自分の気持ち
翌日の朝。
「おはよう未月」
沙夜が、何時ものように挨拶してきた。
「あっ、おはよう」
あたしは、慌てて返す。
ハァー。
朝から、何度目かの溜め息。
「どうしたのよ。元気無いじゃん」
沙夜が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ちょっと…ね」
「ちょっとどころじゃないじゃん。話してみなよ。少しは楽になれるって」
沙夜は、気楽に言ってくれるけど、何から話せばいいかわからない。
それに話していいのかわからないい。
あたしは、一番後ろの席を見た。
その席は、暁の席。
本人は、まだ来ていないみたいだ。
ハァー。
「未月。溜め息ばかりついてると、老けるよ」
沙夜が、面白半分で言う。
「そんなに言いづらいことなら、無理して言わなくていいよ。でも、自分でもわからない時には、いつでも相談しにきなさい」
沙夜が、笑顔で言う。
「ありがとう」
その気持ちだけ受け取っておくね。
今は、一人で考えてみたいの。
自分が、どんなことを望んでるのか?
何をしたいのか?
それがわかるまでは…ね。
でも、いくら考えてもわからない時は、沙夜に相談しに行くから、その時まで待ってて。
だけど、なぜ、暁は急にあんな事を言い出したんだろう?
暁の事、友達としてしか見て無かった。
でも、今はどうなんだろう?
なんだかんだ言って、結局、暁の事を考えてる。
どうしてなの?
暁の事で、こんなにも悩んでいる自分が、可笑しい。
当分の間、暁の事考えない方がいいのかもしれない。
そう結論に至った時だった。
「おはよう、未月」
不意に背後から暁の声。
「えっ、あ。お、おはよう」
タイミング悪すぎ。
つい、どもってしまった。
思いっきり、不自然だよね。
「何どもってるんだよ。オレ、何かした?」
昨日の事を何もなかったかの様に言う暁。
もしかして、緊張してるのってあたしだけ?
暁は。なんとも思ってないの?
ずるいよ。
あたしは何も言えず、俯く。
「黙るなよ。…ったく」
そう言うと、離れて行った。
ずるいよ。
あたしが、何も言えないのを知ってて、言ってるんだ。
ただ、からかって、面白がってるだけなんだ。
あたしの事を…。
そう思ったら、腹が立ってきた。
「未月。暁と何かあった?」
沙夜が、不思議そうに聞いてきた。
「ちょっと…ね」
あたしは、そう言うと席を立って、廊下に出た。
「ちょっと未月。そんな顔して、どこ行くきよ?」
沙夜が、心配して追い駆けてきた。
沙夜に言われるまで、気付かなかった。
あたしの目から、涙が溢れている事に……。
本当にわからなかった。
頬を伝って落ちる涙に、廊下ですれ違う度に振り返られてる事にも…。
「沙夜…。あたし、どうしたらいいのか…わからない…」
吐き捨てるようにあたしは言った。
沙夜が、あたしを抱き止めてくれる。
そして、子供をあやすように頭を撫でて来る。
「未月らしくないわね。私でよかったら相談してよ」
優しい声で、沙夜が言ってくれる。
「沙…夜…」
あたしは、顔を挙げ、沙夜の顔を見る。
「私とあんたの仲でしょ。今までだって、色々と二人で解決してきたんだから、これからだって同じでしょ」
沙夜が優しくなだめてくれる。
「ありがとう沙夜」
本当に感謝してる。
「あっ、そうだった。担任に呼び出されてたんだ。後で、ちゃんと聞いてあげるからね」
沙夜はそれだけ言うと、職員室に向かって走って行った。
あたしは、とにかく一人になりたかったから、生徒会室に向かおうとした。
でも、そうはいかなかった。
暁のファンの子達が、行く手を遮っていた。