殺人犯の真意
「悲劇」の第五作目ですー。
第五作目までは1日一作のペースで載せましたが、次からはちょっと分かりません。
是非ご一読下さい!
事件が起きた翌日の朝──。
俺は窓から漏れる強い太陽の光によって目を覚ます。時刻は6時、いつもより全然早い目覚めだ。
だが、良い目覚めではなかった。
俺の右膝の擦り傷が、昨日の出来事が夢では無いことを語る。──夢だったらどんなに良い事だっただろうか。そう思った。
「──よっこいしょっと」
俺は眠い目を擦りながらベッドから起き上がる。身体に溜まった疲労は全回復はしていなかった。
その後は制服に着替え、1階に下りて顔を洗う。
「おはよう、お兄ちゃん…。早いね」
そんな俺よりも早く起きていた響音に声を掛けられる。
「……おはよう。なんだ響音、いつもこんなに起きるの早いのか?」
「まぁね…、お兄ちゃんみたく毎日夜遅くまで勉強したりとかしてないから…」
なんだか今日の響音はテンションが低かった。というより、顔が少し血の気が引いていて、真っ青だった。
昨日なんか悪い事でもあったのか…?俺は少し疑問に思った。
「どうした、なんか嫌な事でもあったのか?」
「……別に」
やはり冷たい。いつものようなネジの緩みようはどこへいったのだろうか?
「まぁいいか」
なんだかそれなりの理由がありそうだったから、それ以上は聞かなかった。しかし、その後の朝食は静かで、テレビの中でニュースを読むアナウンサーの声しか聞こえなかった。
そのニュースの内容は、昨日の事件についてだった。
その時、昨日殺された生徒の名前が、朝のテレビで放送されていた──。
* * *
昨日殺害されたのは『山田 圭太』。俺の同級生らしいが、別クラスなので知らないヤツだった。
死因は心臓を一突き。いつものようにズタボロに刺し続ける事をしなかったのは、恐らく俺に妨害されたからだろう。
しかし──警察はニュースでこの情報を公開しなかった。
恐らく、警察側は混乱しているのだろう。
これは同一犯の犯行か──?
なぜ殺し方を変えたんだ──?と。
だが、この5件目の事件でようやく警察が公表した情報があった。それは、『被害者全員が同じ中学に通っていた』という事だった。
つまり、中学時代に起きていた虐めということだな。
ならばその中学時代に被害者達と同級生で、今この高校に通っていたヤツが判れば、俺は犯人を特定出来るのか……。
しかし、警察からどこの中学かは公表されなかった。──密かに俺は舌打ちする。
一筋縄ではいかない事件だな…。まぁ、いままで俺が首を突っ込んで解決出来た事件なんて無いけどな。
そう、俺は近所で殺人などの事件が起きた時、決まって解決してみようと推理するのだ。で、全く手掛かりが掴めずに警察が先に犯人を捕まえてくださる。本当に優秀なモンですよ。
だから、今回は警察に情報量で勝っている為、とてもやる気に漲っているのだ。
不謹慎な話だが、俺は日常から外れた日常。そんな物を求めてしまっていたのだった。
だが、恐らく今回の殺人犯は、俺よりも狂った考えの人間だろう。
何を考えているのかも、全く分からないけどな。
* * *
──事件発生から2時間前──
俺の次の対象は、東高(東森里高校)の一年である、『山田 圭太』だった。
コイツも中学時代、俺を虐めていたグループメンバーの一人だった。
殴られ、蹴られ、踏まれた記憶だって何回も俺の脳内には焼き付いている。
俺を虐めていたグループは全部で10人いた。
しかし、部活などで来れないヤツもいたので、10人が一気に来たことは無かった。
山田は、そのグループの中でも下っ端の位置だった。リーダーや正式メンバーのヤツらにパシりにされ、
「ボコってて喉乾いたから飲み物買って来いよ」
「おい山田、──にぶっかける水、バケツに汲んで来い」
パシられる為に一緒にいる、召し使いみたいなヤツだった。だが、下っ端だろうと俺は躊躇いなく殺す。
アイツらの地位構成は、リーダーが一人、副リーダーが一人、正式メンバーと下っ端が4人ずつだ。
先ほども述べた通り、部活でいないヤツの為に下っ端のヤツも多めに設定されていた。
──リーダーと副リーダーは毎日部活をサボっていたのか、虐めに1日も欠かさずに参加していた。
だが、俺はもう副リーダー(金髪)と、正式を3人、下っ端を2人殺している。
そして──今日、山田を殺すのだ。
俺の心臓の鼓動が高まり、ドクンドクンと速く脈打つ。
ははっ──何度感じてもいいモンだなぁ。この感覚は……。
決行は午後、空が暗くなってからこの学校で殺してやる。
アイツの顔が恐怖で歪む様、ズタボロになり原型を壊していく、この世に必要無い肉体。
そういうのを想像する度に、俺の心は興奮する。
