ほっとけばよかった。
お待たせしました!剛本リアメの「悲劇」第九部です!
今回は少しだけグロい表現を入れてみました。ただ、自分なりの表現なので上手く伝わらないかもしれないです。
是非、ご一読下さい!
ただ、時間だけが過ぎてゆく───。
俺は病院の椅子に座り、ただ心を失っていた。
時刻は午後9時。窓の先は真っ暗だが、未だ降り続けている雨は止まない。
凱人は病院に着いて直ぐに、俺の目の前で息を引き取った──。
俺は救急車の中で何度も何度も声を掛けたが、頭を強く打っていた凱人が返事することもなかった。
「くっ……そ……。」
俺の頬から涙が零れ落ちる。悲し涙というより、悔し涙の方だった。
「俺は、また何も……、」
出来なかった。それは、男児を庇った凱人を助けられなかったことではない。
──何も、考えなかったからだ。
それだけではない、俺は凱人を……疑っていた。何の根拠も無い考えだったが、俺は彼の行動に不信なものを感じていたんだ……。
しかしそれは、普通の彼の姿だった──。その姿を思い出す度に、涙が流れ落ちた。
「なんでだ……何故、凱人が死ぬ必要があったんだ……。」
いや、凱人は計画されて死んだのか?
凱人はトラックに轢かれそうになった男児を庇い、絶命した。そのトラックが偽装だとしても、高校一年生が運転することは出来ない。
共犯者がいるのだろうか……?
しかし、横断歩道を歩いていた男児すら共犯者だとしたら、かなり大掛かりで不可能な計画だと思う。
それに、凱人は例の虐めグループに入っていたのか?俺は彼と同じ中学では無い為、中学時代の様子は全く分からなかった。
凱人の中学の奴だったら、俺は全く分からないぞ───。
悲しみと絶望に打ち拉がれていると、凱人が隔離されていた病室に知らない親子がいた。
母親は口元を押さえ涙を流している。合羽を着ている8歳くらいの男児は、涙を溜めた瞳で凱人のいる病室を見つめていた。
──家族……か?凱人に弟なんていたのな……。
俺は随分と勝手な解釈をしていた。挨拶なんて出来ないよな……、──こんな状況だし。
長居するのも悪いか、もう帰ろう……。
そう思って俺は立ち上がり、泣いている親子の後ろを通って病室を後にする。
「ありがとう……、本当にありがとう……。」
涙を流す母親は、そう呟いていた。
* * *
病室に置き忘れられた傘を貰い、俺はそれを差して自宅に向かった。
知らない人の物だが、置いていったんだから別に構わないか……。
ザァーー、ザァーーと降り続ける雨。俺の身体は既に濡れていて、凄く寒い。
……凱人。
俺の次に頭が良く、誰にでも優しかった男の姿が浮かぶ。そんな彼の最期は、幼い男の子を救う事だった。
──カッコいいよ、本当に……。
俺は、例え女じゃなくても凱人の人間性には惚れていただろう。
何よりも、誰よりも正義を信じる彼に……。
しかし、俺は凱人を信じきれていなかった。その結果がこれだ。
俺の心は後悔でいっぱいになり、今こうして自責の念に駆られていた。
死ぬのは──、俺でもよかっただろうが……。
俺には、誰にも救う事が出来ない。
俺には、どうでもいい『成績学年トップ』という名誉しかない。
俺には、誰かを信じるということが──、出来ない……。
自分で自分を責め立てる俺。家まではあともう少しだった。
「……はぁ。」
肩を落とし、悩んでいた。もう、考え過ぎで頭が使い物にならない……。
そこから先は何も考えずに、ただ雨の中を進む。
──暗闇の奥から俺を覗いている、絶望の影にも気づかずに──。
* * *
腕時計の針は、午後の11時半を指していた。雨脚は弱くなりつつある。
家の前まで着くと、開けっ放しにしていたはずの扉が閉じていた。……あれ?誰かが閉じたのか?
俺は恐る恐る扉を開いた。
──鍵は、開いていた。
「……ただ、いま。」
すると、電気が付いていない真っ暗闇のリビングから、女性が啜り泣く声が聞こえる。
「──うぅ……うっ、うっ…、」
──ッ!?誰かいる……?
「……誰?」
そう言ってパチッと部屋の電気を付けた。そこには、床にへたり込んで泣いている、──母さんがいた。
母さんは手に携帯を持って、俺の方を見ている。
──その隣には、母さんの肩を掴み、一緒に涙を流す父さん。
……その様子だけで、大体の状況が分かってしまった俺。
……そんな、嘘だろ……?
