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第四章 夜明けを待っている事

第四章 夜明けを待っている事


【どうして言う事が聞けないの!? クズッ、クズッ、このクズッッッ!!?】

【・・・・・・】

【同じ・・・あの男と同じ瞳で見るな?!】

【・・・・・・】

酷く疲れる夢だった。

今まで滅多に見る事の無かった母と共に過ごした日常の一コマ。

育児なんてとっくの昔に放棄していた母が荒れると大概は家の使用人達に取り押さえられていた。

さすがに使用人達にしても幼い子供に当たる母親の図はあまり見て見ぬフリも出来なかったらしい。

もうその頃には忍耐という文字を知っていた賢しらな子供は決して母に反抗しなかったが、同時に何かを期待する事も止めていたと思う。

いつも母が炎に巻かれて死ぬ夢ばかりだったから少し驚いた。

そう言えば、こんな人だったのだと今更に少しショックかもしれない。

もう十年以上前の話。

今ならネグレクトやらDVやらと名付けるのだろうが、母はどちらかと言えば精神病患者で、その行動はヒステリーや発作に近かった気がする。

心を病んだ者の末路は常に薬漬けの毎日か鉄格子の中と歴史は相場を教えている。

そのどれでも無かったのは単に金持ちの家に囲われていたからだろう。

座敷牢こそ無かったが、鍵を外から掛けられる部屋があって、荒れると半日くらい軟禁されていた。

精神荒廃一歩手前の状態で踏み止まっていたのだろうと今なら分かる。

母が寝静まった夜に傍へ行くとよく子供心にやるせなかった。

本当に穏やかな寝顔。

その顔には涙の跡があって、見知らぬ男の名をよく呟いていた。

まったく眼中に無い息子の事なんて一言も発した事は無かった気がする。

寝台に潜り込むと死ぬような顔で怒られるから朝近くまで寝台の横で眠って、朝になる前には自分の部屋に戻っていた。

使用人達しか知らない秘密は多い。

痛くも無ければ哀しくも無い夢はやはり疲れた。

昔の自分はどれだけの忍耐を持っていたのかと半ば関心する。

よく世界には不幸な人や恵まれない人がいるなんて教育を受けたが、恵まれない人間や不幸な人間なんて何処にでもいる。

形は違っても、心は違っても、国、宗教、法律、あらゆるモノが違っても、そういう人間はいる。

どれだけ恵まれた者もどれだけ裕福な者も、必ず自分の現実を持っている。

誰かが言った。

お前のいる其処が戦場だと。

だから、人は常に己の戦場を生きているのかもしれない。

今此処に在る戦場。

母との日々は正に最前線だった。

本物の戦場だって兵士は帰ればトラウマになったりする。

自分の最も過酷な戦いから開放されたからと全てが上手くゆくわけもない。

そういうものの先に臥塔賢知は立っている。

「・・・?」

ドカンと音がして目が覚めた。

辺りの光景を見れば、其処はやはり戦場だった。

心こそ傷つかないが砲弾やサイドワインダーや焼夷弾やビームっぽいものが飛び交う真っ只中。

夜の砂漠。

事前の策で掘り当てて置いた地下水脈の一部が湧き出した湖の一角からテオの操る『大和』の砲列と先端部分だけがニョッキリと生えている。

水が足りない砂漠において砂に埋もれる形になった大和はまるで砂上の楼閣。

月夜に幻想的な姿を映し出し、尚且つ空に向かってビームっぽいものを放つのも忘れない。

空を翔るフェルフラムの【心神】は只管に付近で旋回しながら敵を光の尾で切断していた。

避空による空気の圧縮は極限まで成された場合、プラズマに近い熱量を発生させる。

機体の後方に出来る輝きの尾は瞬間的に擦れ違う空の竜F-15やら複葉機やら様々な機体を真っ二つにしては爆散させている。

「賢者。眠れた?」

そう聞いてくるユネルに頷いた。

まさか気軽に笑っているユネルが己の乗る地の竜【ドーラ列車砲】を操り、長大な砲身を小刻みに照準しながら遠方の敵を狙い撃っているとは誰も思わないに違いない。

たった三匹の竜を前に狂乱、竜達の大行進は消し去られていた。

約七千匹の竜達が三時間足らずで消滅する寸前だった。

「・・・・・・」

ドーラ列車砲の上で毛布に包まりながら、少女達の活躍を眺め続ける。

夜明けは近い。

近くに展開している使えない巫女達はどうしているだろうかと街の方角を見つめる。

街からは幾つかの白煙が上がっていた。

竜が街に向かった故のもの。

小物で比較的弱そうなのは無理をせず後方の巫女達に任せるように言っていた甲斐があった。

全ては予定通りに進んでいる。

狂乱を治めるという理由でフォレイオムを出て七日目。

四つの街を救い、七つの街道を守った。

その必要最低限の戦いは終わろうとしている。

狂乱を鎮める為に作られる巫女達の共同体であるバンド。

その中でも常設の負担を軽くするという目的は達成された。

バンド総数二十、総巫女数1100人強にはフォレイオムで大切な仕事が待っている。

巫女達は知らない。

これから始まる事の意味を。

だが、それでいい。

何も知らず、何も解らず、されど、巫女として戦い続ける。

弱く、けれど、諦めない。

その姿にこそ全ての成否が掛かっている。

訓練は過酷に、試練は劇的に、彼女達の姿が人の想いを動かすならば。

「世界はまだ滅ばない」



竜達の進行は早かった。

それぞれが持ち場に着いて、避難した人々を囲うように竜を並べる。

地の竜は盾として、更には地面を操る『毀邑』で壁を作る役目。

水の竜を出せない巫女達は井戸等から水を汲み上げ、人々をあらゆる攻撃から守る水の壁を作る役目。

空の竜は襲い掛かる空の竜達を牽制し、近づけない役目。

「・・・・・・」

大賢者と呼ばれるあの子から言われた通りの事をやっている。

それに不満は無かった。

人々を守る役目は巫女として本分。

竜が入り乱れている戦場から遠い後方にいる身としては、歯痒くすらあった。

【お助けくださいお助けくださいお助けください!】

【巫女様。どうかこの子らを】

【みこさま。みんなたすけてくれるよね?】

【どうかどうかどうか!?】

【お願いしますお願いします】

【怖くない。怖くないから】

【巫女様達が守ってくれてる。絶対大丈夫よ】

【皆さん。大丈夫です。巫女様方を信じましょう!】

避難民の誰もが震えていた。

時折、竜達の攻撃が水の壁を焼き、土の壁を打ち崩す。

その度に上がる悲鳴を受けながら、一歩も後ろへ下がる事はしない。

不安や焦りはある。

けれど、それは決して誰も救わない。

「く・・・」

今、自分に出来る事を出来るだけする。

課せられた任を全うし、人々に掠り傷すら負わせない。

(絶対、誰も死なせない)

