしもし? 警察官の大里お兄ちゃん? 久し振りー! 俺だよ俺、響! ああ、今日こっちに来てるのね? 頼もしいなぁーーっ!」

 俺はわざと大きな声で言い、アイツに聞かせようとする。

 俺のバックに警察が付いていると、恐らく相手は分が悪いと考えるだろう。

 勿論、警察官の大里兄貴なんて俺は知らない。

 すると、俺の読み通り、黒い影の気配は少しずつ遠ざかっているように感じた。

『何? 私は電話を掛ける相手間違えましたか?』

 茜が呆れたような声で話す。

「いや、合ってるよ。俺だ、響だ」

『うん。それは知ってる。何かあったの? 今どこ?』

「いや、ちょっと誰かに尾行されててさ…。今は茜の家に向かってる最中だ」

 それを聞いた茜が驚愕する。

『ハァ~? 響にストーカー? ははっ、ないないって。笑わせないでよー!』

 超失礼だ。俺もう泣きそう……かも。

『あと、私今、家にいないから』

 出掛けているのか……?

 いや、外出が出来る程に回復しているんだったらもう大丈夫だろうか。

「あ、そうなのか。まぁ、元気そうで良かったよ」 

 電話の向こう側の茜が少したじろぐ。

『え……、まさかそんなことの確認の為だけに家に来ようとしたの……?』

 今更なにを聞いて来るかと思えば…。

「幼なじみなんだ。当然だろ?」 

 家もそこそこ近いしな。

『ああ、うん……。そうだね、ありがとう──響』

「どういたしまして。じゃあ俺、茜の家行くの止めるわー。じゃあなー」

 そう言って、電話を切ろうとしたその時、

『待って!!』

 電話の中から、俺を呼び止める声がする。

「なんだよ?」

『いや、その、明日はちゃんと行くからって……』

 俺は小さくため息を吐く。

「分かったよ……、待ってる」

『うん……、じゃあね』

 そうして俺は、電話を切った。

 今日はなんか──、異様に疲れたな。

 そして俺は、無事に自宅へと帰還した。


       *    *    *

 家に帰ると、一階リビングのソファーに腰掛け、テレビの画面をただ眺めている響音がいた。

 俺達の親は、二人とも別の地域に仕事に行っている。そのため、この家に住んでいるのは俺と響音の二人だけだ。 

 家の冷房はよく効いていて、少し肌寒いぐらいだった。

「……ただいま」

 響音が見ているのは、夜のニュースで、例の事件のニュースもちらほら出ている。

「……お帰り、お兄ちゃん」

 今朝と比べて顔色は回復しているが、テンションは今朝と全く変わっていなかった。

 ……どうしたものか。これじゃあ俺まで気分が下がってしまう。

「なんか朝から元気無いな、響音。悩み事でもあるのか? 天才の兄貴が相談に乗るぞ?」

 俺は響音に近寄り、いつもの調子で声を掛ける。しかし、響音の視線は、相変わらずテレビの画面に向いていた。

 ──返事すらしないのか……。

 小さい頃から明るいイメージの彼女が、今こうして暗い顔をしている。

 俺はそんな非日常に、何だか薄ら寒いものを感じていた。

 本当、響音に何があったのだろうか……?

 最近……俺の周りにいる奴の考えが、気持ちがよく分からない事が多いな……。

 とにかく、響音の気持ちを訊かないと……。

「学校で何かあったのか?勉強が分からないとか、友達関係での悩みとか──」

 そこで一回、言葉を句切る。

「同級生からの、虐め──とか。」

 そこまで聞いて、響音に変化が起きた。

 ずっと向いていたテレビから視線を外し、深く俯いた。

 ──嘘、だろ……?

