たった一人の
高梨兄弟の話。
目が、覚めた。
「ん…」
携帯をみると今は午前十二時二十分。
カーテンの隙間から入る木漏れ日が目に染みる。
「朝…。」
何の変哲もない、日曜日だ。
少し布団にくるまってぼーっとしているとドアがあいた。
「ご飯なんだけど。」
アキトが俺を起こしにきた。
正直動きたくない。
「飯…いい…。」
「起きてんならとりあえず食べろよ、二人分つくったんだよ。」
何を作ってくれたんだろう、と思うとお腹が急に空いてきた。
俺は起き上がり、布団をよける。
「はやく起きてこいよ。」
そう言ってアキトは部屋をでていった。
アキトは料理が上手だ。
頼れる弟がいてよかったと思う。
「あ〜…起きたくねぇ…」
目をこすり、足に力をいれた。
テーブルの上に置かれているパンケーキ。
今日は手抜きだ。
「…俺が起きるの待ってたの。」
「悪い?」
「別に。」
こうゆうところはまだ家族として成立している気がする。
俺を恨んでいること以外、普通の家族じゃないか。
もっと違う兄がいれば、弟は幸せに、強く生きれたのではないか。
「そんな怖い顔して食う人初めて見るんだけど。」
アキトに言われて気づいた。
つい、深く考えてしまう。
「いや、美味しく作れる才能が羨ましいなと。」
「お前が料理できるのは知ってんだよ…。」
機嫌を損ねてしまった。
アキトは、俺の事を知っている。
肝心なとこは知らないけど、ちゃんとわかってくれているんだ。
「兄に似て、完璧な人間に育ったこと。」
「ちげえ!親に似たんだよお前に似たんじゃねえ!」
この異常な怒り方は面白いと思うけど。
きっとこれは、母似。
「お前のすぐ怒る癖は誰に似たんだろうな。」
「…え?」
少し、不安な顔をする。
「な、何言って…」
アキトは、母を知らない。
「どうせ親が違うとかくだらない事考えてんだろ?遺伝はじいちゃんとかからもするんだよばーか」
「なっ!騙したな!?」
顔を真っ赤にして俺を睨む。
「騙してねーよお前が勝手に、勘違いしたんだよ」
「うざ!くそ兄貴!!」
「勝手に言え。」
まだ、餓鬼だなあ。
俺も餓鬼だけど。
一通りご飯を食べ終わり皿を片付ける。
「また寝るの?」
「寝るよ、する事ないし。」
まだ四時間くらいしか寝れてない、正直眠すぎすぎる。
アキトは俺が寝て不利益でもあるんだろうか。
「何、もしかして寂しいの?」
冗談で言ってみる。
しかし少し方向性は違えどあっていたようで反論してこない。
しょうがなくテレビをつけソファに座る。
DVDが入ってたらしく、チャプターメニューが表示された。
「あっ…!」
なんだろう、AVでも見ていたのか。
『呪怨』
「ひいいいいっ!」
「…」
まさか、これを見て怖がっていたのか。
俺は再生ボタンを押す。
「何してんだよ!!くそ兄貴!!!」
そう言いながら俺の隣に座ってくる。
チャプターを選んでいく。
「どっから見てないの」
ホラー映画なんてなんとも思わない。
「24番…」
意外と最終面だ。
「俺…今日呪われる…」
これ見た人全員呪われていたらホラーもくそもないだろ。
「くっつくなよ」
必要以上にくっつかれるとあつい。
「ふ、不可抗力…」
腕をつかむ手が痛い。
映画を見ているといきなり変な霊みたいのがでてきた。
「いやああああああ!!!ああああ!!ああああああ!!!」
う、うるさい…。
「耳がちぎれる…。」
「も、もう見れない…。」
そう言うと俯いてしまった。
結局、最後までアキトは叫び続けた。
「拷問ビデオだった」
「耳がきっととれた。」
少しストーリー的には面白かったが、みたくないのを見るのは何故だ。
「なんでみたくないのを借りてきたんだよ」
「ヒロキに借りた…。」
アカラギの顔がうかぶ。
「じゃあ、俺は寝る。」
無駄な時間を過ごした。
「お、俺幽霊に連れてかれる…。」
知るか。
アキトの事など考えず階段をのぼる。
俺は眠いんだ!
しかし、そのバチがあたった。
「あっ」
階段を登る足を滑らす。
そのまま体重は重力に従い地面へと吸い込まれる。
「兄ちゃん!!」
階段を落ちていった。
あれ、前も階段から落ちたことあったような。
それで、アイツとあったんだっけ…。
目を覚ますと、ソファの上にいた。
前の時とは違い、足に痛みは感じない。
軽症ですんだみたいだ。
青ざめた顔をしたアキトがこっちを見ていた。
その目から涙が零れていく。
「…えっ!?いや、えっ!?」
さすがに戸惑う。
なんで涙なんか、流しているんだよ。
もしかしたら何かしてしまったのかもしれない。
アキトが俯きながらぼそりと言う。
「し、死んだかと思った…。」
その手は尋常じゃないくらいに震えてる。
ああ、こんな風にしてしまったのは俺じゃないか。
「生きてるよ。」
「俺の家族はさ、もう、兄ちゃんしか、いないのに…」
俺でいいの?
俺なんかより、他の家族と暮らした方が幸せなんじゃないのか?
今はその泣いてる頭にただ、手を置いた。
「ごめん…。」
「本当だよ…バカ…。バカ兄貴。」
たった一人の家族なんだ。
大切にしていたい。
ただ、そう思った。
ホラー系は苦手です。
楽しそうな顔してホラーゲームをする人を知ってます。
神経おかしいんだろうなと思ってます。