自分を救ってくれた師のように。

この背中は前に進む姿しか見せられない。

大きな音がした。

壁に跳ね返され、残骸となった数匹の竜達を踏み越えて、一際大きな竜が前進していた。

大きな体の前には大きな円筒形の鋼の塊。

鋼の塊が家も道も全てを押し潰そうと回りながら押し寄せてくる。

手を握る。

汗を握り潰す。

呼吸を忘れる。

叫びだけを搾り出す。

背負ったものの重さが一歩前に踏み出す力をくれた。



無数の竜を葬った三人の巫女達が帰ってくる。

無数の視線が遠目に三人の巫女を見つめていた。

巨大な空の竜の中。

外を見渡せる透明な水の壁に大勢の子達が集まっている。

「巫女様達勝った!!」

「うん! うん!!」

「みんな巫女様達勝ったよ!?」

未だ幼い者も含めて四百人近い。

大勢の少女達がその冗談のような光景を目に焼き付けていた。

「ラクォル様! 巫女様達勝ちました!」

歓声に頷きながら、内心は穏やかとは程遠く。

黒い賢者との会話を思い出す。

【わざと危険に晒すだと?!】

複数のバンドに猶予を与える為という名目で巫女達と共に狂乱へと向かった日。

巨大な竜の中。

二人で会話していた時、初めて狂乱へ巫女達を連れていく本当の理由を聞かされた。

【そうだ。あいつらは戦いの道具で言えば盾だ。盾の性能は出来うる限り上げておきたい。実践を積ませる為に連れて行くわけだから多少の危険は仕方ない】

だが、そのあっさりとした言葉の裏に更なる真意が隠れている気がしていた。

その想像はここ数日で確信に変わった。

(あれだけの能力を持ちながら竜を後ろに逃がす戦術。やはり)

少女達を見る。

誰もが救った街で募った巫女候補だった。

街を守る巫女達の姿に感動し、自ら手を上げた少女達。

(全てはこの人数を集める為の布石か・・・)

人々を力の足りない巫女に守らせ、危機感を煽ると共に新たなる巫女を確保する為の踏み台としたに違いない。

街を守っている巫女達には少なからず負傷者が出ている。

しかし、死人は出ていない。

それが防ぎ切れる敵だけを故意にぶつけているからだとするならば納得出来る。

全ては仕組まれていた。

人心は操られていた。

弱い巫女達の懸命な背中と人々の心。

全てはまるで掌の上だった。

そう解っていても、何も言えなかった。

巫女が絶対的に足りないのは事実。

巫女という己を捧げ終えた者に成りたいと思う人間なんてそういない。

親の中には娘を巫女にしようとする者もいるが、そう多くない。

本当の意味で巫女として生きられる人間は一握りだ。

途中で己の弱さに屈して、それでも使命を放り出せなくなった巫女達は五万といた。

それでも誰かを守りたいという信念だけは在ったから死んでいく者が大勢いた。

そんな道に無垢な笑みで憧れを語る少女達を放り込む己はまるで大罪人だった。

これから辛い事しか待っていない少女達の笑顔に思わず帰れと言いたくなる。

この先に連れて行かれれば、終わりも見えない戦いで死を連ねていく事になるのだと、話してしまいたくなる。

「――――――」

歯を砕く程に噛み締める。

「ラクォル様?」

いつの間にか少女達に取り囲まれていた。

「あの、何処か痛いんですか?」

「た、大変!? 医術師様を呼んできますね!」

「いえ、何事も無いでありましょうや」

心配顔の少女達の頭を撫でる。

近頃、少女達の相手で上手くなってしまった作り笑いで受け答えする。

「あ、賢者様だ!!」

見れば竜の内側へと黒い衣装を身に纏った少女が入ってくるところだった。

「ラクォル。昼には次の街に行く。今の内に眠っておけ」

「了解」

胸の内に蟠るものを押さえ込み頷いた。

すぐに竜の内の椅子へと身を沈めたガトウケンジにわらわらと少女達が集まっていく。

少女達の顔には笑みばかりが浮かんでいた。

【賢者様。巫女様達はどうしたんですか?】

【賢者様。何か飲み物如何ですか?】

【賢者様。とても格好良かったです!】

【巫女様達はどうなされたんですか?】

【あ、今体を拭くものを】

【あの、お着替えも医術師様から貰ってきましょうか?】

【そ、その、お隣に座ってもいいですか?】

【あの、わたしとお友達になってください】

【あ、ずるい!? わたしも! わたしもです!!】

どうしてか。

その皮肉と嗤いを常に浮かべる冷徹にして異質な者に少女達は懐いていた。

「・・・・・・」

椅子に身を沈めると同時に疲れていたのか眠気が襲ってくる。

夜遅くまで街の住人と折衝をしていたのは結構な負担だったらしい。

遠く、遠く、明星の光が滲み、意識が落ちた。



ラクォルが寝入ったのを確認し、ジャンボジェットの外に全員集まるよう指示を出す。

程なく全員が外に出た。

ラクォルはやはり睡眠時間もまともに取れない折衝三昧の毎日を送っている為か起きる気配は無かった。

ジャンボの持ち主である巫女の『避空』で扉から直接地面に下ろされた後、完全に沈黙させた竜の残骸の方へと向かう。

後ろに付いてくる少女達は無言。

足音だけが響く。

負傷した巫女やユネル達を収容した二機目のジャンボの横を通る。

数分で竜達の残骸がいたる所に見え始める。

まだ仄かに熱い竜の残骸。

その上に座る。

出来る限り近い場所に来て座るよう全員に言えば周囲はあっという間に埋まった。

柔らかな風が吹き抜けていく。

声を乗せる。

緊張の糸が張りつめている少女達を前にして、一言目は決めていた。

「巫女になれば、此処にいる内の三分の二が死ぬ」

言葉の意味を理解出来た者は涙を眼の端に溜める。

あらゆる感情が渦巻く中心で事実を告げる。

「巫女になれば、此処にいる内の三分の一は仲間の死を目にする」

後ろに下がり逃げ出そうとする者はまだいなかった。

「この言葉を言うのは四度目だ。集まった誰もにこの言葉を伝えてきた。今日始めて聞く奴も、もう聞き飽きた奴も心の底から聞け。お前達に此処から家に帰る権利を与える」

まったくロクデナシな言葉を続ける。

「死にたくない奴は帰れ。もしも、恥ずかしいとか、帰ったら格好悪いとか、誰かから白い目で見られるとか、そういう理由で留まろうと思うなら止めておけ。そんな下らない理由で命を投げ出す必要はない。もし帰るなら、さっきいた竜の下にいるといい。帰郷はオレの裁量が及ぶ限り誰にも責めさせる気はないし、文句も言わせない」

