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幸せな時間

「どうした?元気ないじゃん」

暁が、あたしの顔を覗き込んできた。

「何でもない。それより、利恵大丈夫かな」

「あいつなら、大丈夫だろ。お前の方が、心配だ」

って、暁が言う。

「そんなこと言われても…」

あたしは、戸惑った。

「もし、何かあったらオレに言えよ」

暁が、強気で言う。

「女の子同士の争いで、暁が出る幕無いよ」

「それでも言え。オレ、心配でならない」

切なそうな声。

あたしが、そうさせてるの?

「そんなに心配しなくてもいいよ。あたしは、大丈夫だから」

あたしは、暁を安心させようと笑顔を見せる。

「本当に大丈夫なのか?」

疑いの目を向けてくる。

う…。

「大丈夫。いざとなったら、暁の所に逃げ込むから。だから、安心して」

「わかった」

納得してくれたかな?

あたしは、暁の顔を覗き込む。

思いっきり、不機嫌だよ。

どうしよう。

「暁?」

返事が、返ってこない。

「暁、ごめんなさい。だけど、どうしてもあたし自身で解決しないといけないことだから」

「ああ、わかってる。だけど…、だけどな、どうしても感情が先走ってしまうんだ」

暁の苦痛な顔。

そんな顔をさせるのも、あたしなの?

「未月が、こんなに近くに居るのに遠くに感じる。オレって、頼りにならない?」

暁の不安そうな顔。

「いつも、頼りにしてるよ。でも、甘え過ぎるとよくない気がして…。自分で何も出来ないなんて、情けないもの」

「オレは、未月にそうなって欲しい。オレが居なければ、なにも出来ないようになって欲しい。オレが必ず、守ってみせるから…」

他の子なら、この言葉、嬉しいんだろう。

でも、あたしは守られてばかりじゃ、嫌なの。

「この件が片付くまで、暁に迷惑をかけたくないの。お願いだから…」

捨てられた子犬みたいな目で、あたしを見る。

だけど、これだけは、暁に頼りたくない。

女の子の喧嘩に男の子が入ってくる事で、変な噂をたてられるのが嫌なの。

暁の重荷になるのだけは、嫌。

暁が、心配してくれるのは、嬉しい。

でも、頼りすぎると自分が、わからなくなりそうで怖い。

「わかりました。未月が、そこまで言うとはな。マジにやばくなったら言いなよ。いつでも助けに行くから」

暁が、優しく微笑む。

「本当は、そんな争い事して欲しくないけどな」

苦笑いする。

「ありがとう」

あたしは、心から感謝した。

こんなにも、あたしの事を大切に想ってくれる人、世界中探しても一人しか居ない。

そんなあなたを大切にしたい。

でも、束縛は、したくない。

束縛して、息苦しくなるのは、嫌だから…。


「それじゃあ、また、明日な」

そう言って、暁は背を向けて歩き出す。

「うん。お休み」

あたしは、暁に背中に向かって言う。

暁が、振り返り手を振ってくれた。

あたしも、振り返した。



自分の部屋。

今日一日、色んな事があった。

暁の事、大好きだよ。

って、口に出すのが怖かった。

臆病で、何も言えなかった。

暁の告白がなかったら、あたし、全然気が付かなかったかもしれない。

本当は、いつでも頼りたい気持ちで一杯で、仕方がないの。

暁が、傍に居ないだけで、凄く寂しいし、不安で一杯になる。

今日の出来事が、全部夢じゃないかって思う。

今のあたしを支えているのは、暁の言葉だけなの。

暁の言葉、仕草の一つ一つが、あたしを変えていく。

暁なしでは、生きていけないんじゃないかって思うの。

暁の存在が、あたしの真実だから…。



翌日。

あたしが、玄関を開けると暁が立っていた。

「オッス!」

「おはよう。どうしたの?」

「どうしたも、昨日の今日だろ。信じられなくてな」

はにかむような笑顔。

「暁でも、不安になるんだ」

「悪いかよ。オレだって、不安になる時ぐらいあるさ」

そう言いながら、そっぽを向く。

照れてる暁が、メチャ可愛い。

「それより、婚約の事。利恵が言い振り回してなきゃいいけど…」

利恵の事だから、校内中に言い回っていそう。

「そうだな。あいつなら、やりかねないぜ」

やっぱりそうなのかな?

「初めてだな」

「何が?」

「未月とこうやって登校するの」

照れながら言う暁。

「そうだね」

「でも、オレはよく未月の家まで来てたんだ。未月の事が心配で」

へぇ、全然気が付かなかった。

「もしかして、ストーカーみたいに?」

あたしは、からかうつもりで言ったのに。

「悪いかよ。もし、未月に何かあったらって思うと、いてもたってもいられなかった」

って、真面目に返されて、あたしが戸惑ってしまう。

「そうだ。一つ聞きたい事があるんだ」

「何だ?」

「あたしのどこが好きなの?」

改めて聞いてみる。

難しいかな?

