エピローグ それは語られる蛇の足
第一話これにて完結。
エピローグ それは語られる蛇の足
『蛇足を少しだけ書き足しておこう』
『結局のところ、帰る事の出来た男はホームの上にいた』
『転びそうになって顔を上げたら、電車が後ろで発車していた』
『夢オチ。それで片付けてしまえる程に記憶は曖昧で、何一つ変わらぬ一日を男は過ごす事になった』
『それから、男は自分が向き合う問題にある時は向き合い、ある時は解決して決着を付けた』
『まったく語るにはあまりにも平凡な結末。晴れて家を追い出され、アルバイトで食い繋いでは常の如くファンタジーに耽溺する男の結末』
『男にとって代わらないのは曖昧な記憶だけ。薄れても消えないその疵のような記憶は男を支える一つの柱だった』
『男はどんな理不尽も膿疲れていく現実にも耐えられた。それは男がそれ以上のものを知っていたからだ』
『それで男はまったく冴えない人生を歩みながら変わりもせずにのうのうと惰眠を貪った』
『たまにはその世界の事を想いながら、時にはあの世界の事を文章に起こしながら』
『そうして・・・男は』
そこまで書いて未だアドレスを変えていないケータイをしまう。
駅に付いていた。
朝というにはまだ早い時間帯。
天気予報が低気圧ど真ん中と告げる時間帯。
そっと電車を降りた。
駅のホームは小雨が降り続き、空気は湿気を孕んでいる。
少しだけ、ほんの少しだけそのままでいた。
「・・・・・・」
次の電車のベルが鳴る。
その場を後にしようと歩き出して―――――突風。
まるで冗談のように体が舞った。
それは本当に冗談のような暴風で、少しだけ筋力が付いてきた肉体は呆気なくホームの中に背中から倒れ込む。至極冷静に、死を感じ、轟音とライトが、耳と目を塞ぎ、痛覚が痛みを伝えるより先に瞳は閉じられた。
『――――――――――――――――――――――』
ファンタジーが危険であると思っていた。それはある意味正しい。しかし、こんな現実もあるにはある。
瞳を開けて焼き付ければ最後に映る空は明るく。
白い花びらが舞う。
舞う?
音楽が響く。
着信音。
ケータイを取り出した。
音楽は鳴りやまない。
終わるどころか次々にメールが着信していく―――。
延々と続くらしい着信に見る気も失せて、ケータイを宙に放る。
それがガシャリと地面に落ちる音はせず、何故かパシリと小気味いい音が一つ。
音楽を鳴らすケータイが地面に遅れて落ちる音。
「――――――」
足音だけが速く耳に届き。
衝撃。
突如として掛る圧力が鋼鉄の冷たさを持っていなかった事を疑問に思わない。
それは温かく、花と同じ匂いを持つ。
瞳に映る顔は何処か幼く。
その眼尻には涙が伝う。
「―――」
声にならない声。
痛みを感じる抱擁。
「手紙沢山送ったんだからねッ」
「ああ」
「頑張って使い方覚えたんだよッ」
「ああ」
「凄く大変だったんだからッ」
「想像は付く」
「賢者なんかもう知らないッ」
「そうか」
「ッ、お願いだからッ、もう何処にも行かないでッ」
「言ってる事が矛盾してるぞ。ユネル」
「馬鹿ッ、馬鹿ッ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁあ!!」
抱きしめ返して、自分には似合わないと自嘲する。
それでも抱きしめ返さずにはいられない。
男と女ならば尚更に。
「とりあえず最後に残った問題を解決しに来た」
大ウソだ。
事実ではない。
だが、真実ではある。
ここに来たならば目的なんて決まっている。
「う、グス、な、何?」
「お前が好きだ。ユネル」
躊躇う事など馬鹿らしい。
これが死に際の夢オチだとするなら、それこそ容赦も遠慮も一切不要。
だから、
「お前を幸せにする事がオレにとって大問題。そういう事だ」
たまにはそんな恥ずかしくて臭いセリフもいいだろう。
FIN
第二話もご期待下さい。連載中のGIOGAMEもどうぞよろしく。