腰を浮かし掛けた者は数知れず。

恐怖に震えるのは当たり前で、集団心理を利用している己は悪でしかなく。

「巫女は死ぬ。当たり前の事だ。お前達の目の前でお前達を守って、あるいはお前達自身が、誰かの前で消える。血の染みになる事もあるだろう。焼き尽くされる事もあるだろう。そもそも死んだと感じる間さえない場合もある」

随分とこんな時だけは滑舌がいい事に自己嫌悪だけが募る。

「これは優しさじゃない。(ふる)いに掛けてるわけでもない。これはただの確認だ。お前達が自分の命を自分で守る機会だ」

立ち上がる者は多かった。

「後三日でオレはお前達を正式に巫女として【界統遺冠】に引き渡す。その時点でお前達は帰る事も自分の命を自分の為に使う事も出来なくなる」

まだ立ち去る者はいない。

「巫女とは己を捧げ終えている者。そこには竜と命のやりとりをして死ぬ以外の運命が用意されてない」

真実を告げる。

「バルトメイラは崩壊しかけてる。竜の狂乱はこれから多くのアウタスを消していくだろう。その中でどう生きるか。巫女になって許されるのは誰かを守って死ぬ事だけだ。それも愛する者や自分の親しい人間の為にとは限らない」

震える足で背を向ける者がいた。

「巫女は覚悟さえあれば止める事が出来る。だが、お前達は自分の足で此処にいる。それは優しさだ。その優しさがある限り、お前達はきっとこの状況で長生き出来ない」

でも、まだ誰も歩き出さない。

「今までオレは巫女を色々見てきたが、誰も彼も馬鹿ばっかりだった。本当に自分の命なんて顧みない優し過ぎる連中ばっかりだった。それはきっとお前達も同じ。他人(ひと)の為に命を懸けられる限り、死は必然だ」

まだ、歩き出してくれない。

「オレはお前達に目の前で死んで欲しくない。オレはオレの責任で人が死ぬところなんて見たくない。だから、こんな場を設けてる。こんな事を言ってる」

さっさと背を向けて歩き出せばいいと、歩き出して欲しいと、そう願うのはまるで身勝手な傲慢からだ。

「オレにはお前達にしてやれる事がコレ以上ない。巫女として引き渡された後はただ戦力としてしか扱わない。どんな理由があろうと、数字としてしか処理しない」

歩き出した人間の数は多い。

「オレが巫女に対し約束出来る事は一つだけ」

出来れば最後まで聞かずに去って欲しいと思う。

「巫女の後ろにあるモノを決して諦めない。それだけだ」

立ち止まらないで欲しかった。

「次の巫女と成りたいと申し出る者も含めて、後一度機会がある。それを最後に以降は如何なる場合も帰郷は許さない。この話を始めて聞く奴には悪いが時間が押してる。機会を与えられるのは後一度。よく考えて答えを出せ。以上」

数分。

待った。

「・・・竜に各自戻って待機だ」

結局、今日も一人すら帰る者はいない。

その事実が胸を軋ませる。

いっそ誰一人いなくってくれればと自嘲が漏れる。

(まったくこれだから巫女になりたいなんて奴はお人よしが過ぎる)

その小さな背中達が眩し過ぎて、見ていられず、白んだ空を仰ぐ事にした。



夢を見ていた。

それはまだ駆け出しだった頃の夢。

【ラクォル。どうかこの人達をお願いね】

満足な強さの竜も得られなかった自分を師は戦わせなかった。

狂乱を前にして一人街に残った。

大勢の人間を竜に乗せる事も出来ず。

小さな子供だけを乗せた逃避行。

砂漠を走り続けると雲に照り返される炎が見えた。

夜の中を遠ざかっていく。

子供達は震えながら竜達に蹂躙される街から上がる幾千もの光に心奪われ、食い入るように見入っていた。

それから根無し草となって旅をした。

いつも竜に蹂躙される街から子供を乗せては別の街に運んだ。

子供達に恨まれてばかりだった。

お母さんはどうしたの?

お父さんは帰ってこないの?

どうして連れて来たの?

どうして死なせてくれなかったの?

何処で暮らせばいいの?

誰を頼ればいいの?

純粋な瞳に涙を一杯溜めて、子供達から恨まれる。

悪役を演じた事もある。

善人を気取った事もある。

救えた者がいた。

見殺しにした者もいた。

擦り切れる感情が悲鳴も上げずに朽ちていく。

十人の子供と逃げ出して、百人の誰かを見殺しにする毎日。

荒んだまま、もう何もしたくないと立ち止まった事は指の数で足りない。

いつの間にか付いた綽名は【逃げ巫女】なんて不名誉。

やがて界統遺冠に招聘されて子供を専門に逃がす巫女として任に就いた。

変わらない毎日。

子供を運んでは恨まれる毎日。

そういう日々を過ごしていた。

そんなある日、小さな街で噂を耳にした。

バルトメイラで三人しかいない奉審官の一人がとある若者を賢者と呼んでいるという噂。

その孫娘と共に狂乱を鎮めた一人の男の噂。

気にも留めていなかった噂は少しずつ聞かれるようになった。

とある港町を大津波から救ったとか。

二万の竜から幾つもの街を守り切ったとか。

信じられるものではなかった。

噂には色事も含まれていた。

大勢の巫女を侍らせているとか。

巫女に三又を掛けているとか。

バンドの巫女達を骨抜きにしたとか。

噂は噂だった。

どれだけ積み重ねられようと虚しい話でしかなかった。

その真偽を見定めるよう言われるまでは。

(聞かされた事にどうしようもなく腹が立った)

そいつは本当に巫女を三人も囲っているらしかった。

救われた街で人々から集められた証言には信憑性があった。

(その力があれば、もっと多くの者が救えたはずだ)

