自分の想い
あたしは、学校から帰宅すると直ぐに着替え、家を出た。
お母様の行き着けの美容室へ向かった。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、元気な声が聞こえてきた。
「今晩は」
あたしは、挨拶する。
「あら、澤田のお嬢様ではありませんか。どうされたんですか?」
顔見知りの店員さんに声を掛けられた。
「ちょっと、カットしに…」
つい口ごもってしまった。
「カットって、裾をですか?」
聞き返されて。
「いいえ、ショートカットにして下さい」
あたしは、はっきり言うと、その店員さんは。
「そんな綺麗な髪、勿体ないですよ」
って驚く。
「いいの。今まで髪型変えた事なかったから、思いっきり切ってみようと思ったの。イメージチェンジしようかと思って…」
何か、ごまかしてるみたいで、嫌だけど…。
「わかりました。そこまで言うなら」
あたしは、鏡の前に座る。
そして、テキパキと準備しだす。
「いいですか」
って、聞かれて。
「はい。切っちゃってください」
って、はっきりと答えると、ハサミが入っていく。
ジョキジョキ……。
あたしは、その音を聞いていた。
少しづつ、髪が軽くなっていく。
気が楽になってくる。
悩んでた事も忘れられそう。
あたしは、目を閉じた。
「お嬢様。できましたよ」
そう言われて、あたしは目を開けた。
鏡の前には、別人になったあたしが居た。
どこから見ても、今までのあたしじゃない。
でも、あたし自身なんだよね。
髪が短くなった分、気分もプライドも軽くなったみたい。
「どうもありがとう」
あたしは、店員にお礼を言う。
「いいえ。でも、本当によかったんですか?」
「うん。さっぱりしたよ。これから、また伸ばせばいいんだからね」
あたしは、笑顔で言う。
「そうですね」
店員さんも笑う。
あたしは、会計を済ますと外に出た。
外は、少し寒い。
空を見上げると、満天の星空。
あたしは、その中を家路へと急いだ。
あたしは、玄関を開けると。
「ただいまー」
大きな声で言う。
「お帰りなさい」
奥から、お母様の声。
あたしは、靴を脱いで奥の部屋に行く。
「何処に行ってたの?」
「ちょっと、美容院へ行ってたの」
あたしが答えると、お母様が振り返る。
「未月。どうしたの?その髪」
ビックリするお母様。
そりゃあ、ビックリするのは、当たり前だよね。
「ただの気分転換。それより、お父様帰ってきてる?」
あたしが、聞くとお母様が。
「今、書斎にはいられたけど…」
と、教えてくれた。
「ありがとうございます」
それだけ言うと、二階の書斎に行く。
コンコン。
あたしは、書斎のドアをノックする。
「はい」
返事が返ってくる。
あたしは、ドアを開けて中に入る。
「珍しいな、お前がここに来るなんて…」
お父様が言う。
確かに、よほどの事がなければ、この部屋に近づく事もない。
「折り入って、話があります」
「なんだ?」
冷静な声が返ってきた。
「水瀬君との婚約の事ですけど…」
「それがどうした」
お父様の冷たい声。
「あたしは、全校生徒に報告したいと思っています」
「婚約破棄されてるんだぞ」
「わかってます。でも、暁…水瀬君は、あたしの事を大切にしてくれてたのも事実です」
「それがどうした。水瀬は解消してくれと私の前で言ってきたのだ。お前とは、付き合わせはしない!」
お父様が、力強く言う。
「あたしは、水瀬君が何故解消してくれと言ったのか、わからないんです。今まで、黙っていましたが、彼は、あたしを守るために離れようとしてるんだと思います」
暁の事だ、何かがあって、あたしから離れようとしてる。
あたしに危害がかからないように…。
「お前は水瀬を信じてるんだな」
お父様の口調が、急に和らいだ。
「はい。あたしは、信じてます。水瀬君が、理由も言わずに離れるなんて、思わない」
「わかった。お前の好きになさい」
あたしの強い気持ちが、お父様に通じた。
「はい。好きにさせて頂きます」
あたしは、お父様に頭を下げた。
「それでは、お邪魔した」
あたしは、再度頭を下げた。
それだけいうと、書斎を出た。
それから、自分の部屋に戻ると明日の放送で言うことを下書きした。
この事で、暁もビックリするだろう。
でも、これはあたしが勝手にすることだから、責任は全部あたしが、背負うから、本当の事を教えて暁…。
心の中で、暁を求めている自分が居る。
暁が居ないと、息も儘ならないよ。
早く、あたしの所に戻ってきて……。
翌日。
あたしは、何時ものように登校する。
だけど、他の生徒からの挨拶がない。
無理もないか。
皆、戸惑ってるんだろうなぁ。
あたしは、そう思いながら、下駄箱に向かう。
そこで、会いたくもない人と出くわした。
利恵が、暁の腕に自分の腕を絡めてる。
いかにも、恋人であるかのように…。
でも、暁の顔には、笑顔がない。
あたしは、素知らぬ振りをして、その横を通り抜け、教室に向かった。
教室に入ると、注目を浴びた。
やっぱり、切り過ぎたのかな?
自分で、反省してしまう。
でも、切ってしまったら戻らないもの。
あたしは、自分の席に着く。
そして、回りはザワツキ立った。
あたしからやや遅れて、暁と利恵が入ってきた。
「鬱陶しいな。離れろよ」
暁が言う。
「エー、別にいいじゃない」
利恵は、あたしに見せつける為だけに言ってるんだ。
あたしは、そんな光景見てられなかった。
本当なら、あたしがあの場所に立ってるはずだった。
暁は、誰にでも優しいから、ああだけど…。
でも、あたしは信じてる。
暁に何かあっただけで、あたしを嫌いになった訳じゃない。
あたしは、自分に言い聞かせるように心で念じた。
「未月。その髪どうしたんだ!」
驚いた顔をする、暁。
「エヘ、ただの気分転換だよ。似合うでしょ」
あたしは、笑ってごまかした。
本当は、プライドを捨てたかっただけ。
髪を切っただけで、捨てきれたかは、わかんないけど…。
「それ、ひょっとしてオレのせい?」
暁が小声で言う。
「そんなんじゃないって。本当にただの気分転換!」
つい、強調しちゃった。
本当は、“そうだよ“って言いたい。
我慢してる自分が居る。
「ならいいんだけど……」
そう言いながら、自分の席に行ってしまう。
可愛くないな。
もっと、素直にならなきゃいけないのに…。
でも、どうしてもなれない。
暁の前では、天の邪鬼だよ。
あたしは、席を立つと教室を出た。
頭を冷やすために…。
その時、紗夜とぶつかったのも気づかずに…。