良いモンだなぁ、復讐って──。
俺の心も、精神も、多分この世の誰よりも腐っているんだろうと思う。しかし、俺の決意は変わらない。
──リーダーを…、アイツを殺したい。
俺はリーダーの──が憎いというよりも、……怖かった。
暴力を振るう時、的確に、そして強く、脇腹の痛い所に蹴りを入れてきた。
その時のアイツの表情は、恍惚で歪んでいた。
──それが怖い。
だから、今回の事件はアイツを最後までとっておくのだ。
最期には…腹に何度も蹴りを入れてやる…。
そんな事を考えていると、日が沈み、空が闇に包まれ、気温も低下する。
そろそろだな──。
俺は座っていたベンチから立ち上がり、山田を捜索する。
どうせ、アニ研だかなんだかでずっといたんだろう。
山田の行動パターンはもう分かっていた。俺はこの高校の生徒だからな…やりやすいぜ…。
アイツは『アニメ研究会』に所属していて、いつも帰りが遅くなるほど部室でアニメを見ていた。
そんなに見たいなら家で見ろよ…。
心の中で突っ込みながら山田を捜す。ナイフは背中に隠しておいている。
そこで、支度を終えて校門から出ようとしている山田を発見する。
俺はカバンから懐中電灯を取り出し、点灯した。俺の顔を認識させる為だ。
そして、歩み寄る……。
「おい山田! 話があるんだけど」
俺の顔を認識した山田は、少し意外そうな顔をしてから言う。
「珍しいな…お前が話掛けてくるとは…。中学以来だろ? そうそう、あん時のお前は不幸だったな!げらげらげら!」
わざとらしく山田は笑った。俺の頭の中は殺意でパンパンになったが、なんとか堪えて言葉を放つ。
「…もう暗いとはいえ、校庭のど真ん中でするような話じゃないんだ…。体育館通路の方まで付いて来てくれないか?」
山田は大きく溜め息を吐いた。
「はぁー…俺もそこまで暇じゃないんだよ。どんな話だか知らんが、あの時の事を謝れって言っても聞かねぇかんな! げらげらげら!」
正直限界を迎えそうだったが、コイツは見事に俺の罠に嵌まってくれた。
その後は、いつもと同じだ──。
俺はノコノコと付いて来た山田を押し倒し、背中に隠していたナイフを突き出す。
「ははっ、残念だったなぁ…。
俺は謝ってほしいんじゃない、死んでほしいんだよ、テメェになぁっ!!」
俺は声を張り上げ叫ぶ。この体育館の裏は森だ。そうそう気付くヤツなどいまい。
突然の出来事に一瞬、放心状態に陥っていた山田だった。が、俺が大声で叫んだ瞬間我に還り、ガタガタと怯えだす。
「ひぃっ! わ、わわ悪かった! あの時のことは謝る! だから許してくれ!」
おいおい……さっきまで「謝らねぇかんな!」とかほざいてたじゃねぇかよ…。
「……それが出来たらこんなに殺してねぇんだよ、俺はお前ら全員殺すつもりだからな」
俺はそう言って、無表情でナイフを振り上げる。 ──その時、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
山田がありったけの声を振り絞り叫んだ。
ふっ──馬鹿なヤツだ。
叫んだって誰もこな──、
そう思った時、遠くの、校門の方から大きな人の声が聞こえた。
──誰かいたのかっっ!!?
俺の頭は一瞬だけフリーズした。しかし、直ぐに立ち直りナイフを構える。
「……畜生──っ!!」
そして、山田の心臓部分にナイフで奥まで突き刺した。ブスッ──!
「ぐはっ──────……。」
口から血を吐き、山田は絶命した。
「くそっ! 人が来るっ!!」
俺は山田の命が完全に切れた事を確認した後、すぐさま走り出す。
「待てよ──っ!!」
その声から、相手は大人でも、大人数でもないというのが分かった。よし──撒ける─!
確かに、俺は深く追われることはなく撒くことが出来た。
しかし、相手は俺より一枚上手だった。
走っていた時に一瞬だけ、ほんの一瞬だが、俺の背中に光が当たった。
──俺がその意味を知り、後悔するのは随分あとになるだろう。
──今はただ、山田をズタボロに出来なかった事だけを悔やんでいた。
さぁ、残り3人だ──。
誰か─俺を止められるヤツはいないのか─?
いたとしても、俺が先に全員殺して──
俺の復讐に終止符を打ってやる──。
その後の町は、救急車とパトカーのサイレンの音に包まれていた──。
伏線貼るのってホント難しいです……。
どういう風にして、今考えているエンディングに繋げていけるかを考えるのは骨が折れます。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございます!!
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