 頷いて肯定したわけではない。しかし、俺はその行動を肯定と捉えた。

 そして、後ろから優しく、響音の両肩に手を乗せる。

「……お前は俺の自慢の妹だ。誰が何と言おうが響音は響音だ。だから落ち込むんじゃない──俺がお前を……」

 その瞬間、響音がバッ──と顔を正面に向ける。

 正面に向けたと思うと、次にぐるっと俺の方を向いた。

 そして……、ニコーーッと笑った。

「ふふーっ、お兄ちゃんの愛の告白。戴いちゃいましたーっ! 嬉しいなぁ、嬉しいなぁ~。自慢の妹だなーんて!」

 響音は立ち上がり、くるくると舞うようにして踊る。その声はいつもと変わらず明るかった。

 ……俺はポカーンと口を開けて、響音の踊りを眺めていた。

「あれ? まだ気付いてないのー。私が落ち込んでいると、お兄ちゃんそんな風に心配してくれるんだね!」

 俺はその言葉の意味を理解し、顔を赤くする。嵌められた……。

 そして、凄く恥ずかしい……。

「バッカやろ、そんなんじゃねぇし! 響音のことなんざ全然心配してない! つかお前、演技上手すぎじゃね!?」

 俺は大声で弁明を試みる。

「誤魔化してもダメだよー、さっきのお兄ちゃんのマジな顔。スゴく心配してる顔だった……」

 そこまで言うと、響音は俺の方に身体を預ける。ポスッ──と、頭が胸に乗り、響音の腕が腰にまわされる。

「──ありがとう」

 その声は弱々しく、演技には見えなかった。

「響音……」

 俺は何も言えずに、ただ妹の頭を優しく撫でていた。

 

「夕飯にするか……」

 しばらく撫でてから、俺は話を切り出す。

「……。そうだね!」

 響音は俺から身体を離し、明るく返事をする。


 その後は、妹と楽しく会話をしながら夕飯を食べた。

 響音の好きな、俺の作ったハンバーグ。

 俺の分を分けて、響音のハンバーグに追加してあげた。

 バラエティ番組を見ながら笑いあったりもした。

 

 こんな他愛も無い日常が──。

  

 妹と過ごす家族の時間が──。


 崩れてしまうのも、時間の問題だった。


     *    *    *

 朝、目を覚ましてカーテンを開ける。

 外は薄暗い雲が全体を覆い、今にでも雨が降りそうな曇天模様だった。

 ああ…、学校行く気が出ないな。これは。

 下に降りると、既に着替えて席に着いている響音がいた。やっぱり早いんだな……、朝。

「……おはよう」

 俺はボサボサになっている頭を掻きながら朝の挨拶をする。

「うわ…頭が……。おはよう、お兄ちゃん」

 俺の髪型を見て若干引いていた響音だったが、普通に挨拶を返してくれる。

「……やっぱり今日、雨降るんだな」

 俺は顔を洗い、髪型を少し直した後にニュースを見ていた。

 天気予報では、午後には土砂降りの雨が降るらしい。

「嫌だね……、合羽かっぱを持って行こうかな」

 響音は自転車通学だ。傘なんか差してたら危なくてしょうがない。

「俺も傘を持って行くか……」

 俺は歩きでもいけるからな。響音の中学よりは遠いけど。

 その後の朝食は適当に済ませ、学校に行く準備をした。

「ねぇ、お兄ちゃん……」

 その時、後ろの響音に声を掛けられる。

「なんだ? 改まって」

 振り返ると、響音は顔を伏せ、何か迷っているようだった。言いたいことでもあるのか……?

「ははっ──、別に迷わなくていいぞ、響音──」

 そこまで言って、俺の口が塞がれる。

 響音の温かい感覚が全身まで渡り、麻痺してしまう。なんだ……これ…。

 ──響音がキスをしてきたのだ。

 ──勿論、俺は初体験……。

 数秒経って、響音は唇を離す。しかし、その間も俺の脳内はフリーズしたままだった。

「これだけでいいよ……、いってらっしゃい。お兄ちゃん」

 響音はそう言って軽く微笑む。その微笑はどこか寂しそうで、俺の心が締め付けられるような感覚になる。

「ああ、いってきます」

 俺はどこかモヤモヤした気分を抱きつつも、普通に返事をする。

 ドアを開き、外に出る。

 今すぐにでも大粒の涙を降らしてきそうな大きな雲が、俺を出迎えた。

 最後にもう一回──

「行ってきます」

 俺はそう言って、玄関の奥の響音の方を見る。響音は哀愁に満ちた微笑みを湛えながら、手を振っていた。

 扉が閉まるその瞬間、扉の向こうで手を振っている響音の口が動いた気がした。

 ──『さよなら』──

 