そう憤りもした。

けれど、今は。

【・・・竜に各自戻って待機だ】

まどろみながら夢を見ていた。

白んだ空の下。

男は真摯な瞳で残酷に事実を告げていた。

揺らぎ、迷い、震える少女達を前にして一歩も揺るがず、迷わず、震えず。

背を向けて逃げ出そうとした誰もが足を止めていた。

全て事実だと知りながら、全てその通りだと理解しながら、足を止めずにはいられなかった。

男の声に在る色。

それを理解したから。

きっと、その男は最後まで約束を守る為に命を懸ける。

残酷な事実。

その先を見据えて、男は諦めないと言った。

救えるのでもなく、助けられるのでもなく、諦めないと誓った。

その声が全てを繋ぎ止める。

響き合う少女達の心は決めている。

この男ならばと決めている。

目前に絶望しかないとしても、自分が死を迎えるとしても、その男にならば任せられると感じている。

もし男が絶対に助かるとか死なないとか救うとか、そういう言葉を吐いたなら、誰も残ってはいなかっただろう。

それ以前にあんな事実を告げるような【お人よし】でなければ、少女達は信頼なんてしなかっただろう。

少女達の顔には一様の笑み。

揺らぎながらも、迷いながらも、震えながらも、もう【捧げ終えし者】の顔になっている。

昔、師に聞いた事があった。

巫女は己を何に捧げているのかと。

師は言った。

人々が織り成す繋がりに捧げられているのだと。

しかし、目前を過ぎていく少女達は別のものに己を捧げている。

それが今ならば理解出来た。

少女達は男の背中に庇われたモノにこそ己を捧げていた。

誰かを助けたいなんて、自分を好いてくれる人を笑わせたいなんて、そんなちっぽけな願いを胸にした男。

そんな男の苦悩と責任と命を背負った姿に己を捧げたのだ。

男の背中を見た誰もが、共にその背中にならばと思ったのだ、出来ると感じたのだ。

空を仰ぐ男に三人の少女が歩いていく。

男にとって何を犠牲にしても守り抜きたい少女達。

まるで親友のように戦友のように恋人のように笑い声が上がる。

男は困っていながら楽しそうだ。

(・・・・・・)

ふざけた話だ。

港町を大津波から救ったとか。

二万の竜から幾つもの街を守り切ったとか。

そんな大そうな人間には見えない。

大勢の巫女を侍らせているとか。

巫女に三又を掛けているとか。

噂は噂でしかなかった。

(噂にどうしようもなく腹が立った。でも、今は立たない)