「どこって、全部」

って、即答された。

「全部じゃ、わかんないよ」

「最初に惚れたのは、その気の強そうな目。それから、はっきり喋るところとか、その内面に秘められてる弱さ…かな。言わせるな」

恥ずかしそうに言う暁。

「未月は、最初は嫌ってただろ」

逆に聞き返される。

「嫌ってなんかいないよ。だって、あの時はなんとも思っていなかったもの」

「じゃあ、何時から?」

「暁が、告白してきた時からかな。ちゃんと答えを出さないとって思い始めて、沙夜に相談したりして、次第に気になり始めて、ああ、暁に引かれていってるのがわかった」

あたしは、正直に言う。

「そうなんだ。でも、何で沙夜なんだ?」

「今までだって、沙夜に相談してきたの。自分の事がわからなくなった時とかに的確な指示をしてくれる。あたしのよき理解者だから」

あたしは、包み隠さずに言う。

隠すことでもないから。

「じゃあ、あの時、オレに告白したのも、沙夜に言われたからなのか?」

やけに、突っ込んでくるな。

「違うよ。自分の意思で告白したの。言いたかったって言った方がいいのかな。ファンの子達には、気が引けるけど、あたしの気持ちを知って欲しかった」

「ふーん。そうなんだ」

なんか、不満そうだ。

「疑ってるでしょ」

あたしが言うと。

「疑ってはないさ。ただ、ちょっと引っ掛かるだけ」

暁が、言葉を濁らせる。

やっぱり、疑ってる。

「あたしが嘘ついてるとでも言うの?」

「嫌。未月は嘘を付くほどの器量は、無いと思ってる。なんか、しっくりいかないんだよ」

何となく、わかる気がする。

利恵のあの言い方だと、何かやらかすよね。

「とりあえず、婚約の事は他言しないように注意することだな」

暁が、念入りに言う。

「そうだね」

沙夜には、放課後にでも話すか。

「こっから、別々に行くか」

暁が言う。

「何で?」

「オレ等が一緒に登校すると、一目でわかってまうだろ」

って、苦笑する。

「そっか…」

もっと一緒に居たいけど…。

「ほら、未月が先に行けよ」

暁が、背中を押す。

「あっ…」

あたしが振り返ると。

「オレの事はいいから、さぁ、早く」

暁が笑顔で言う。

あたしは、仕方なく歩きだした。


校門を潜ると、何時ものように下級生や同級生が声をかけてきた。

あたしは、その生徒達に挨拶を返す。

いつもの日課。

そこへ。

「未月、おはよう」

人一倍大きな声。

振り返ると、沙夜が拓也と一緒に登校してきたところだった。

「おはよう、沙夜。今日は、二人仲良く登校ですか?」

嫌みっぽく言う。

「未月ったら。そんなんじゃないよ。たまたまばったり会っちゃっただけで…」

沙夜が、しどろもどろと言う。

珍しいな。

沙夜が、誤魔化すなんて。

そういうとこ、凄く可愛い。

隣に居る拓也は、平然としてるし…。

「そういや、未月も途中まで一緒だったじゃ…」

あたしは、慌てて沙夜の口を手で塞いだ。

沙夜が、モゴモゴと口を動かす。

そして、あたしの手を払い除ける。

「息が出来ないじゃない!」

沙夜が、怒鳴る。

「だって、それ今、禁句だもの」

あたしが、小声で言う。

「何それ」

不可解そうに言う。

「理由は、後で話すから、今は…ね」

「わかったわ。早く教室に行こう。ホームルーム始まっちゃう」

沙夜が、半諦めたように言う。

ごめんね。

本当は、一番先に話したいんだけど、回りに聞かれたら、って思うと気が気じゃない。



「…で、何で口外しちゃダメなわけ?」

放課後。

あたし達は、屋上に来ていた。

「本当は、一番に沙夜に聞いてもらいたい事があったの。でも、回りに聞かれたらまずい事になるから、言えなかった」

「まずい事って?」

「あたしと暁、婚約しちゃいました」

沙夜が、一瞬引いたかと思ったら。

「エーーー。何で、そんな事になってるのよ」

メチャ、驚いてる。

「実は、お父様が、あたしの婚約者に選んだのが暁だったの。で、あたしも、キチンと暁に答えたんだ。そしたら、その場で婚約ってことに…」

「おめでとう。で、何で口外しちゃいけないの」

「ファンクラブの子達に聞かれたらまずいって言われて、当分の間言えないんだ」

あたしが言うと。

「そっか。それで、言えなかったんだ」

やっと、納得してくれた。

「それでも、よかったじゃん。暁にちゃんと言えたんでしょ」

沙夜の言葉に頷く。

「でもね、その事利恵が知ってるの」

「利恵ねぇ…」

「彼女、暁の事が好きで、あたしに嫉妬してたんだって。だから、あたしにちょっかいを出してたんだって」

あたしの言葉に。

「なるほどね。元は、暁絡みだったか。って事は、まさか利恵が何かしてくるかもってこと?」

沙夜の感のよさに驚く。

「うん」

「そっか。そっちは、私がそれとなく探りを入れておいてあげる」

って、沙夜が要ってくれた。

「ありがとう」

「未月が安心できるならそれぐらい、お安いご用よ」

沙夜が、ウインクする。

「じゃあ、あたし生徒会の仕事に戻らないといけないから」

「うん。頑張って」

沙夜と別れて、生徒会室に向かった。



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