沙夜の存在
「取り合えず、何処かに入ろう」
そう言って、沙夜が喫茶店に入る。
あたしは、その後に続いた。
店に入ると、落ち着きのあるお洒落な店だったの。
あたし達は、窓際の席に座った。
そして、レモンティーとショートケーキをそれぞれ頼んだ。
あの後、あたし達は学校の近くにある喫茶店に入ったの。
あたしは滅多に喫茶店なんて行かないから、凄く新鮮な感じがする。
外は、慌ただしく行き交うサラリーマンの人達が多い。
店の中も、モーニングを頼んでる人もいる。
その中で、あたし達は、場違いなのかもしれない。
けど、今はそんな事どうでもいい。
何で、自分が気付かないうちに感情が、現れるのか?
自分でも、コントロールの仕方を忘れてるんじゃないかと思えてくる。
「未月。少しは落ち着いた?」
沙夜が、優しい声音で言う。
あたしは、静かに頷いた。
「どうしたの、急に?さっきまで元気にはしゃいでたのに……。暁と何かあったの?それとも、違う何かがあったの?」
心配そうに沙夜が、顔を覗き込んできた。
あたしは、ただ黙って俯いた。
「ねぇ、未月。聞かせてよ。一人で悩むよりも、二人で一緒に考えた方がいいよ。それに、未月が元気ないと、こっちまで元気なくなるんだからね」
優しい声。
でも、何処から話せばいいのかわからないの?
「ねぇ、未月。前に私が言ったこと覚えてる?」
エッ…。
あっ…。
あの時、沙夜は、自分の事を例えてアドバイスしてくれたっけ…。
あたしは、あの後どう答えを出した?
確か、暁の事、ほっとけ無いって、沙夜に言ったんだよね。
さっきも、暁の事ばかり考えてて…。
自分が、情けなくて…。
暁の存在が、大きくなってるのに、未だに言えないでいる。
それは、ファンの子達の存在が怖いからだ。
あの子達に聞かれたら、何をされるかわからない。
「ねぇ、沙夜。あたし、どうしたらいいのかな?」
「何が?」
「あたしが、暁を好きに…気になり始めているのは、事実。けど、彼女達の存在が怖くて、なにも出来ない。どうしたら…」
「そうか。未月も悩める乙女をしてるんだね。でも、このままじゃ、埒が明かないわよ。いっそうの事、ラブレターでも書いてみたらどう?」
ラブレターか…。
でも、どう表現したらいいのか…。
「それとも、直接本人に電話してみればいいじゃない」
沙夜は、簡単に言うけど、あたしには、そんな勇気はない。
「じれったいな。だったら、直接本人に言いなさい。その方が、暁も嬉しいはずよ。彼女達の事は、気にしないこと。いいね」
あたしを励ますように言う沙夜。
「未月の場合は、暁の方から告白してきたんだから、それに応えるだけでしょうが…」
それは、そうなんだけど…。
でも、気が引けるよ。
「大丈夫。私が保証する」
沙夜が、強気で言う。
「沙夜の言葉、信じていいよね」
「信じてよ。今までだって、未月に疑われるようなことした?」
あたしは、首を横に振る。
「でしょ。だったら…」
「うん。信じるよ」
いつも、沙夜があたしを励ましてくれる。
あたしが、悩んでると助けてくれる。
でも、あたしが沙夜に返す事って、何が出来るんだろう?
今までだって、返す事出来なかった。
唯一出来ることは。
「ありがとう。悩みを聞いてくれたお陰で、少しは楽になれたよ」
って、お礼を言うぐらい。
「いいよ。未月の明るい笑顔が戻ってきたのなら」
沙夜が、照れ笑いする。
「それじゃあ、店を出ますか」
「そうだね」
私達は、支払いを済ますと店を出た。
「さて、どうしましょうか?」
沙夜が、おどけて言う。
「どうするって、学校に戻らないの?鞄教室に置きっぱなしだよ」
「そうだった。じゃあ、学校に戻ろう」
沙夜が、ニコニコしながら言う。
あたしも、つられて笑顔になる。
「未月は、自然体のままでいいんだからね。回りの事なんか、気にしちゃダメだからね。未月は、笑顔が一番可愛いんだから……」
って、沙夜に言われて自分でも、そう思った。
回りを気にしてたら、何も出来ないって事がわかったから。
あたしは、有りのままの自分でいればいい。
回りの雰囲気に自分の感情を殺す事なんか無いんだって、沙夜に教わったよ。
これからだって、まだ色々と教わらないといけないことがあると思うけど、その時はよろしくね、沙夜。
あたしは、心の中で沙夜に改めてお礼を言いたい。
ありがとう。