出会い
ユウとの出会いは、今でもはっきり覚えている。
蝉の声が響く、高校一年の夏。僕は学校に向かっていたはずの足を止めて、前を歩く同じ制服を着た男子達を見ていた。
「え!?まじで!?お前、木下さんと付き合ってんの!?」
「おう。」
「嘘だろ!?」
それぞれ個性的に制服を着崩した3人の男子達は、恋愛話で盛り上がっているようだった。僕は、彼らの話に耳を傾けながら、またゆっくりと歩みを進めた。
「昨日、ダメ元で告ってみたら、オッケーもらったんだよねー」
「すげー。お前、顔だけは良いもんなぁ。」
「てか俺、木下さんのこと狙ってたのに…。」
真ん中の彼は、「木下さん」という女子と付き合っているらしい。左端の彼が言うように、確かに整った顔立ちをしている。右端の彼は、彼と「木下さん」の関係を知って、大きなショックを受けているようだ。
くだらない。恋愛なんて、面倒くさいだけじゃないか。
そんな、他者が聞けばただの皮肉にしか聞こえないようなことを、僕は素で思った。今現在、盗み聞きという、恋愛以上にくだらないことをしているのは僕の方だけど。
僕は再び歩みを止めた。彼らと少し距離を取ろうと思ったのだ。このままだと、いつまでも話に耳を傾け、皮肉に似た言葉を並べ続けそうな自分がいることに、気づいていたからだ。
彼らの声が、遠くなっていった。もういいだろうと再び歩き出そうとした時、僕の右肩に何かが触れた。
今思い出しても、本当に不思議なのだけれど、僕はこの時、右肩に触れた「それ」を、とても温かいと思った。制服越しで、温もりなんて直に伝わるはずがないのに。なんだかとても、温かく感じた。
振り向くと、黒髪でふわっとしたボブヘアーの、顔が小さく目が大きな女子が僕の右肩に手を置いていた。
「高橋くん、おはよう!」
大きく、少し高めの優しい声が、右耳に響いた。
僕は呆然としていた。どういう反応が正解なのかがわからなかった。突然、知らない女子に右肩に触られ、声をかけられたことに驚いた。
そしてなにより、
僕は「高橋くん」ではない。
「…あの…えっと、僕は…」
「木下さん!」
違います、人違いです、と言おうとした時、前を歩いていた3人組の、真ん中の男子がこちらへ走ってきた。
どうやら、彼女が噂の「木下さん」らしい。
「木下さん、おはよう。こいつ、誰?」
彼は僕を軽く睨んだ。お前は誰だ、と彼は視線で聞いてくるが、逆に僕が聞きたい。お前は、お前らは誰だ。
「あれ?高橋くんだと思ったのに、間違えちゃった。」
えへへと笑った彼女と、苦笑する彼。その反応から、僕は彼が「高橋くん」であることを悟った。
つまり、彼女と彼は恋人同士であるわけだ。後ろ姿であったからといって、自分の彼女が自分と他人を間違えたと聞けば、良い気はしないだろう。それくらい、僕にだって分かる。
「え、えっと、僕はこれで失礼します…。」
巻き込まれたくなくて、僕は歩みをさらに進めようとした。それを見逃さなかった彼女に再び肩を掴まれた時は、絶望感に浸った。
「ねぇ!高橋くんじゃなかったら、君は誰なの?」
「……ふ、藤井です……。」
「そっか、藤井くん、またね!」
彼女の眩しい笑顔よりも、「高橋くん」の視線が痛くて、僕は彼女の手を軽く払って足早にその場を去った。
これが、僕、藤井紫耀と、彼女、木下由羽の出会い。
僕と太陽の、物語の始まりだった。