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手紙

ハァー。

「ねぇ、未月。どこにあんなばかを引っ張る力があるのよ?」

隣の席の紗夜が、聞いてきた。

あんなばかか…。

確かにそうかもね。

「さぁ、あたしにもわからない。ただ、授業だけはちゃんと出て欲しいって思ったらつい…」

ハァー。

一体、何してるんだろう、あたし…。

「でもさぁ。未月って、外見から見ると“守ってあげなきゃ“ってタイプなのに、いざって言うときは、凄い力が出るもんなぁ」

紗夜が、小声で耳打ちする。

「そうかなぁ。あたしは、普通だと思うけど…」

あたしが、紗夜にそう告げた時だった。

「そこ!何してるんだ。そんな余裕があるなら、前に出てこの問題を解いてみるろ」

と言う声が、教室に響く。

いけない。

授業中だった。

紗夜が、バツが悪そうな顔をする。

「ごめん」

小声で、一言言ってきた。

「いいよ。この問題は、予習しておいたから、それに紗夜を攻めるつもり無いよ」

あたしは、それだけ告げるとノートを持って前に行くと、チョークを手にして答えを書く。

「正解だ。以後気を付けるように」

あたしは、自分の席に着くと、フッと息をついた。

座ったとたん、窓側の方から、クスクスと笑う声が聞こえた。

その声の主は、利恵とその取り巻き達だった。

利恵こと相沢利恵は、校長の娘で、あたしの後釜を狙ってるらしい。

なぜ、“らしい“なのかと言うと、あたしが聞いたのはウワサであって、直接本人から聞いた訳じゃ無いんだ。

だから、確信が持てない。

まぁ、そんな事、どうでもいいんだけどね。

しかし、利恵は何かとあたしに絡んでくるから、知らん振りするのが一番かな。

気を取り直して、授業に集中しよっと。


「未月、これ……」

あれから、二十分後の事。

あたしの後ろの席の子が、手紙を回してきた。

表には、あたしの名前が書いてある。

裏を返してみるが、何も書いていない。

不思議に思いながら、その手紙を広げた。

“ 未月へ

いつもありがとうな。

本当言うとオレ、未月に甘えてたんだと

思う。

でも、違ってたんだな。

いつも、困らせてたんだなって…。

それでも、オレを庇ってくれてた。

その事は、感謝してる。

今までのお礼に今日の放課後、カフェに

行かないか?

