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利恵の存在

生徒会室に着くと、目の前の椅子に座る。

乱れた呼吸を整えながら、頭の中を整理していた。


なんで、逃げ出したのかなぁ?

あの態度は、暁を傷つけただろうな…。

今のあたしには、こうする事しか出来ない。

本当は、暁の気持ちの応えてあげられれば、一番いいんだろうけど…。


「未月、居るんだろ?」

暁の声が、戸の向こうから聞こえてきた。

やっぱり、怒ってるよね。

あんな態度とったから…。

ごめんね。

そう反省してる時に、暁が入ってきた。

そして、あたしの背後から抱きついた。

「そんな、露骨に避けてくれるな。オレ、どうしたらいいのかわからなくなる」

あたしの耳元で、静かに囁く。

「未月、オレの事、嫌いなのか?」

あたしは、首を横に振る。

嫌いじゃない。

むしろその逆で、好きになり始めてる。

って、口にして言えない。

「黙っていないで、なんか言ってくれ!」

暁が、あたしの前に回って言う。

「未月。オレは、お前に避けられるのが、一番辛いんだ」

悲しい色に浮かび上がる、暁の瞳。

あたしは、その瞳から目を逸らせない。

「ごめん。だけど、もう少しだけ待って欲しい。お願い」

あたしは、その瞳を見つめて言う。

「オレは、そんなに長く待てない!」

暁は、それだけ言うとあたしを力強く抱き締めてきた。

そして……。

激しいキス。


パンッ!

