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 ある日目覚めると、目の中に染みがあった。生物の教科書で見たスライムのような、変な形の染みだった。成程これが、目の中の水分が奪われる為に起こる飛蚊症か、と一人で納得。近視だもの。今日まで無かったことの方が不思議だ。

 家を出る前に、お母さんに報告。「あら、飛蚊症デビュー?おめでとう。お赤飯でも炊こうかしら。」なんて。別に欲しくてできたわけじゃないんだけれど。

黒板を見るとき、ノートをとるとき、教科書を読む時。あらゆるところでスライムは現れた。初めは珍しいのもあって、対して不便に思わなかったけれど、これは気になる。友達と話をしていても、気付くとスライムを追っている。目の中のスライムを、目で追っている。

 「ねえ、話、聞いてる?」

 「ごめんごめん。あのさ、私飛蚊症になっちゃって、すっごく気になるんだ。」

 「あー、飛蚊症ね。私もあるよ。すぐ慣れて、忘れるよ。」

 「そうなんだ。よかった。ずっとこのままだと頭おかしくなっちゃいそう。」

 「わかるわかる。私も最初はそうだった。詳しく見ようとすると、すーって逃げちゃって。気になるよね。」

 帰り道、友達の言葉を反芻する。「詳しく見ようとすると、すーって逃げちゃう。」逃げない。私の目の中のスライムは、逃げない。焦点を当てると止まって伸縮したり、一点を見つめていてもその周りをくるくると旋回したり。いうなれば、私の目の中を自由に動き回っている。もしかすると彼女のは飛蚊症じゃなくって、もっと重大な病気なのでは?明日病院に行くように薦めてみよう。

 次の日目覚めると、目の中が二つにぼやけていた。写真の現像を失敗した時の様に、出窓に置いたぬいぐるみが目の中でずれていた。成程これが乱視か。昨日は飛蚊症、今日は乱視。私の目はどんどん悪くなっていくな。

 今日もお母さんに報告。「まあ、乱視ね。最近目、使いすぎなんじゃない?本を読むとき、ちゃんとスタンドライトつけてるの?」残念ながら本はベッドに寝転がって読む派です。ライトなんてつけていない。

 公園の滑り台、黒板消し、右前の席の子のスクールバッグ、色々なところが歪んで見えた。昨日のスライムも引き続き目の中にいる。うーん、これは不便。学校が終わったら、せめて乱視用メガネでも買いに行こうかな。

 「えっ、乱視にもなっちゃったの?」

 「そうなの。目の衰えが激しい。」

 「不便でしょ。」

 「うん。それに何だか気持ちが悪い。あなたのほっぺも歪んでみえる。」

 「やだもう。新しい眼鏡、買ったら?」

 「今日学校終わったら買いに行く。付き合ってくれる?」

 「無理、今日はバイト。」

 帰り道、彼女の飛蚊症について話すのを忘れていたことに気づいた。まあいいか、明日でも。今朝歪んで見えた公園の滑り台にふっと目をやった。まだ歪んでいる。けれど、前にみたものとは少し違っている。歪みの中から、何かがわらわらと飛び出してきている。あれはなんだ。近寄って見てみる。ああこれは、私の目の中のスライムとおんなじだ。そう気づいた瞬間、私の目の中は飛蚊症でいっぱいになった。


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