男はきっと少女達へ語ったようにただ真摯だっただけだ。

好きな女を守りたいから立ち上がっただけだ。

だから、巫女は男に力を貸し、男は巫女から愛された。

何もおかしな話ではない。

それはただの恋物語に過ぎないのだから。

「・・・・・・?」

地平から上る陽光に目が眩んだのか。

黒髪の少女の姿をしたそいつが一瞬だけ、男の姿に見えた。

目を細めれば、もうその姿はない。

「夢か」

男と同じように空を仰ぐ。

涼やかな風に乗って、少女達の笑い声が耳に心地良かった。



フォレイオムから若造が消えて十日。

出迎えに多くの者が付いてきた。

商会の関係者。

工程を急がせている各担当者。

集められていた近くの街長達。

話を聞き付けた多くの権力者達。

生憎の曇り空。

小雨の降る朝方。

予定の刻限に達した時、誰もが空を見上げた。

雲を切り裂いて多くの点が、空の竜で来るはずの大勢が、着の身着のまま落ちてきた。

整然とした着地。

その先頭に立つのは少女とも見える何者か。

黒い衣装を身に纏う賢者。

次々に広い道へと落ちてくる者達が風を纏い着地する。

十秒もすれば、そこに数百の少女と数十の巫女が泰然と立ち上がっていた。

声にならないまま、権力者達は沈黙する。

「【若造にしてはよくやる】」

唇を読み取った孫が正確に言葉を刻めば、先頭に立つ者は嗤った。

「褒めてないように聞こえるが?」

「【褒められると思っているのか?】」

「最もだ。とりあえず雑事を済ませよう」

振り向いた若造を前に連れてこられた誰もが真剣な視線を注ぐ。

「これより巫女候補は逗留中の各バンドに全員が割り振られる。ラクォルに続け・・・【我がバンド】は常時と同じく訓練を午後から開始。所定の宿に合流するよう。以上」

簡潔に告げられる予定に誰もが動き出す。

数秒せずして誰もがその場から離れていく。

残っているのは若造と三人の巫女のみ。

「後で話しがある」

こちらの横を無礼過ぎるまま通り抜けていく若造の姿に大人達が唖然とする姿は滑稽以外の何物でもなかった。

慌てて大勢が後ろに駆け寄っていく気配。

その大勢を歩きながら捌いていく光景はさぞや痛快なものだろうと潰れた喉が僅かに震えた。

「お婆様。笑っていらっしゃるのですか?」

いつもは無口な孫娘が驚くのも無理は無かった。

理由を唇に乗せれば、答えが躊躇いがちに返される。

「はい。私も驚きました。まさか、この場で巫女達を自分の駒にするとは」

本来、戻ってきた巫女達は界統遺冠によって召集されただけの巫女に過ぎない。

しかし、事情を知っている者も知っていない権力者達も同時に意識付けられた。

派手な登場に続いて文句の一つも無く巫女達が統率され従う姿。

【我がバンド】等という戯言がその場の空気で真実と見えた。

権力者達は思うだろう。

巫女を統率する賢者、その圧倒的な存在感が現実だと。

自分達が仕掛けられているとも知らずに。

「いいのですか?」

頷く。

界統遺冠に戦力として数えられていない弱き巫女達は足手まとい。

その事実を知っているからこそ、暗に要請された。

使わない戦力ならばこちらに寄越せと。

「はい。では後日そのように要請された場合は認証しておきます」

気付けば、回りには孫娘以外にいなかった。

奉審官アリラトを放って誰もが若造を追いかけていた。

「・・・・・・」

雲にはもう多くの切れ間が走っている。



全身の血が冷めたような気分で「あの子」に言われたまま訓練を再開していた。

空の竜の巫女を全員酷使した降下訓練。

数百人の少女を誰一人として傷つけず降ろせなんて無茶だった。

訓練と称して巫女を疲弊させ【我がバンド】なんて事を口走るあの子に拳を握り締める事しか出来なかった。

疲れ果てて、歩くのがやっとの誰もが口を開かなかった。

狂乱から街を守り切ってから数時間。

未だ疲れも抜けていない状態で無茶な要求をされたのだから当然だ。

それなのに午後、体調の悪い者を残して訓練に出ようとして、現れたあの子に休息を却下された。

今にも倒れそうな空の竜の巫女の誰もが口を噤んでいた。

我慢の限界。

そう思ってはいても誰も口答えなんて出来なかった。

竜を出しての訓練はいつも通り過酷を極めた。

三匹の竜から逃げ回り、後退し、交代し、幾度と無く吹き飛ばされ、それでも手加減されているという現実は変わらなくて。

数人が倒れた。

思わず駆け寄ろうとした者や竜に乗る誰もが後ろから吹き飛ばされた。

何をされたのか解らなかった。

倒れた仲間を助けようとして、後ろから撃たれたと気付いた時、疲労困憊していた誰もが、あの子を憎んだのは当たり前だ。

しかし、詰め寄ろうと竜で突撃を掛けた誰もが負けた。

圧倒的な力の前に敗北した。

一歩も動けなくなって大勢が意識を失う事になっても、あの子は顔色一つ変えていなかった。

「・・・・・・」

目が覚める。

宿の一室だった。

小さな蝋燭が一つ切りの大部屋には仲間達が死んだように眠っていた。

指の一本すら動かせなくて、視線だけで辺りを見回す。

「あ、起きられたのですか?」

見れば、医術師様だった。

「は・・・い。その・・・体が・・・動かなくて」

「少し待っていてください」

医術師様が敷き詰められるように眠っている仲間達の合間を抜けて座っていた椅子からやってくる。

腕で上体を起こされて皮袋を口に当てられた。

ゆっくりと注がれたのは冷たく甘い果実か何かの果汁だった。

喉が勝ってに鳴る。

生き返る心地がして、何故か涙が零れた。

「気に入りませんでしたか?」

申し訳なさそうな顔で言われて慌てる。

「いえ、あの、思わず・・・訓練が・・・その、ご、ごめ・・・っ・・・すみ・・・っ」

巫女の癖に喉から出そうになる嗚咽が治まらなかった。

どうしてこんな目に会わなければならないのだろうと、そう愚痴を零しそうになって、必死に唇を噛む。

そっと抱きしめられた。

それはいつだったか母に抱かれたような感触で、涙ばかりが溢れる。

医術師様は何も言わず、優しく抱きしめ頭を撫でてくれた。

「お聞きしました。訓練で意識を失ったと」

「は、はい。みんな・・・がんばって・・・っ・・・なのにあの子が・・・あの子がッ!」

「わたくしから賢者様に取り計らってみます。このままでは貴女方が壊れてしまうと」

何を言われているのかも解らなかった。

押し込めていた辛さばかりが込み上げて、声を出すのも辛くて。

「まけ・・・っ・・・わたしたち・・・まけ・・・て・・・なにもっ・・・でき、なくて・・・」

扉の開く音。

「追加の氷を持って―――取り込み中ですか?」

「いえ、熱を出した方に新しく水枕をと思っていた所ですから」

そっと頭を降ろされてひんやりとした枕の感触に思わず驚く。

氷が入ったらしき大きな箱を医術師様に手渡すとあの子がこちら側に来る。

「温くなったのから交換します」

「あ、はい。端の方からお願いします」

こちらなんてまるで見ていなかった。

冷たい表情で仲間達の額や枕を触っては確認していく姿に心配する表情なんて一欠けらも無かった。

やがて、自分の前に来て、額を触られそうになって、手が動いた。

指先すら動かないと思っていたのに、その手を弾く事が出来た。

「元気だな」

その言葉を聴いた瞬間、頭に血が上った。

「――――貴女なんて嫌い」

「嫌いで結構」

「貴女がどんなに偉いとしても、絶対認めない」

「認めず結構」

「~~~絶対、謝らせてみせる」

「なら、強くなれ」

頭を撫でられた。

もう本当に指先も動かなかった。

年下の癖に、酷い事ばかり言う癖に、何故かその顔は微笑していた。

「言ったはずだ。あいつらに勝てたなら何でもしよう。舐めろと言われれば喜んでお前の靴を舐めよう。百万回謝れと言われれば許されるまで謝ろう。殴ろうが蹴ろうが好きにすればいい」

「~~~~~~?!」

「だが、あいつらに勝つまではオレに従ってもらう。今じゃお前らはオレのバンドだ」

「あの子達はともかく、みんなそう思ってない!」

「なら、そう思え。死にたくないなら」

「あの子達を贔屓してる貴女が言ったって!」

「確かに贔屓はしてる。少なくとも実力に見合っただけの待遇ではある。個人的にもお前らの百倍は頼りにしてる」

言い返せなかった。

身をもって知っている三人の巫女の力は尋常なものではなかった。

「もしも、あいつらと同じだけの実力をオレに示せるようになったなら、オレはそいつを一生様付けで呼ぼう。ついでに死ぬまで下僕呼ばわりしてくれて構わない。出来るなら、だがな?」