もちろん、オレの奢りだ。

その時に、お前に話したい事がある。

一方的で悪いが、読み終わったら返事くれ。

暁“

暁からだなんて、何て珍しい。

けどなぁ、放課後は生徒会活動もあるし…。

でも、暁の話も気になる。

どうしよう。

どうしたらいいのよ。

ちょうどその時。

「未月、どうしたの。何か、悩み事?」

右隣の子が聞いてきた。

顔を上げると、授業は終わっていた。

「ううん。何でもないよ。ほら、もうすぐ学園祭でしょ。その事でちょっとね」

ごまかすようにそう告げた。

「アッ、そっか。もうそんな時期なんだね。未月も大変だね」

そう言うと、他のクラスメートのところに行ってしまった。

「ハァー」

「何、溜め息なんかついてるのよ」

紗夜が、“辛気くさいわね“って顔をする。

「ちょっと、困ってることがあって…」

あたしが言うと。

「なら、屋上に行く?」

紗夜が聞いてきた。

あたしは、黙って頷いた。

あたし達の中での“屋上に行く?“は、相談にのってあげるよって言う意味合いがある。

あたしは、席を立つと紗夜と廊下に出た。

その時、視界の隅に暁と拓也が、楽しそうに話してる姿が入る。

けど、暁の視線はあたしを監視してるみたいだ。

そんな目で、見ないで欲しい。

余計に動揺するじゃんか。

あたしは、視線を反らして、屋上に向かった。



今は、秋です。

秋っていっても、夏の名残が漂っている。

心地よい風が、あたし達の間を通りすぎていく。

「それで、何に悩んでるの?」

屋上に着くと、紗夜が問いただしてきた。

あたしは、さっき回ってきた手紙を差し出す。

「読んでもいい?」

紗夜の問いに頷くと、その手紙を読み出した。

あたしって、本当に決断力無いな。

何て、反省しながら、空を仰いだ。

澄み切った青空に心が、洗われるようだ。

そんななか、紗夜が。

「なーんだ。こんな事で悩んでたの?」

何でもないじゃんって、他人事のように言い出した。

“こんな事“って、それは無いんじゃ……。

人が真剣に悩んでた事を…。

「私なら、生徒会の方を優先するな。この時期に行事が多いし、それに他の生徒の模範生なんだから、そんな事できない」

ハッキリと紗夜が言う。

「もしそれが、拓也だったりしても」

「確かに、気にはなるけどさぁ。それでも生徒会の方を選ぶよ。自分の事は後回しにして、他の生徒の役に立つ方がいいもん」

さすが、紗夜。

自分の思ってることをはっきり言うな。

それに、頼りになる(あたしにとって)。

「でもね。そういう事は、じっくり考えて自分で決めなさい。後で、後悔しないためにもね」

紗夜が、優しく囁く。

「わかっています」

あたしは、真顔で答える。

「まぁ、今の未月には、恋愛よりも自分の役割をきちんとしておかないとね。後で、つけ込まれ無いためにもね」

と付け加えられた。

そうだよ。

あたしには、まだ先の事だ。

ゆっくり考えればいいことなんだ。

そう思ったら、気が楽になってきたかも…。


そういえば、あたしって他の生徒から見ると、どう思われてるんだろう?

大人っぽい?

それとも、子供っぽい?

ただのお飾りの会長かな?

それか、何も知らないお嬢様?

理事長の娘ってだけで、持て囃してるだけ?

ねぇ、誰か教えて。


今のあたしの気持ち、誰かが、気付いてくれるかなぁ?

疑問符だらけのこの心を…。

どうしたら、解消することができるの?

嫌だな。

こんな事を考えてる自分が、大っ嫌いになりそうだよ。

「コラッ。そんなに考え込まないの。マイペースで考えて、確実な答えを自分で出せば良い。未月らしい答えが、どこかにあるはずだから」

優しくなだめてくれる紗夜。

そうだよね。

あたしらしい、返事を返せばいいよね。

「それより、教室に戻らないと、授業始まる」

紗夜に促されて、屋上を後にした。



放課後。

あたしは、相当悩んで、今生徒会室に居る。

暁の申し出を傷つけないように断った。

暁の話も気にはなった。

が、今日はどうしても、抜け出すことが出来なかった。

皆が待ち遠しく思ってる(?)学園祭の話し合いをしないといけなかったから…。

日時だけでも、正確に設定して、大まかなことも決めたかった。

会長職も、楽じゃない。

何てね。

本当は、暁のファン(彼女達)が怖いだけ。

彼女達に知られたら、何をされるかわからない。

それだけ、彼女達の存在は圧倒的だった。

ハァー。

何度目かの溜め息。

そして、窓に目を向ける。

雲一つ無い空。

こんな日は、どこか出掛けたくなる。

そんな事を考えながら、視線を落とした。

正門に持たれながら、暁が空を眺めてる姿が目に入った。

そこには、女子生徒が遠巻きで見ている光景が…。

何で、待ってるの?

