ROBOT HEART 【0】
※ロボハ絵本のおまけです。
The small story of doctors, girls, boys, and robots.
博士と少女と少年と、ロボットたちの小さなお話
ある日、ひとつの世界が壊れた。
それは平和な世界であったが、
一人の小さな少年と、兵器も持たないロボットで
壊れてしまう世界であった。
壊れてしまった世界には、若い博士が一人いた。
世界が壊れる前から博士は、博士になるよう決められていて、
世界が壊れたその後も、結局、博士の他にはなれなかった。
壊れる前の世界では、すべては与えられていたものだから
家のことなどさっぱりで、料理も掃除も洗濯も、
自分のはきたい靴下を、探すことすらヘタクソなことに
博士は今さらながら気がついた。
しかし博士の他にはなれない代わりに、博士はすごい博士になった。
どのくらいすごいのかというと、
作れないものなど何一つ、ありはしないくらいにすごかった。
月日は流れ、ある日の夕暮れ。
博士は若い博士ではなくなっていた。
博士は空を見上げて考えた。
かつて世界を壊した二人は、いったいどうしているのかと。
この地を飛び立ち、あの地の果てに
いったい何を見つけただろう。
博士は旅に出る事にした。
お供にロボット一体連れて。
博士が作ったそのロボットは、天使とはとてもいえない姿であったが
家のことは完璧で、料理も掃除も洗濯も、
博士がどんな靴下を、はきたいのかすら知っていた。
だから旅の間もロボットは、いつも博士と一緒であった。
世界はとても広かった。
広く大きく美しく、そして厳しいものだった。
きれいな花咲く並木道では、歌を歌う小鳥がいたり
木の実の実る木の下は、象が木の実をもいでいた。
白い波立つ海岸線では、魚が群れで泳いでいたし
山を登った雲の上では、竜が唸りをあげていた。
地面の下の穴の底では真っ黒な、何かを作る悪魔を見かけた。
しかし二人の姿はどこに行っても、どこまで行っても
見当たらなかった。
強い風吹く大地の最果て。二人の姿はそこにもなかった。
そこへ悪魔がやってきた。
「お前の探し物を知ってるぞ。世界を壊した二人の行方を」
そこで博士は悪魔にたずねた。
「彼らは今も、二人一緒にいるのかい」
「あぁそうさ。おれがお前に教えてやろう。
二人がどこにいるのかを」
しかし博士は悪魔の言葉を、断り静かに微笑んだ。
「いや結構。それを教えて見返りに
キミが何を欲しがっているのか知らないが、
二人が今も共にいる。それが分かれば充分だ」
悪魔は舌打ち一つして、いまいましそうに姿を消した。
博士はふたたび旅を続けた。ロボットと二人で旅を続けた。
大地の果ての、そのまた果てへ。
やがてガラクタだらけの土地へ来た。
博士はガラクタ使って小屋を作ると、そこで暮らすことにした。
博士にかかればガラクタも、再び命吹き込まれ、立派に動き働いた。
もちろん博士のロボットは、ここでも博士と一緒であった。
多少不便な暮らしであったが、博士は心底満足だった。
ある日、博士の元へ客が来た。
固い鉄の両腕に少女をしっかり抱えたロボットだった。
博士はロボットにこう聞いた。
「キミは何をしてるんだ」
ロボットは胸のココロを指差した。
「ボクはココロを探してるんだ。ボクはロボット、ココロを持ってる。
この子がココロをくれたから」
博士はロボット招き入れ、すぐに道具を手に取った。
「私がキミにココロをあげよう。
私がココロを作るから。キミの胸にぴったりの。
その子にココロを返せるように」
ロボットは何度も「ありがとう」と繰り返し、
機械オイルの涙をこぼした。
さらに月日は流れ流れて、博士はすっかり年老いた。
日当りの良い窓際の、椅子でくつろぎ本を読むのが
博士の小さな楽しみだった。
作れない物など何一つ、ありはしない博士であったが、
物語を作ったことは一度もなかった。
ロボットは博士がみだした本棚を、キレイにととのえハタキをかける。
博士は本から顔を上げ、ロボットに向かってこう言った。
「キミはよく働くね。不満も文句も何にも言わず」
それを聞いたロボットは、当然のようにこう返す。
「ワタシはアナタに作られた。アナタのお世話はワタシの役目。
不満も文句もありはしない」
博士はそんなロボットに苦笑い。
「いつか願いができたなら、そのときは遠慮しないで言ってほしい。
きっと叶えてみせるから」
ロボットは博士の言葉にうなずき言った。
「本を閉じてください博士。
お話は、もうおしまいの時間です」