「その言葉、後悔させてみせる!!」

「首を長くして待ってる」

そのまま部屋を出て行く後姿に心の奥底で燻っていた埋み火が燃え上がるのを感じた。



足の力が持ったのは氷を届けて自分の部屋のドアを開けようとしたところまでだった。

踏み止まる為の力が無かった。

崩れ落ちるのを辛うじてドアに寄り掛かって堪える。

壁伝いに宿の一階へ降りた。

食料庫には鍵が無い。

扉は重かったが何とか開く。

棚の脇に腰が落ちる。

並んでいる食料を震える手にとって口に運んだ。

しばらく取っていない食事を取る。

ストレスと過労。

そんなものでダウンしていられるような時期ではない。

体力を無駄に使う事もしたくない。

部屋に戻るのも億劫で腹を満たした後、その場で眠りに付いた。



大量の巫女候補を連れ帰って数日。

無数の問題を着実に片付けつつあるという事実を関わった人間の多くは実感も無く数字で聞かされた。

あの黒い賢者が言う【問題】の消化率は約四割。

その具体的な成果は目に見えない場所で確実に実を結び始めている。

その成果の一つが夜明けを前にしてフォレイオムの眼前に姿を現した。

馬車の大群。

どれも商会の意匠である馬と硬貨の刻印が刻まれている。

日が昇る。

暁を背にして黒の賢者が界統遺冠の全巫女と各バンドの巫女達千人以上を率いて止まる馬車の大群先頭へと歩みを進める。

手はず通り。

御者達が車中の街長達を降ろし始める。

こちらへ向かい歩いてくる街長達の様子は一様では無かった。

眠りを妨げられて不機嫌な者。

巫女を従えた小娘を胡散臭そうに見る者。

こちらの意図を察して静かに傍観する者。

ただ一つだけ共通しているのは巫女の先頭に立つ者の姿を見つめているという事。

【集まって頂いた方々に申し上げる】

馬車の大群の隅々にまで声が響く。

それが空の巫女達の『避空』を応用したものだと一体どれだけの人間が気付いただろう。

夜明けを背負った少女の凜とした声が一線を画した響きを伴って全ての者を圧した。

【世界は、このままでは滅びる】

巫女達は事前に聞かされていた文言に顔色一つ変えない。

【?!ッッッッッ】

唐突の宣告。

街長達の大多数がざわめく。

事前に調べた大物や切れ者と呼ばれるような者以外は賢者の圧倒的なハッタリを前に平常心を失っている。

【この言葉を疑う方。この言葉を拒絶する方。この言葉の真偽を見定める方。その誰もにお伝えする。現時点で我々はもう走り出した馬車の上にいる】

厳命されていた通り、巫女達は表情は崩さず、出来るだけ静かに、鎮痛な面持ちで目を細めた。

昨日の事を思い出す。

何という無駄な訓練だっただろう。

昨日だけで顔の筋肉が引き攣りそうな巫女が大勢いた。

顔を作るという、そんな馬鹿な事を大真面目に練習させた賢者に対する感情は益々悪化している。

【退路は無く。後ろを振り向けば竜に追い立てられている。この段に至ってはもう話し合っている時間すら惜しい。今にも追い付きそうな竜を前に馬車の中で会議をしている場合ではない】

大仰な素振りで声高に叫ぶ少女。

それが誰なのか。

知る者も知らない者も知った者も釘付けになる。

それだけの価値がある役者だった。

バルトメイラを実質上牛耳っている街長達を前に一切の躊躇無く危機感を煽動するのだから。

【皆さんには現実を知って頂きたい】

空が歪んだ。

その様子に気付いた街長の誰もが上を見上げ絶句した。

其処に映し出されているのは竜と巫女達の凄絶な戦いだった。

水の竜の巫女達が使う水閉は使い方次第では遥か遠方を見る遠見の手段となる。

大勢の水の巫女達が前日、大量に水を撒き、その各地点から光を全力で屈折させた成果だった。

フォレイオムから約五十海里。

偶然に発生する事が予測された狂乱を食い止める【使えない巫女達】の姿。

【全ての方に申し上げる。これは夢ではない。冗談でもない。これは、ただの現実だ】

竜を破壊され、血に濡れ、腕を折り、足を挫き、涙が枯れても、絶叫しては立ち向かっていく。

街長の誰もが食い入るようにその凄惨で気高い姿に見入っていた。

【本当なら彼方達には最初こちらで用意した光景でも見てもらおうかと思っていた。強大な巫女達と彼女達が戦う姿を。作り物だとしても彼方達に巫女がどういう者であるか知ってもらう為にはそれがいいと思っていた。だが】

水が沁みこむように街長達は声を耳にし戦う巫女達を見つめ続ける。

【彼女達はそれを良しとはしなかった。自分達は役者ではなく巫女だと。だから、私は彼女達を死地に向かわせた。彼方達にその光景を見せると言った私に彼女達は言った。どうか最後まで見ていてくださいと】

よくも平然と嘘を付けるものだと関心する。

最初からそんな話は無かった。

複数の街を救いに行った時と同様に【いつも通り、街を守り切れ】としか言わなかったはずだ。

作り話にしては出来がいい。

しかし、厳然とした事実として巫女達は死にかけている。

【私の言いたい事はこの空に映し出されたものが全てだ。この光景はやがてバルトメイラ全土に渡り見られるようになるだろう。信じる信じない等という話をするつもりはない】

全ての議論を封殺する一言にそれでも街長達は一言も発せはしなかった。

【愛する者の為。己の利益の為。世界の為。あるいは見知らぬ誰かの為。何でもいい。行動する理由に貴賎は問わない。我々にはそんな理由を見つけている時間すら無い】

空の映像が掻き消える。

一斉に黒い少女へ向く視線があらゆる感情を含んで膨れ上がる。

【彼方達の誰が後ろで震えていようと、金の勘定をしていようと、全て諦めて過ごそうと、巫女は全ては守るだろう。揺るぐ事無く。己を賭して】

少女は街長達へと一歩踏み出す。

幾割かの長達が後ろに下った。

【今、その手は何の為にあるのか問いたい】

街長達の間に広がる動揺が黒の賢者を前に収斂していく。

その瞳を真直で見つめれば解る。

少女は大局を前に偽りの冠を被っている。

【進む者は一歩前へ!!】

ペテン師が世界を統べる者へと化けていた。

【後ろを振り向く者に未来を統べる資格無しッッ】

ペタンと軽い音がした。

音の主はまだ若い女の街長。

続く音は更に多く。

やがて、音は力強く響き続け、誰もが賢者の前へと集まっていく。

どれだけの街長が話を鵜呑みにしたのかは解らない。

言葉を本当に心に刻んだかも定かではない。

だが、それでも黒の賢者はその瞬間掴んだ。

全てを動かす権利を。

煩雑な意思統一をたった一刻にも満たない時間で完遂した。

大きなものが動き出す気配。

(全てを統べる者。ペテン師。風説の大賢者。巫女達の使用人。その全てが真実であり虚実)

