交錯する想い
気が付いたら、教室と反対側の生徒会室に来ていた。
教室に行けば、暁と鉢合わせしそうで、嫌だった。
それに、心を落ち着かせたかった。
今思い出すと、何かある度に生徒会室に来てた。
何時の間にか、この場所があたしにとって、一番落ち着ける場所になってる。
でも、もう生徒会長も辞めなきゃ。
ここにも、来れ無いよね。
今度の生徒総会で、辞任しよう。
何時まで経っても、この学校方針が変わらないのなら、他の生徒がやっても同じ。
生徒会長をやめたら、自由時間が一杯出来る。
その時間を友達とカフェに言って、一杯お喋りしたい。
やりたい事が、一杯ある。
でも、恋だけは絶対にしない。
暁の事だけで、もう充分だよ。
こんなに苦しい恋は、終わらせなきゃね。
あたしが、心にそう決心した時だった。
生徒会室の戸が開いた。
「未月。なぜ、逃げ出すんだ!あっちこっち探し回ったぜ」
暁が、息を切らせながら怒鳴る。
「探してなんて、誰が言ったの!」
ちがう。
こんな事言いたくない。
でも、自分の思ってる事と反対の言葉を口にしてしまう。
「どうしたんだ?お前らしくない」
そう言いながら、暁が近づいてくる。
「ヤダ!来ないで」
あたしは、後退りする。
「本当に、どうしたんだよ。オレが、嫌いになったのか?」
あたしは、首を横に振る。
「じゃあ、なぜ……」
「自信がないの」
暁の顔が見れない。
「何の?」
「暁を好きな気持ちは、誰にも負けないって、自負してた。でも、さっきの利恵とのやり取りを見てて、負けたって思っちゃった。利恵には、敵わない。あの子は、本当に暁の事愛してるわ。あたしよりも、利恵の方があってるんじゃないかって…」
俯いたまま話すあたしに、暁が。
「未月。お前は、それでいいのか?オレが、利恵のところに行けば、オレが幸せになれると思ってるのか?」
って、怒鳴る。
あたしは、首を横に振る。
「思ってないよ、だけど、考えたくない事を考えてしまうの。利恵の方が、数倍、暁の事を考えてるんだって……。それに、暁の事、あたし、何も知らない…」
自分の胸につっかえてるものを吐き出す。
「なんだ、そんな事か…」
そんな事って…。
あたしにとっては、重大だよ。
「それは、これから知っていけばいいだろ?それとも、オレの事が信じられないか?」
さっきとはうって変わって、優しい声。
「ううん…、信じるよ。でも、不安が、押し寄せてくるの。暁の周りには、何時も可愛い子が一杯居るでしょ。だから…、自分自身に自信がないの……」
今更だけど、やっぱり暁の周囲に居る子達って、綺麗系が多いの。
だから、ちょっと自信がない。
「そんな事、気にしなくていい。オレが好きなのは、泣き虫で、志が強い未月なんだからな」
暁が、自信たっぷりに言う。
そんな暁が、頼もしく見える。
「それでも、自信無くした時には、オレの所に来な。未月が欲しがる言葉をオレが言ってやるよ。」
顔を上げると、暁の優しい笑顔があった。
あっ…。
あたし、この笑顔をずっと見ていたい。
そして、その笑顔につられるように自分が、笑顔になっていく。
「未月は、泣き顔よりも笑顔の方がいいな、その笑顔は、オレだけのものだな」
最後の方は、暁の呟きだった。
「何で、言ってくれなかったの?利恵と幼馴染みだって?」
あたしは、気になって聞くと。
「それは、いう必要がないと思たからさ。そんなこと知ってても、どうしようもないだろ」
暁が、ぶっきらぼうに言う。
あたしは、知りたかったかな。
暁の口から、聞きたかった。
利恵から聞く前に……。
「しかし、何で、あんなにもオレに執着していたとはな。昔、オレの両親と利恵の両親が、勝手にオレ達を婚約させてしまったんだ。だけど、その後直ぐに解消したんだよ。そして、兄貴と婚約してた」
暁が、淡々と話す。
ヘェー。
いっ時でも、暁と婚約してたんだ。