何で、友達の家に遊びに行っていたはずの響音がまだ帰ってないんだよ……。
そうか、泊まりだろう。今は友達の家に泊まってるんだろうな──、
「──ねぇ……、響ぃ……、」
母さんはびっくりする程しわがれた声で、俺に向かって呟く。
止めてくれ……、そこから先は……、言わないでくれ……。
「響音がね……、響音が……、」
嫌だ、聞きたくない……。俺はもう、凱人の死を見てるんだよ……。
──しかし、運命に抗うことは出来ない。
「殺されちゃったよぉ……、響ぃ……。」
母の涙に濡れたその言葉で、俺の心の鎖は外れ、砕け散る。
「うわああああああああああ────ッッ!!」
嘘だ、冗談だ、虚偽だ、虚妄だ、虚言だ───ッッ!!
「──そんなことが信じられるかッッ!!」
俺の目には涙が溜まり、大量に流れ出る。
今日で二回目じゃねーか……、涙も、人の死も……。
「響……、父さん達だって信じられないんだ……ッ!しかし、警察から電話が……。」
「知らねーよ!!警察が何だ──ッ!勝手な虚言でも吐いてろっての──ッ!!」
──俺の頭は、真っ白だった。ただ、感情に身を任せて叫ぶ。
分かっていたハズなのに、脳がそれを受け入れない。
真実を、誤魔化そうとしているんだ……。
いや、それは今までも同じか……。
俺は、現実から逸れた考えしかしていなかった──。
本当は、凱人なんて微塵も疑ってはいなかったのに……。
そう。影も香苗も言っていた通り、一番よく分かっていたのは俺なんだ……。
それでも、俺は受け入れることなんて出来なかった。受け入れられるわけがない。
結局、知り合いに連続殺人の容疑をかけているんだから──。
「くそ……、もう嫌だ……。俺達が、何をしたって言うんだよ──ッ。」
自暴自棄になる。涙は、その意味を失っていくように流れてゆく。
「響……、もう寝なさい。父さん達だって混乱している、今から警察に向かうよ。」
「ああ……、もう寝る。」
「お休み。──響、決して自我を失うなよ……。」
父さんの言葉が何を指しているのかは大体分かった。──首吊るなって言ってんだろ……。
「分かってるよ、俺も頭を整理する時間が欲しい。……お休み。」
それだけ言って、俺は二階の自室へと向かう。そうだ……、着替えなきゃ──。
下にいる母さんの啜り泣く声は、まだ止まっていなかった。
着ている服は濡れていたため、適当な服に着替え、俺はベッドに潜り込む。
「もう……、疲れた……。」
必死に走って家に着き、だが家にはいなかった響音。
その後救急車の音がして、走っていくと凱人が倒れていた。
死んだ凱人と二人の親子、その後は歩いて自宅に帰った。
そこで待っていたのが、受け入れたくない現実──だった。
肉体的にも、精神的にもヘトヘトで、もう限界だった。
「──寝よう……。」
俺は泣き腫らした目を瞑り、眠りにつけるよう頑張っていた。
──結局寝れたのは、そこから1時間経ってからの話だ。
* * *
1日目の朝、俺はカーテンから漏れる太陽の光で目を覚ます。ああ…もう朝か……。
その時、昨日の記憶が全てフラッシュバックする。
「ぅ……あ…。」
俺は頭痛がして、額に手のひらを当てる。頭が働きだした瞬間に思い出してくるなんて……、
「全く、嫌な朝だ……。」
独り言でそう呟き、俺は再びベッドに潜る。
「───今日は、学校休むか……。」
もう、外に出る気力も無かった。精神的体力の方が全然回復していない。
まだ、半分ぐらいしか受け止められていないんだ……響音や凱人の死だって……。
そんな事を考えていると、部屋の扉がコンコンとノックされる。
「おい……、響。起きてるか……。」
父さんの声だ。その声からしてやつれていて、恐らく昨日は寝ていないのだろう。
「ああ…、起きてるよ。」
俺はベッドの中から返事をする。とりあえず話は聞いておこう。
「……着替えてから下に来い。」
──わかった……。
それだけ言って、俺は起き上がった。身体が重い……、身体中に石を詰められてる感じだ……。
そのあと俺は、適当な私服に着替えて1階に下りる。
リビングでは、眼鏡をかけた父さんと泣き腫らした赤い目をしている母さんが、テーブル前の椅子に腰掛けていた。
「おはよう……。」
俺は俯き、暗い声を出してしまう。
──なんでこんな……、重い雰囲気にならなきゃいけないんだよ……。
「……おはよう。」
父さんはしっかりと俺の方を見て挨拶を返した。少し乱れた長い髪の母さんは、俯いて口を小さく動かした。
「起きて早速なんだが、昨日の響音の事を話そう……。」
本当だ。俺はまだ顔さえ洗ってないんだぞ……。
しかし、昨日の警察から聞いた話か……。聞くしかないんだろうな、どんなに酷い事でも──。
「ああ、では──始めるぞ。」
俺は無言で頷き、両親とテーブルを挟んで向き合うように座る。
「殺されたのは、昨日の午後9時頃。遺体は近所の商店街、その路地裏で発見された。」
午後9時……。俺が凱人の病院にいた頃だな……。
「響音もやはり──、全身を刃物でズタボロにされていたそうだ……。」
その言葉を聞いて、俺の心臓は跳ね上がる。
そうか……、やっぱりあの犯人に殺されたんだな──。
ちくしょう……ッ、よくも響音を──ッ!