苦笑とも微笑とも付かない表情で小さな唇が歪む。

【ようこそ。フォレイオムへ。彼方達を心より歓迎する】

賢者が目の前にいる誰もに頭を下げ、その頭に習って全ての巫女も頭を下げた。

「ラクォル。資料の用意だ」

小声の指示で我に返る。

「はい。大賢者ガトウケンジ」

頭を下げる練習も、頭を下げる通達も、事前にありはしなかった。

そう思い至ったのは頭を下げた後だった。



明け方の死闘で数人が骨を折った。

死に掛けた。

誰もが多かれ少なかれ傷を負った。

いつもとは違う。

狂乱を自分達だけで鎮めてくるように言われ、そのあまりにも理不尽な物量に押し潰されそうになった。

数百にも及ぶ竜達の行進。

もっと大きな竜の群れから街を守った事もあるというのに歯なんて立たなかった。

そして、自分達がどれだけ守られていたのかを知った。

数千の竜を前にしてたった三人で退けた巫女達がどれだけのものを相手にしていたのか知った。

死に掛けた自分達を救ったのは空から降ってくる無数の光だった。

今にも命が消えそうになっていたのに、その光だけは目に焼き付いている。

ああ、と納得してしまった。

巫女に守られるというのはこういう事なのだろうと。

巫女になってから久しく感じていなかった。

誰かに守られるという感覚。

最初からあの三人の巫女と共に行動していたらなんて思わなかった。

清々しいくらいに自分達の無力さが無能さが心を裂いた。

目を覚ますといつもの雑魚寝場所で、忙しそうな医術師様があちこちを見て回っていた。

瞼を開けているのが奇跡のような状態。

「・・・・・・」

影が目に入って、思考すら止まる。

大賢者ガトウケンジ。

まるで極悪人の少女の顔が歪んでいた。

優しげに、泣きそうに、どうしてか。

「後、何日で動けますか?」

治療に忙しそうな医術師様は黒い少女に背を向けていて、そんな顔には気付かない。

「それを聞いてどうするつもりですか?」

医術師様の声には静かな怒りが滲んでいた。

「まだやってもらう事が山程あります。いつまでも寝ていてもらっては困るという事です」

「医術師としてお答えしかねます」

「四日後には訓練が再開されるので」

「そんな!?」

もう扉の前まで歩いている少女の背に医術師様が険しい視線を向けた。

「少なくとも一ヶ月は安静にしていなければ回復すらままなりはしません!!」

「ならば、七日で歩ける状態にしてください。それだけでいい」

「巫女達を壊すおつもりですか?! 何故、こんな事をしてまで!!」

「時間がない。竜は待ってくれない。それまでに生き残れるだけの実力が欲しい」

「?!」

「気付いているからこそ貴女はリオーレンに来た。その予測は正しい。世界は滅び掛けている。もう猶予は無いと考えていい。この状況を打開するには他の全てを犠牲にして一部が生き残るか。大勢に薄く犠牲を強いて多くを生き残らせるか。その二択となる。仮にバルトメイラの巫女全てを犠牲にしても生き残れるのは一部だけに過ぎない」

「そんな・・・そこまで状況は・・・」

医術師様が悲痛に顔を歪ませた。

「だから、オレは誰もが犠牲を払わせようと考えた」

少女の声音が変わる。

それはいつも医術師様の前では取り繕っていた声ではない。

ただ、生のままの少女の言葉だった。

「それならば何故この子達を痛め付けるような真似をするんですか!?」

「大狂乱の乱発が起これば、上手く生き残れて半数。下手をすれば三分の一以下。バンドは言うに及ばず壊滅。使えない巫女は即死。犠牲者の数はアウタスの絶滅という言葉で足りる」

「―――」

「オレにとって始めは駒に過ぎなかった。出来れば死んで欲しくない。その程度の思いだった。だが・・・一緒にいると情が移ってしょうがない。生き残った先でこいつらの笑顔を見てみたいと思った自分がいる。オレはこいつらに犠牲が出る事を受け入れられなくなっていた」

「ガトウケンジ。あなたは・・・」

「だから、オレはこいつらを最良ではなく最善でもない最悪の道を歩かせる事にした」

「どうして?」

「それがこいつらの命を取り留める道として最も確率が高いからだ」

扉が開く。

「絶望を知って尚お利口な諦めを口にしなくなった時、こいつらには本当の巫女になる」

医術師様はもう何も喋らない。

その言葉を静かに聴いていた。

「生への執着、理不尽への怒り、未来への渇望、どれもこれも欠けてたこいつらが此処まで来れた。その努力と根性があれば、諦める事さえ無ければ、未来への道は無為に閉ざされはしない。そうオレは信じてる」

扉が閉まる寸前、医術師様が表情を崩して背中に声を掛けた。

「私は・・・貴女の事を何も理解してはいなかったようです・・・」

「誰かを完全に理解するなんて誰にも出来ない。オレの事なんて気にする必要はない」

「それと私に対する口調はそっちの方が魅力的ですよ」

「―――訓練は十日後。覚えておくよう言って『おきます』」

扉が閉まる。

夢のような夢だったから眠ろうと思った。

全ては優しい泡沫の夢なのだと思った。

そう思わなければ、今にも叫んでしまいそうだった。

【――――――】

其処にいる誰もが同じように思っているに違いなかった。



愛に浮かされた馬鹿の処理に疲れていた。

というのも、色々と馬鹿な状況が生まれてしまったからに他ならない。

賢者は女=必然的に結ばれるのは男=結ばれれば男の地位は磐石=とりあえずオレと僕といや私と我輩と共にお茶等如何でしょうか=ぐへへ、今日は寝かせないぜベイベー=子供も出来りゃ一石二鳥=これで未来のバルトメイラはオレのモノ=既成事実=結婚してください、らしい。

「・・・・・・」

親睦を深めるという名前で街長達の提案で開かれたパーティーだった。

引っ切り無しにやってくる男の相手にげんなりし続ける羽目になるとは思ってもいなかった。

下心の解り切った奴からジゴロさながらの手を使ってくる奴まで多種多様な【共に朝日を見ませんか?】攻勢に【死ね!! 氏ねじゃなくて死ね!! この下種野郎ロリコン!!!】と返すわけにもいかず。