しかも、そんな目立つ所で。

待って居ても、あたしは行けないのに…。

それなのに、何で居るのよ。

早く、帰って…。

あたしは、心の中で祈った。

「会長…会長?沢田会長」

不意に呼ばれて、生徒会室を見渡した。

皆が、不思議そうな顔をして、あたしを見る。

「あ、ごめん…。で、何?」

「“何“じゃありません。体育祭で行う競技をどうしますか?って聞いてるんです」

そんな事か…。

「それだったら、生徒にアンケートで決めてもらいましょ。やるのはあたし達なのだから、全校生徒がやりたいと思う競技もあるでしょ」

「そうですが、あらかた決めておいてからの方がよいのでは?」

そう思うのなら、最初から盛り上がりそうな競技ものをピックアップしときなさいよ。

苛立ちながら。

「だったら、クラス対抗リレーと短距離走は、確実に入れておけばいいでしょ。あたし、個人的には、男子の騎馬戦は見たいけどね」

「私も、男子の騎馬戦、見たいかも」

その場に居た、役員女子全員が頷く。

「じゃあ、騎馬戦も決定にしちゃう?」

あたしの一言で。

「賛成!!」

女子の元気な声が返ってきた。

その横で、男子が面倒くさそうな顔をする。

この差は…。

「後は、体育会系の部対抗リレーとかは?」

「それ、面白そうですね」

「まぁ、あとは無難な競技をいくつかピックアップしておいて、他にやりたい競技を書いてもらったらどう?」

全員が頷く。

「それから、一つ提案させてもらってもいいですか?」

副会長が言う。

「どうぞ」

「クラス対抗応援合戦ってのは、どうですか?」

クラス対抗応援合戦?

「各クラスで応援団を作って、応援の仕方を来賓の方々に審査してもらうってのは?」

「それ、面白そう」

「それ、採用しよう。色んな応援がありそうね」

問題もある。

審査して、優秀な所には、何か渡した方がいいのかな?

「応援で、それぞれ賞を作るのもいいかも」

それぞれの賞?

「例えば、ユーモア賞とか頑張ったで賞とかさ」

そっか、そういうのもいいかも。

「そうだね。それは、追い追い考えていこうか。今度は、文化祭の方を…」

そこまで言いかけて。

「文化祭は、軽音部の方から、野外コンサートをしたいと、前から申し出がありますが」

そっか。

「じゃあ、中庭にステージを作るスペースがあるから、そこでやってもらえばいいんじゃない。次いでって言ったらいけないかもしれないけど、吹奏楽部もそこでやってもらおうか」

あたしがそう言うと。

「講堂では、何を?」

「演劇部にコーラス部が、使いたがっています」

「それさ、体育館にしてもらっていいかな」

「何故ですか?」

「最終日にダンスパーティーを講堂でしたいんだ。参加は自由。ただ一つ、仮面をして来る事。生徒会企画で、告白する時間を作ってあげるの。折角のお楽しみなんだから、楽しい事したいじゃん」

「それ、凄く楽しそう。誰だかわからないって事ですよね」

「早々。でっさ、好きな人なら雰囲気とかで相手がわかるよね」

そうだと思うけど…。

付き合ってる者同士だと、最初から一緒に来るしね。

「会長が言うのは、面白いと思いますが、告白のタイミングとかはどうするんですか?」

「それは、あたしがステージの横で声を掛けるから、そのタイミングで照明を少し落としてもらえれば良いと思う。ただ、その時に渡すものがあればいいんだけど…」

全校生徒に同じようなものを準備するのも、生徒会の仕事なのだ。

そんな余分な予算、無いよね。

お父様に頼むわけにいかないし…。

困った。

「今日は、これで解散にしましょう。残ってる問題は、明日にでも話し合えばいいんじゃないですか」

あたしは、壁に掲げられた時計に目をやる。

確かに、下校時間はとっくに過ぎていた。

「そうね。今日は、お開きにしましょう。お疲れさま」

あたしの言葉に全員が動き出した。

全員が部屋を出て行くなか、あたしは一人残った。


一人で、書類の整理に追われていた。

去年の学園祭のデータをノートに箇条書きで写し出した。

ハァー。

こんなんで、学園祭までに間に合うのかなぁ。

取り合えず、明日やることは…。

まずは、体育祭のアンケート用紙の作成。

ダンスパーティーの予算と野外ステージの骨組みの予算。

それと出店の商品やコスチュームの予算etc…。

どうやって、やりくりしたらいいんだろう?

頭が痛いや。

いっそう、お金の成木でもあればいいのに…。


何て、頭を抱えて考えていたら。

ガチャ…。

突然、生徒会室の戸が開いた。

ビックリして、顔を上げると、戸口の所に暁の姿があった。

「どうしたの暁?下校時間はとっくに過ぎてるよ」

そう言って、あたしは席を立つ。

暁が、無言であたしの方に近づいて来た。

「ねぇ。どうしたっていうの?」

あたしは、暁の顔を覗き込む。

暁は真顔で、あたしの事を見ていた。

そして、そのまま抱き締めてきた。


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