俺は両手を固く握りしめた。犯人には憤りを感じる……。
「ただ、響音は中学の生徒手帳を持っていた。だから父さん達に電話が入ってきたんだ……。──響音の遺体は、ボロボロの骨と肉の塊ぐらいしか残っていなかったらしいからな……。」
ああ……、もう嫌だ。聞きたくない──。
「葬儀の日程は後ほど伝える。今日はもう学校に行かないんだろ?だったらゆっくり休めよ。」
葬儀か……。それすらもあんまり行きたくないな、響音の死を受け入れてるみたいじゃないか……。
「父さん達もな……。一睡ぐらいしとけよ……。」
「……ああ、分かった。」
それだけ言って、俺は再び二階に戻る。朝食を食べたい気分でもなかった。
もう、こんな事件どうでもいい……。
響音は殺された。俺は犯人の思い通りに動いてしまったに違いない。
警察に任せよう……。悠の言っていた通り、『ほっとけばよかった』んだ。
残りがいるなら、さっさと殺せよ……。快楽殺人犯が……。
俺は自暴自棄で部屋に入り、ベッドにその身体を放り込んだ。
ああ……、本当に何も出来ない奴だよ。俺っていう奴は──。
頬から、一筋の涙が流れてベッドのシーツを濡らす。
「……誰一人として助けることが出来ない──ッ!」
そのまま、俺の意識は沈み込んだ──。
◦──午後8時半
雨の交差点、救急車の音が遠ざかっていく──。
「まさか、凱人が死ぬとはな……。」
俺はあの状態の凱人を見て、もう目を覚ますことはないと確信していた。
しかし───、
「あ~あ、行っちゃったね~。響ク~ン♪」
俺は気分が上がっていた。なぜなら、雨という天気が好きだからだ。
太陽を覆い隠し、昼夜関係なくこの世界を暗闇に閉じ込める。そして──、大量の涙を流すのだ。
今から殺される奴の為に、泣いてるんだぜ。そう、この雨雲達は──。
「響音の為に、泣いてるんだぜ。響よぉ……。」
二つ目の理由として、今度は心置きなくメンバーをズタボロに出来るからだった。
しかも、響の妹をだ──。
「山田の時は気付けてたのになぁ……。凱人の死を見て安心したのか?どっちにしろ──、」
俺はニタァ──と笑うが、少し不満気な表情になる。
「──お前には、ガッカリだ。」
そもそも、今回響音が狙われている時点で俺の正体に気付けるはずだ。しかし──、
「そんな様子が全然無いんだもんな。それどころか、子供を庇って死ぬことが出来るあの優男を疑うなんて──、」
大馬鹿にも程があるっつーの。だが、
「……期待はしてたんだけどな。」
ボソッと、俺は呟いた。
アイツの知力なら、俺のことを突き止められたんじゃないだろうか……。
何にせよ、もう響の事を考える必要もないか……。
「……来たわよ。」
その時、後ろから声をかけられる。
ここは、近所の商店街の路地裏だ。さっき凱人が轢かれた交差点にも近い。
「兄貴に会ったりとかしてねぇよなぁ?響音──。」
「ええ、朝だけ……。」
コイツは、ひどく冷静だった。ん?確か送った手紙には、『兄貴を誘拐した。』って書いた気がするんだが……。
「さぁ……、──。早く私を殺しなさいよ。その為に、呼び出したんでしょう?」
コイツ、嘘だって気付いていたのか……。じゃあ何故──、
「……何故、分かっててここに来た──?」
その質問をすると、響音はゆっくりと笑う。
「お兄ちゃんを守る為よ……。私が来なかったら、あなたは躊躇いなくお兄ちゃんを攫って殺すでしょう?」
彼女はただ無表情に、淡々と言葉を並べる機械のように話をしていた。感情を消してきたか……、死ぬことを恐れていない……。
「ふふっ、そこまで分かってたのか……。流石のブラコンだな……。」
俺はそう言うと、ズボンのポケットからナイフを取り出す。
雨で濡れたナイフに、街灯の光が当たり妖しくきらめく。
俺がナイフを取り出しても、彼女は眉一つ動かさなかった。
だが、その表情が苦痛に変わってゆく様を見たいんだよ。俺はな……。
「お前もグループメンバーの一人だからな……。後輩とは言え、俺はお前を許さない───ッ!!」
俺の叫びは降り注ぐ雨で掻き消されていったが、怒りは雨で冷まされることはなかった。
そうだ──、俺は一年下のコイツにも虐めをうけていた。どこで知り合ったのかはよく分からないが、リーダーとやけに親しかった。
……同性だからだろうな。
まぁ、そんなこと今はどうでもいい。俺はコイツからもらった屈辱を返さなければいけないんだ──ッ!