 俺がその言葉の意味を理解するのは、もう少し後の話になる。


     *    *    *

 俺が家を出てから5分ぐらい経った頃、ポツポツと雨が降り始めた。

 ……傘開くか。

 次第に強くなってくる雨の中、一人で歩く通学路。

 茜といつも合流する場所に、今日も茜はいなかった。昨日は来るって言ってたんだけどなぁ……。

 この天気だ、茜だって学校行く気が無くなったのだろう。俺も休めばよかった……。

 そして、響音と一緒にいれば──。

 そんなことを考えていると、俺がいつも通るコンビニの外に人影が見えた。

 雨の中で必死に目を凝らすと、俺の高校の制服を着ていた。──女子だ。

 黒髪のロングヘアーで、端正な顔立ち。どこか気品のようなものが感じられる少女だった。あれ……、俺はこの少女をどこかで……。

 その女子生徒が手に持っていたのは鞄だけで、淀みきった空を眺めながらずっと立っていた。

 ……傘を忘れたんだな。

 仕方ない、この超天才でカッコ良い俺が傘を貸してやるぜ──ッ!

 俺は男としての決意を固め、勇気を振り絞って話掛ける。

「お、おはよう。こんな所で立ち止まってたら遅刻するぞ? 傘忘れたんなら俺のやつ貸そうか?」

 すぐ側まで寄ってみると、結構かわいかった。お嬢様よりずっとおしとやかに見えて、黒く長い髪も綺麗に整えられていた。

 俺は彼女の向いている方に顔を上げた。

 上空からは無数の水滴が、休む間もなく落下している。

 そうか……、歩いていたらいつの間にか雨が降ってきたのか。だからここで雨宿りを……。

 そして視線を彼女に戻すと、上を向いていた彼女の顔が俺の方を向いていた。少しビックリした……。

 そして彼女は、ペコリとお辞儀してから口を開く。

「おはようございます。私は『黒縁 香苗かなえ』貴方と同じ高校の1年C組です。わざわざ声を掛けて頂いて、どうもありがとうございます」

 あ──、同じ学年だったのか……。いや、俺もいきなりタメ口だったからなぁ──。

 優しい声で、律儀に自己紹介をする香苗。俺もつられて自己紹介をする。

「俺は1年B組の海藤響。自慢じゃないけど学年トップの学力を持ってる。声を掛けたのは君が傘を持っていなかったからで……」

 やっぱり、初対面の人と話すのは辛い。俺このままじゃ社会人になれないな……。

 しかし香苗は気にする様子もなく、明るい表情で両手をパンっ──と合わせる。

「まぁ! 学年トップの学力なんですか!? スゴいですね羨ましいです~」

 ああ…、この人も凱人と同じ、俺を素直に誉めてくれる人だ……。他の人なら、「は?興味ねぇし。」で玉砕されるんだけどな──。

「ありがとう、そう言ってくれて。で、もうそろそろ歩かないか? 学校へ」

 俺はそろそろ時間が気になり、話を切り出す。

 そして、俺の傘に入れ──っっ!

 そう思った矢先、香苗はガサゴソと持っていた鞄を漁っている。

「ああ、ありました」

 そこから出てきたのは、傘布を纏い、鮮やかな曲線を描く持ち手が付いた──折り畳み傘だった。

 ……傘、持ってたのかよ。

 じゃあ何であんな所に突っ立っていたのかは謎だったが、まぁあんな可愛い同級生の女子と知り合えたんだ。後悔はしてない。

 そこから先は、二人で歩きながら雑談をした。事件の話題は出していない。

 降り続ける雨は一向に止む気配は無く、今日1日はずっと降っているだろう。

 それは、今の俺と響音の心を写しているかのように、不安定だった。

 急ピッチで新キャラが増えていってしまう…。

 でも、今回の新キャラ『香苗』は勿論容疑者ではありません!と言うか、女子キャラは皆外されてますけどね……。

 多分、明日出せないと思うんですが、次回予告です。第八部でも新キャラが出ます!でも、容疑者ではありません。

 ここまで読んで下さった方々、ありがとうございます! 

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