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プロローグ
「だって、初めてだったのよ。あんなに誰かに必要とされたのは。私は、彼にとっての、暗闇の中のコンビニになれたの。」
そう言って、彼女は笑う。その、太陽のように眩しい笑顔で。
そして、僕の腕をすり抜けて、彼奴の後ろ姿を追いかけるんだ。
「………待ってよ…。ねぇ、待って…。」
やっとの思いで発した言葉は、驚くほどに小さくて、去っていく彼女を引き止めるどころか、背中に追いつくことすら出来なかった。
初めて会った頃より、少し伸びた彼女の美しい黒髪が、風に乗って揺れるのを、僕はじっと見ていた。
「…君は、それで幸せなの?…ユウ…。」
昨日買い換えたばかりの眼鏡の縁が、目から溢れたしょっぱいもので濡れていくのが分かった。
僕は なんて無力なんだろう。