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悲劇〈高校一年生連続惨殺事件〉  作者: (two)
第二章──繰り返される悲劇──
17/19

孤立していた二人

 私の心の中は、常に真っ暗だった。

 混沌、完全なる闇、絶望の黒。どれをとっても当てはまる、と言える程に私の小学生時代は死んでいた。家族や親戚の前では笑顔をつくれる私も、ここでは無口で無表情だ。

 でもそれは、兄である海藤響も同じだった。

 ──何故なら、私達の通っていた地域の小学校はその名が世間に知れ渡るぐらい、生徒の“虐め”で有名だったからだ。

 廊下を歩けば、上級生などに絡まれている生徒が絶対目に入る。

 一度クラスの中心的存在に目を付けられれば、その後は集団での集中した虐めが始まる。

 相手が年上だろうが、同年(タメ)だろうがお構いなし。

 己のストレス解消の為なら誰だって(なぶ)るし、(しいた)げる。そんな考えの人間が大量に量産される、悪い例えで悪魔の工場のような場所だった。

 だから、私も、兄もウンザリして学校に通っていた。当然、そんな学校の教育なんてロクに受けてなかったし、絡んでくる奴らは問答無用でねじ伏せていた。勿論、うざかったからだ。

 兄は誰とも絡むことなく、一人でぼけーっとしている毎日を送っていた。存在感を消す──そんな特技を覚えたのかもしれない。

 

 私が小5で、兄が小6だったある日。

 その日の昼休みに私は、同じクラスの女子に絡まれた。

 場所は学校の昇降口を出て直ぐの、小さな花壇の前だった。その時の私は睡眠不足で、適当にさっさと切り上げて寝ようと考えていた。

「ね~ぇ、響音ちゃん?」

 最初に声を掛けてきたのは、そのチームのリーダー格である女子生徒。同級生ではあるが、名前は知らなかった。

「……なに?」

 私は鬱陶しそうに返す。すると、リーダー格である彼女の後ろにいた女子2人がクスクスと笑っていた。……何がそんなに可笑しいのか、頭がやられたのかな?

 そんなことを考えていると、不意に。

 ──バチャ!

 お腹の辺りに、ひんやりとしたものを感じた。何だろうと思って見ると、その日着ていたそこそこお気に入りの洋服が、白くなっていた。

 これは……給食で出た牛乳?

 そんな私の動揺を見てか、目の前の3人は堪えられないといった様子で笑みをこぼしている。おおかた、また私の美少女っぷりに嫉妬して起こした事でしょうね……下らない。

 これは決して、ナルシスト発言ではなく、れっきとした根拠が存在する。

 それは、以前にも彼女達に絡まれた時であった。

 その時には、「あんた、何でそんな綺麗な顔してるのよ! 気に入らないわ!」みたいな言葉を言われた気がする。

 私は「ありがとう」と笑顔で返して終わりにしたけど。

 だが、今回ばかりはやられた。眠気で注意力が散漫だったとはいえ、ここまで派手にやられてしまっては立つ瀬がない。

 今回の成功をニヤニヤと笑いながら喜ぶ彼女達の姿は非常に腹立たしい光景ではあったが、私は抑えた。

 身体をくるっと左に向け、歩き出す。

「……なっ! あなた、どこ行くのよ!」

 私が向かう先には、ぼけーっとしている兄の姿があった。ずかずかと大股で進んでくる妹の姿に気付いた彼は、ポケットから鍵を取り出す。

「ありがと。先、帰るわ」

 そう言い残し、ずかずかと大股で私は校門を過ぎた。

 兄は無言で、そんな私の姿を見送って。

「……俺も帰りてぇな」

 と、独り言ちた。


     ☆    ☆    ☆


「海藤……響音ちゃんでしょ?」

 唐突に、声を掛けられた。若い男性の声だ。

 ゆっくりと声の主を辿ると、目の前には高校生ぐらいの男が立っていた。勿論、初対面である。

 目元までかかった黒髪に根暗そうな印象を受けるが、口元は笑みでつり上がっていた。どちらかと言えば不気味という類だろう。

「……何で、私の名前を?」

 私は警戒心を強めて、男に訪ねる。直ぐに逃げ出したかったが、簡単に捕まりそうだったため様子を見ることにした。それに、ストーカーだったら私の住所まで調べられているかもしれない。

 すると男は「あれ?」と素っ頓狂な声を上げ、自分の身体を見やった。

(そうだった……彼女達はまだ小学生。僕が高校生の姿で現れたら不審者以外の何者にも見えないじゃないか! うわ~……僕って馬鹿だ)

 男はぼそぼそと何かを呟いているが、私は聞かないことにした。

 落ち着きを取り戻した男は一息吐いてから、こちらへと向き直る。

「さて……僕は決して怪しい人なんかじゃない、それは分かってほしい」

「イヤだけど」

「何故っ! 大丈夫だ、僕はもう二度と君の前には現れないから!」

「じゃあ、今すぐ消えて下さい」

 私は相手の方など見向きもせず、そう答えた。男は大袈裟な身振り手振りをしてまで、私を説得しようとしていた。

「ふー……わかったよ。じゃあ僕は、“二度とこの姿では現れない”」

 なぜか含みのある言い方だったが、私はこくんと頷いた。

 その後の彼は満足そうに、私の家とは反対方向の道に向かって歩き出した。どうやら、ストーカーとかではないらしい。なぜ私の名前を知っていたのかは謎のままだが。

「……もう現れないって言ってたし。まぁいいか」

 そう考えて、私は家のある方向に向かって歩き出した。早く帰って、汚れてしまった洋服を洗濯しなくては。……あと、眠い。

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