────ドスッ…!
俺は、目の前に突っ立っている少女の左腕にナイフを突き刺した。
だが、目の前の少女は顔色一つ変えない。しかし──、
「その余裕も、いつまで保つかな……ッ!」
ギチギチと──、俺は突き刺したナイフを捻る。ふふっ……、力にだけは自信があるからな。
少女の左腕が赤く滲み、一瞬だけ彼女の顔が苦痛で歪む。暗くてよく見えないが、左腕の肉はえぐり出されているだろう。
「──痛いだろう?だが、まだ終わらない……。」
俺はいつものように悪魔の笑みを浮かべ、左腕のナイフを抜く。血は雨といっしょに流れ落ち、左腕は真っ赤に輝いていた。
「次は、右腕だな──。」
ドスッ───!
「………ッッ!」
今度はかみ殺した悲鳴が聞こえた。目の前の少女は歯を食いしばっている。
「あは……、あはははは────ッ!!」
俺は声高々に笑い、少女の小さい身体を強く押した──。
両腕を負傷した彼女は、バランスを崩し勢いよく後ろに倒れる。ははっ──、いい様だ……。
「この……、快楽殺人犯が……。」
少女は怨みのこもった瞳で、俺の方を睨む。さっきまで黙ってたと思えば、そんなことかよ──。
「快楽殺人じゃあない……、復讐殺人だ……。お前らへのな!」
俺はそう言って、少女の右腕に刺さっていたナイフを思いっ切り引き抜いた。
ナイフの刃先といっしょに、ドバッと血も流れ出る。
そして──、ナイフを肩より上に大きく上げる俺。
「死ねよ────ッッ!!」
振り下ろした刃先は、彼女の胸に食い込んだ。服の上が大量の赤で染色される。
「ぐふっ………。」
口からも血を流し、頭を地面に叩き付ける彼女。その後ピクリとも動かなくなった──。
「はははっ……まだ、終わらないけどな。」
そう言って、心臓に突き刺したナイフを引き抜く俺。そう、ここからが面白いのだ。
ザクッ───、ザクッ──と服が破けていく音。
突き刺さるナイフが、人の形を変えていく音。
ハァーっ、ハァーっ、と俺が理性を失っていく音。
正気に戻った頃には、目の前の少女は骨とグチャグチャした何かに変貌を遂げていた。
顔も、臓器も、完璧に破壊した──。
「復讐、完了だな。」
響は──、妹のこんな姿を見てどう思うだろうか。いや、見ないかもしれない。
そして、生きる意味を失うだろう……。
「俺も、この復讐を終えたら生きる意味を失ってしまう──。だから、『ほっといてもらえるかな』。響よ……。」
飛び散った彼女の血も、雨が全て洗い落としてくれる。彼女の死を嘆いてくれている。
「やっぱり、俺は雨が好きだよ……。」
残る標的は、下っ端の奴が一人と……、
「リーダー……。」
俺が一番殺さなくてはならない相手。それは俺と同じ高校の奴だ。
「ははっ……、フィナーレは目前だ。最高の最期を用意してやるよ……、」
そう、他でもないアイツに……
「楽しみにしてろよ?──『アーケン』。」
それがリーダーであるアイツの、名前だった。
一気に登場人物が二人死にました。急展開です。
連続させた方が響君へのダメージが大きくなるかな~って思ってこのような話にしました。響音はずっと前から決まってましたけど。
今回も読んで下さった方々、ありがとうございます!次回も宜しくお願いします!
P.S. 秋山様へ
今回は大変ご迷惑をおかけしました。この剛本、心よりお詫び申し上げます。今後はより一層努力し、精進していきたいと思います。謝罪は以上です、これからも宜しくお願いします。
───あっ、部活の話です(笑)