思惑
やっぱり、生徒会室が一番落ち着く。
あたしの唯一の逃げ場所。
逃げてばかりじゃいけないのは、わかってる。
どうしても、体が動いちゃう。
可愛くないところばかり、暁に見せちゃた。
このままだと幻滅しちゃうかな。
もし、そうなったら、潔く諦めよう。
これ以上の事は、今にあたしには出来ないか
ら…。
エヘ…。
でも、これも一つの経験ってやつだね。
こうやって、異性の人を好きになったの初めてだし、それが、色々な犠牲が伴うって事も知った。
それだけでも進歩だよね。
ただ好きってだけじゃ、先へは進めない。
その気持ちをぶつけなきゃ、相手に伝わらないって事を改めて知った。
そして、諦めないことも…。
あたしの中には、暁の色んな顔、仕草が浮かんでは消えていく。
あたしのファーストキスを盗んでいた。
そして、あたしの心までも…。
最初は、暁の事好きにならない自信が、あった。
でも、気が付いたら、こんなにも暁の事が好きなってた。
あたし以外の娘と一緒に居るのを見ただけで、嫉妬で狂いそうになる。
醜いのは、わかってる。
でも、独り占めしたいって思ってる。
暁に触れていいのは、あたしだけ…。
って、どこまで、暁に溺れてしまったんだろう。
自分で苦笑してしまう。
暁は、あたしの大切な人だって、大きな声で言いたい。
けど、勇気が湧かない。
あたしが机で伏せてると。
ガラ…。
戸が開く音がした。
あたしは、顔をあげる。
「やっぱり、生徒会室にいたか」
暁の優しい声。
「暁…。何できたの?あたしの事は、ほっといて…」
こんな事、言いたい訳じゃない。
「紗夜に怒られた」
暁が、情けない顔をしながら言う。
「“未月をこれ以上泣かすな!“って…」
紗夜が……。
滅多に怒らない紗夜が……。
「しかも、教室で、大きな声で」
紗夜…。
いつも、あたしの為に一生懸命に動いてくれてたから、その反動が大きいんだ。
「未月、ごめん。オレ、どうかしてた。未月を不安にさせて…。こうなる前にちゃんと打ち明けておけばよかった」
暁の弱々しい声。
「いいよ。あたしは、暁を信じてたから…。何かあったのは、感じてたから…」
あたしは、笑顔で言う。
「本当はね。暁に裏切られたと思った。だけど、この髪を切ってスッキリしたせいで、もう一度暁の事を信じ続ける事が、出来たの」
「未月…」
暁が、ゆっくりと近づいてきて、抱き締めてくれた。
「未月、本当にごめん。オレ、利恵に脅されてたんだ。“私と付き合わなければ、未月を痛い目に遭わせる“って。」
やっぱり。
「オレが好きなのは、未月だけだよ」
暁が、今ここに居る事で信じる事が出来る。
「暁の事、一番大切な人になってるんだもん。もし、裏切られたら、どうしようかって不安になってたけどね」
「未月…もう、泣くなよ…」
あれ…。
あ、また勝手に涙が…。
「ごめん。また迷惑かけちゃうね」
私が笑うと。
「無理して笑わなくていい。オレは、お前を守るっていって、困らせてただけだ。これからは、もっとお前の事を考えるから…」
「暁…」
暁は、あたしが落ち着くまで抱き締めてくれた。
ああtああたしが、落ち着きを取り戻した頃。
「未月…ありがとう…」
暁が、呟くように言う。
あたしは、暁の腕の中で首を横に振る。
「オレの事信じてくれて」
「そんなに言うなら、今戸々でキスして」
あたしは、暁にすがるように言う。
すると暁は、戸惑いもせずにあたしの唇に軽く、唇を重ねてきた。
こんな我が儘、暁にしか言えない。
あたしが、泣き虫だって事も、暁しか知らない。
あたしは、暁の腕の中で…。
暁の優しさで、少しづつ変わり始めてる。
そんな感じがする。
「ねぇ、暁」
「何だ?」
「あたし達の事を全校生徒に知ってもらいたいと思ってるの」
