彼の想い
あたしは、理由もわからず、ただされるままだった。
「…どうしたの?」
やっとの思いで、口にした。
「未月。オレ…、お前の事が好きだ!」
暁があたしの耳元で言う。
エッ…。
「今、何て…」
「未月が、好きだ!」
あたしが好き?
冗談でしょ?
何時ものように、からかってるんでしょ?
だって、暁には他にも美人の彼女が、沢山居るもの。
嘘だよって、言ってよ。
何時もみたいに、言ってよ…。
「冗談で、こんな告白しない。オレ、気がついたらいつも未月の事を目で追ってたんだ。家に帰ると、お前の事ばかり考えちまって、何も手につかないんだよ。どうしたらいいんだ?」
暁の悲痛の声。
ウ…ソ…でしょ。
あたしの事で、そんなに悩むなんて…。
あたしみたいな、何の取り柄の無い子に…。
だけど、あたしは、暁の事そんな風に考えた事無い。
そんな事言って、暁を傷つける事も出来ない。
どうしたらいいの?
あたしが、悩んでいる間、暁の腕に力が加わってきた。
「い…た…痛い…。暁、もう少し腕の力を緩めて」
消え入りそうな声で、暁に言う。
だけど、あたしの声は受け入れてもらえず、逆に強くなる。
「未月。なぜ、何も言ってくれないんだ?オレの事、嫌いなのか?」
初めて聞いた、暁のうろたえた声。
いつも、明るい声しか聞いた事無いから…。
あたしの知らない暁が、目の前に居る。
そう思うと、やりきれない。
「暁…。お願いだから…放して」
あたしの途切れ途切れの言葉を無視して。
「お前が…。未月が、オレのものになるなら、解放してやる」
暁が、言う。
そんな暁に。
「あたしは“もの“じゃない。ちゃんと感情のある人間だから勝手に商品扱いしないで!!」
怒りをぶつける。
人の気持ちを無視して、自分の気持ちを押しつけるなんて、どうかしてる。
だけど。
「あの時…、ファンの奴等に言われるまで、考えた事なかった。でも、やっと気付いたんだ。オレは、未月の事が好きなんだって…。友達とか、クラスメートとしての好きじゃなくて、愛しい気持ちの好きなんだって…」
切な気な声。
そんな風に言わないでよ。
あたしは、何もしてあげられない。
「ただ、未月に傍に居て欲しい…。ゴメン。そんなに困らせるつもりじゃなかった」
暁は、それだけ言うとあたしへの抱擁を解くと、生徒会室を出て行った。
あたしは、全身の力が抜けて、その場に座り込んだ。
あたし、あなたから離れようと思ってたのに…。
何で、突然そんなこと言うの?
もし、その場でOKしてたら、あなたはどんな顔をした?
さっきのあなたは、切な気な表情をしていた。
そんなあなたを突き放す事も出来なかった。
あたし自信、暁の事、なんとも思っていない(何て、嘘になるけど…)。
でも、まだ何とも言えないの。
ちゃんとした答えが出せないで、ごめんなさい。
あたしは、心の中で暁に謝る。
口にしなきゃいけないのは、わかってる。
でも、どうしようも無いから…。
自分の気持ちがわからない今、何を言っても暁を傷つけてしまうだけだと思うから…。
だから、答えずにいた方がいいと思ったの。
本当にゴメンなさい……。