一方的に解消されたら、利恵だって腑に落ちないだろうな。
しかも、幼い時から暁のお嫁さんになるのが夢だっただけに、余計に辛いよな。
「何で、暁にこだわってるんだろう」
あたしは、何となく口に出す。
「それは、オレの家は実業家で、しかも末子だから、婿養子には、もってこいなんだよ」
それも、初めて聞いた。
「三人兄弟とか?」
「いや、五人さ。兄貴が二人、姉が二人居る。オレに関しては、親は何も言わないから」
そうなんだ。
「でも、何で利恵は、あたしに絡んでくるんだろう?」
ふと思った。
「利恵は、未月に嫉妬してるんだよ。オレが、未月と居るからな。それが気に入らないんだよ。それに、ファンクラブを作った張本人だよ」
利恵が……。
でも、何となくわかる気がする。
今のあたしなら、利恵の気持ちをわかってあげられる。
あたしに絡んでくる理由も暁絡みだったんだ。
それなら、納得できる。
利恵に気持ち、わかってあげられなかった。
わかってれば、あたしは、身を引いていたかもしれない。
今更だけど、そんな風に考えてしまう。
後悔しても始まらない。
あたしは、暁が好きなんだから。
ごめん、利恵。
取り返しのつかない事をあたしがやってるんだね。
利恵の夢を壊して、ごめんなさい。
あたしは、胸の内で謝る。
「ほら、帰ろう。あまり遅くなるとおばさん心配するんじゃないか」
暁が、優しく言う。
「そうだね」
何時もなら、素直には言えない言葉。
暁の優しさに触れて、少しは変わったのかなぁ。
って、自分で思ってしまった。
「それじゃあ、送っててやるから、下駄箱で待ってな。鞄取って来るから…」
暁はそう言うと、さっさと生徒会室を出ていった。
一人で悩んで、損した気分。
一杯悩んだ分、暁に倍にして、返してやろう。
そんな事を考えながら、下駄箱へ向かった。
下駄箱ので入り口で、暁が来るのを待っていた。
コトッ…。
する事もなく、ただ立って居た所に音がした。
「暁?」
残って居るのは、あたし達だけだと思って、口にする。
けど、そこに居たのは、利恵だった。
「残念ね。待ち人じゃなくて…」
嫌みぽく言う。
「利恵…」
「何、その哀れる様な顔。言っときますけど、暁くんと婚約してるのは、この私よ!」
利恵が、自分の胸を自信を持って叩く。
「昔の話だよね」
「違います。今も継続中です!」
利恵が、真顔で答えてくる。
嘘…。
そんな事あるはず無い。
暁が、あたしに嘘付くはず無い。
動揺するあたしに追い討ちをかけるように利恵が。
「これで、わかったでしょ。私と暁くんの間には入れ無いって事が!」
って一気に言う。
その時。
「オレが、何だって?」
突然暁が、鞄を二つ抱えて立って居た。
利恵の顔色が、曇る。
「利恵、今の話聞かせてもらった。けどな、婚約の話はとっくに解消されてる。それに、今のお前の婚約者は、オレじゃなくて兄貴だ」
暁が、冷静に答える。
お兄さん?
「何で、そんなに冷たく言うの?私は、あなたの事が好きで好きでしょうが無いのに…」
利恵が、愛しそうに暁を見つめてる。
利恵は、本気なんだ。
そんな利恵に対して、暁は。
「さっきも言った通り、オレは、お前の事なんとも思ってない、それにオレが心から愛しいと思うのは、未月だけだ!」
はっきりと言い切った。
利恵を鋭い目付きで見る。
その先には、あたしも映ってるのだろうか?
「今後、未月にでたらめな事を吹き込むのは、やめろ!」
暁が、珍しく怒鳴った。
低く、どすの効いた声で。
「絶対に諦めないから!!」
利恵は、踵を返して走って行った。
すれ違い様、利恵が涙していたのが見えた。
「あんなの気にする事無い。いつもの事だからさ。オレ達も帰ろうぜ」
暁の優しい声。
利恵の気持ちわかる。
でも、これだけは……。
暁だけは、譲れない。
誰にも渡したくない!
それが、今のあたしの気持ちだから。