「そんな事したら、ファンの奴等にどんな目に…」
暁が、心配そうに言う。
「うん。でも、祝福してもらいたいなぁって思ったの。それに、今回の事で、目が覚めた。また、同じ事が繰り返されるなら、はっきり言ってしまえばいいんじゃないかって…」
「それは、そうかもしれないが…。未月の事を考えると、それはよした方がいいんじゃないか」
暁が、心配そうに言う。
「大切に思ってくれるのは嬉しい。だけど、今回みたいになるのは、もう嫌だ。あんなに苦しむなら、その場だけで終わる方がいい。」
あたしは、暁に当たり散らすように言う。
「そんなに苦しんでたのか。わかった、未月がしたいようにしな。後のホローは、オレがするから…」
暁の優しい声。
「ありがとう。それから、今まで以上に利恵とイチャついてね」
「ハァー。それは、聞けない!」
暁のあきれた声。
「だって、あたしが真相を知ってるなんて気付かれたら、それこそファンの子達を使って何するかわからないでしょ。それに、あたしが嫉妬するぐらいの熱愛ぶりを見せてくれないかな」
暁の腕の中で、あたしは甘えるように言う。
「わかったよ」
「その代わり、キスとか、しちゃダメだよ。そんなところ見たら、泣いちゃうからね」
「するわけないだろ。未月だけだよ、オレが口付けしたいと思うのは」
「ありがとう」
あたしは、笑顔でお礼を言う。
やっぱり、わかってくれた。
内心、不安だった。
思いっきり、反対されると思ってたから…。
「そろそろ、教室戻ろうぜ」
暁に促される。
一杯の優しさをありがとう、暁。
「一緒に出ると疑われるから、オレ、先に戻るな」
「うん。わざわざ来てくれて、ありがとう」
暁は、照れながら部屋を出ていった。
あたしは、少し遅れて、生徒会室を後にした。
教室に戻って、紗夜に声をかけた。
「紗夜。ありがとね」
紗夜が一瞬ポカンとした後。
「いいよ。未月が復活したなら…」
紗夜は、相変わらず優しい。
「…で、暁の事、どうするの?」
「どうもしないよ。あたしを裏切った理由じゃないから…」
「未月は、甘いよ。でも、そこが良いところでもあるんだよね」
紗夜が、呆れてる。
そうかもね。
自分には、辛いんだけどね。
「それで、どういう風にするつもり?」
「その事なんだけど、後でゆっくり話すから、待ってて…」
今、この場所では、話せない。
利恵が、あたしの方を気にしてるから。
言えないじゃない。
暁を脅してる事を知ってるなんて…。
「それで、一体どうなったの?」
あたし達は屋上の場所に来ていた。
紗夜が、開口一番に言う。
「それが、暁から聞いたんだけど、やっぱり利恵が、暁を脅してたんだって」
「やっぱり。で、これからどうするの?」
紗夜が、心配そうに聞いてきた。
「あたしが、利恵に嫉妬するぐらいに暁にイチャついてもらうつもり」
「それって、自分で虚しいじゃん」
そうだけど、でも。
「なんか、そうしたかったの。ほら、あたし今まで、暁に好かれてばかりだったから、あたしが、どれだけ暁が好きなのか、思わせたいのよ」
あたしが言うと。
「そっか。未月の想いが通じれば、いいと思うよ」
紗夜が優しく言う。
「それから、全校生徒に言うのは、文化祭のフィナーレの仮装パーティーの時に言おうと思ってるんだけど…」
「それは、いいね。応援してるよ!」
って、紗夜が言ってくれた。
「うん、頑張る。ちょっと、これからが大変かもしれないけど、それを乗り越えなきゃね」
あたしはおどけて言う。
「その意気だぞ。負けるな未月」
励ましてくれる、紗夜。
そうだよね。
頑張るしかないもんね。
これから、忙しくなるぞ。
体育祭や文化祭。
学園行事が、待ってる。
「さぁ、教室へ戻ろ」
「うん」
私達は、教室に向かった。