あたしは、暁の頬を思いっきり叩いた。

暁は、その頬に手を押し当ててる。

「ゴメン。でも、もう少し待ってて欲しい。暁への気持ちをはっきりさせるから…」

あたしは、それだけ告げると、暁の前から逃げるように立ち去った。


この事を利恵に見られてたなんて、思いもよらなかった。



翌日。

あーあ。

あんな風にファーストキスを奪われるなんて、思わなかった。

何時ものように登校する。

けど、校門のところには、暁のファンの子達が、ずらりと並んでいた。

あたしは、そのまま校門を潜ろうとした。

けど。

彼女達に行く手を塞がれた。

「生徒会長!少し、顔貸してくれます」

あたし、ファンの子達を見渡した。

物凄い剣幕で、あたしの事を見ている。

あたしが、何したって言うのよ。

「いいわ」

そう返事を返すと、あたしを囲むようにして、歩き出した。


連れてこられた場所は、体育館裏の雑木林。

何が何だかわからないあたしに。

「会長!昨日、暁くんとキスしたって、本当ですか!?」

突然の質問に、一瞬戸惑った。

何で、そんな事を…。

「してないわ。何で、あたしと暁がそんな事しなきゃいけないのよ」

開き直ると。

「でも、実際に見たって言う人が居るんです」

穏やかな口調で、言ってきた。

「そんなの出任せだわ。あたしは、昨日は親友と屋上で話してたのよ。何で、そんな事になるのかな?」

冷静さを取り戻して言う。

「証拠があるのよ。沢田さん」

そう言って、ファンの子達を掻き分けるようにして、現れたのは、利恵だった。

「これが、その証拠よ」

利恵が見せつけてきたのは、シルエットだけの写真だった。

あたしは、その写真を奪い取ると、食い入るように凝視した。

そんな…。

確かに、あたしと暁が生徒会室で、夕闇の中、キスしてるところが映っている。

あたしは、その写真を呆然と見つめた。

「観念するのね、沢田さん。彼女達にもこの写真を見せたわ。これで、言い訳出来ない……させないわ!」

利恵が、薄笑いを浮かべ。

「このままでは、会長の座も危ないかもね」

嫌みを言う。

あたしは、その写真を見つめ続けた。

「悔しくて、何も言えないのかしら…オホホホ…」

利恵が、甲高い声で笑う。

写真には、シルエットしか写っていない。

ましてや、暁の影であたしとは、わからないはず。

ならば…。

あたしは、微笑みを浮かべる。

「何が、おかしいの!」

利恵が、苛立った様に怒鳴り出す。

「残念だけど、この写真にはシルエットしか写ってないわ。それに、相手の女の子の方は、暁の影で、誰だかわからないわよ」

あたしが言うと、彼女達が。

「そう言われれば…」

「シルエットだけじゃ、誰かわからないよね」

口々に言い出した。

よかった。

信じてくれて…。

「それじゃあ、あたしは教室に行ってもいいのかな?」

あたしは、笑顔を浮かべて優しく訪ねた。

「はい。すみませんでした、会長」

彼女達が、一斉に頭を下げるなか、利恵だけがそっぽを向いていた。

「いいのよ。誰にだって、間違いはあるのだから。それじゃあ」

あたしは、それだけ言うと昇降口に向かって歩き出した。

皆を騙してるってだけで、罪悪感を感じるよ。


「おはよう、沙夜」

先に教室に来ていた沙夜に声をかけた。

「おはよう、未月。今日は、ゆっくりなのね」

「ちょっとね。それより、今日の帰り、待っててくれない?」

「いいけど。何かあったの?」

沙夜にが、心配そうに言う。

「ちゃんと話すから、今は何も聞かないで」

沙夜には、本当の事を話したいけど、教室じゃあ話しにくい事だから……。

「ってことは、今日は未月ちゃんの奢りですね」

沙夜が、冗談ぽく言う。

「そういう事になりますかね」

あたしも吊られて、おどけるように言う。

そして、顔を見合わせて、吹き出した。

「約束だからね、未月」

「うん」

あたし達、何時もと変わらない。

ケンカした後や絶交宣言しても、直ぐに仲直りしちゃう。

それに、隠し事もあたし達の間には無いもの。


「ところで未月。リーダーの訳やって来た?」

突然沙夜が、言い出した。

「やってはあるけど、自信はない」

あたしはそう言いながら、鞄からノートを取り出す。

「見せて」

そう言って、ノートを奪ったのは暁だった。

「いつの間に!」

あたしと沙夜は、同時に声を上げた。

「ひでーな、そりゃないだろう。居たらまずかったか?」

暁が、拗ねるように言う。

「ビックリさせるあんたが悪い」

そう言い返したのは、沙夜だった。

「ビックリさせるも何も、オレ、さっきからここに居たぜ」

悪戯顔で言う暁も、可愛いなぁ。

男の子に、可愛いは変かもしれないけど……。

何て、思ってるあたしって、一体…。

「ダメ!これは、私が最初に未月に言ったから、私が借りるの!」

沙夜が、主張する。

だけど。

「いいじゃんか。オレだって、頼むつもりでここに居たんだから」

暁も負けじと主張する。

「少しは、自分でやったらどうなの?」

なおも沙夜が、言い返す。

「自分の事を棚にあげて、何を言う。それに、お前には拓也が居るだろうが!」

そんな二人のやり取りで、ついつい吹き出しちゃった。

「未月。何も笑う事ないじゃん」

暁が、言い出す。

「エッ。だって、別に取り合わなくても一緒に見て写せばいいじゃない」

あたしが言うと。

「そんなのヤダ!だったら、私、拓也の写させてもらう」

沙夜が、駄々っ子のように言うと、拓也の席へ行ってしまった。

全く、なんだったんだろう?

「それでは、これを写させて戴きます」

そう言って、暁は、あたしの前の子の椅子に座り、あたしの机の上で写し始めた。


「未月。お前、さっきファンの奴等に連れていかれただろ」

突然、暁が口を開いた。

「エッ…。何で知ってるの?」

あたしは、大声で叫ぶ。

無論、教室中の注目を浴びた。

「そんな大声で叫ぶことかよ」

暁が、耳を塞ぐ。

「悪かったわね」

暁と目を合わせないようにそっぽ向く。

「ちょうどな、お前と同じ時間に登校したもんだから、後を付けて行ったわけ」

「じゃあ、何で、助けてくれなかったのよ」

暁を睨み付けた。

「だって、入っていける雰囲気じゃなかったし、それに、なんとか切り抜けたみたいだったから……」

ノートを写しながら、言ってる暁の表情かおは、心配しているような顔つきだった。

「ごめんね…。心配させちゃって…」

あたしは、暁の耳元で小声で言った。



ガラ……。

後ろの戸が開く音が聞こえてきた。

あたしは、そっちに目を向けた。

利恵が入ってきた所だった。

利恵は、その場所であたしの方を睨んでいた。

いつもの事なんだけど、なんか妙に殺気が感じられるのは、なぜ?

あたしには思い当たることなんて、ないんだけど……。

あたしが、考えに耽っていると。

「何考えてるんだよ、未月?」

暁の声が、耳に届く。

「エッ…。ああ、何でもない…」

あたしは、暁の方に向き直ると、それだけを告げた。


あーあ。

さっきから、利恵の殺気が……。

なぜ?

ただ、暁と居るだけなのに…。

暁と……。

もしかして、利恵は暁の事、好きなのかも…。

でも、確信が持てない。

本人から、聞いた訳じゃないもの。

だけど、凄く気になる。

二人の関係って、なんなの?

でもなんで、こんなに不安なんだろう?


「おい、沢田。どうした?」

先生が教壇から声をかけてきた。

あたしは、顔をあげると。

「何、泣いてるんだ?何処か痛いのか?」

心配そうに言う先生。

エッ……。

あたしは、指で涙を拭く。

けど、止まることなく、次から次へと溢れてくる。

「それとも、気分が悪いのか?だったら、保健室にでも…」

先生が、おろおろしながら言う。

あたしは、首を横に振る。

「じゃあ…」

戸惑っている先生に沙夜が。

「先生。私が、家に連れて帰ります」

って、言い切った。

「そうだな。少し、休むといい」

「ほら、未月。先生の許可も出たんだし、行くよ」

沙夜は、あたしの腕を掴むと、立ち上がった。

「後の事は、任せなさい」

先生が、笑顔で言う。

あたしは、沙夜の後ろを付いていくだけで、精一杯だった。


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