捌いて捌いて何処までも人垣を割った。

そんな中で比較的安全なのが街長としては少数派な女性達の傍というのは男の立場としては皮肉だった。

最低限の予算で行われた立食式パーティーでは多くの街長達が情報収集に余念が無い。

求愛行動こそされないが女の街長達も食えない連中には違いなかった。

色々と冗談に混ぜられて様々な情報を引き出そうとする口八丁手八丁。

女に対応するのも一苦労と言える。

「それでこれからの事なのですが賢者様」

「そう言えば、賢者様は殿方にご興味は無いのですか?」

「ああ、あの殿方には気を付けた方がよろしいですよ」

「そうそう。やはり男は尻の下に敷ける者でなければ」

女性達のお喋りに混じる生々しい忠告は男として居たたまれない気分になる。

「結局のところ、街の統合には幾つかの案がありましたが。如何ように思っておられるのですか?」

「教育機関を置くとの事でしたがやはり巫女や巫女を退いた者を筆頭に?」

「馬鹿な男達は放っておくのがいいかと」

頭を下げてその場を後にする。

「まだ、恋愛という年齢では無いかしら?」

「いえ、そうとも言い切れないかもしれません」

「?」

「どうやら、その、女性にご興味があるとか」

「まぁ!? 少し胸が高鳴ってしまうやも」

「年下の男の子にもご興味があるとかな無いとか聞きましたが?」

「まぁまぁ、あの頃はそういう年齢なのかもしれないわね」

「さすが風説の大賢者様。恋愛もなかなか上級ですわね」

あまりの頭痛にいっそこれから指輪を外そうかと思ったがグッと堪えて二階のベランダに出た。

人気の無い場所である為か、誰もいなかった。

異界の月は現実と変わらない。

しかし、星座は無いらしい。

そもそも現実では星を見上げる事なんて無かった。

いつも視線は画面に向かっていた。

自分の中にある知識を総動員して賢者を偽り、自分の目的の為に多くを騙る。

そんな大そうな事は自分の領分ではない。

ヒキヲタニートの妄言はただ現実の知識によってファンタジー世界の住人を混乱させる事で実現してきた。

頭の悪い話だろう。

この世界には無い多くの知識が異質に映るからこそ、誰もが賢者に注目している。

倫理や道徳を説けば聖人に見える。

戦術や乗り物の知識で戦場に立てる。

算術や計算式で人や物を効率的に動かせる。

どれもこれも現代では本を読み、知識を蓄えるだけでどうにかなる。

それを応用するのは工夫が必要かもしれないが才覚なんて必要ない。

自分は現実に特別な人間ではない。

もしも、自分より頭の切れる人間がいたならば、自分は必要ない。

大学を出た社会人の一人にも敵わない偏った知識だけが拠り所とは人として不安定極まりない。

熱に浮かされたような幻想から醒めれば、自分は空ろだ。

(そもそもが人の上に立つなんて向いてない)

空ろな頭の片隅に残るはいつも母に虐められる記憶と悪夢。

自分はそんな虚しい人間でしかない。

いつも冷め切った思考で自分の現実を再確認しては嗤いしか起きなかった。

どうしようもなく、自分にはそういう日常しか無い。

それが変わったのは巫女達のせい。

悪夢よりも今では巫女達と共に笑いあう夢を見る。

馬鹿な話に笑いあって、ラブコメを演じては楽しげなオチに苦笑する。

熱に浮かされて、滑稽なくらい懸命に、誰かを思って、目が覚める。

朝、冷め切った嗤いを浮かべる事は減った。

「賢者」

振り向けばユネルがいた。

その姿は真紅のドレス姿。

「ユネルか。どうした? 今日はもう寝てるかと思ったが?」

「ヴァルセア様が賢者からの頼まれ事に付いて話したい事があるんだって。それであたしのとこに尋ねてきて。呼んで来てくれないかって・・・」

「随分と早かったな」

「賢者。何を頼んだの?」

「竜の祭壇と竜の出現位置。占術結果と定期的な竜の出現。オレがこのバルトメイラに来てから気になっていた事をより詳しく調べてもらった。その結果次第ではお前達に働いてもらう事になるかもしれない」

「賢者ってそういう大事な事、いっつも一人で抱え込んじゃうけど・・・その・・・あたしだって賢者が・・・」

それ以上言わせなかった。

今は自分より背の高い体を抱きしめる。

「――け、賢者?!」

いつの間に自分は女の口を封じる手段を即座に実行出来るようになったのかと内心複雑になる。

「それ以上言うな」

「賢者・・・・」

「弱音を吐きたくなってしょうがない」

薄汚いものを吐いている自覚がまったく自殺ものの己を貫く。

「弱音くらい、吐いたっていいんだよ?」

「そうするべきじゃない。オレはそう思ってる」

「あたしは賢者が抱え込んじゃったものを分けて欲しいって思ってる」

「済まない」

「謝らないで賢者」

優しげな声。

「オレは・・・いつもお前達に隠し事ばかりだ。オレの本当の姿はユネルお前が思うよりもずっと醜い」

「そんな事ないよ。賢者はいつだってあたし達を助けてくれた。醜いなんて思うわけない」

「そうだとしても。オレは心の奥底までお前達に晒す事は絶対無い。それはたぶん死ぬまでそうだ」

「賢者はあたしの事、嫌い?」

「そうじゃない。オレは誰にも、オレ自身にすら嘘ばかり吐いて生きてきた。その性分は一生直らないだろう。それでも、オレは今吐いてる嘘やオレが偽ったオレ自身を気に入ってる」

そっと腕を回されて、体が強張る。

「オレはこのバルトメイラに来て嘘が多くなった。何故か嘘ばかり吐くようになった。何もかもを偽っている自分に気付いた」

頭を撫でられる。

いつもとは逆の立場。

こんな馬鹿な話をするのは自分ではない。

「オレはお前やオババがいるリオーレンでずっと生きていきたいと思ってる。そこにはテオもフェルフラムもいるだろう。毎日が青空の下、馬鹿をやって笑って怒って泣いて眠って、明日を迎えて・・・」

こんな自分なんて消えればいいと思う。

「オレは嘘でしかそんないつもを越えられない。オレは日常を楽しげに過ごせるような奴じゃない。オレはいつだって頭のどこかが醒めてる。本当のオレはどれだけ取り繕っても、お前が慕ってくれるガトウケンジにはなれない」

それでもずっと傍にいて欲しい。

「此処にいるオレだって本音を晒してるとは言えない。オレの欲望、オレの願望、オレがお前達と出会うまでどういう人間であったのか。それは絶対に変わる事の無い、お前達にも詳しく話したくない、オレにとっての本当だ」

なんてみっともない男か。

「オレはきっとこれからもお前達に嘘を吐く。オレの為に嘘を吐き続ける。計算して、予測して、先回りして、答えを誤魔化して、オレが一番欲しいものを得る為に全てを偽る」

体を離す。

暗いバルコニーでは近付かなければ詳しい表情は解らなかった。

「賢者? それっていつもの賢者と何か違うの?」

「――――――」

何も言えなくなる。

ぎゅっと抱きしめられる。

目の前のユネルはまるで全てを聞いていたのか疑わしいくらいに晴れやかな顔だった。

「賢者はいつだってあたしを助けてくれたよ。いつだって知らない事を教えてくれて、秘密が一杯で、悩んでばかりで、誰かの意見なんてあっという間に覆して、難しい顔も優しい顔も何処かいつも寂しそうで苦しそうで悲しそうで、でも、誰にもそんな顔しないで、一人で何だって解決しようとして、誰にも心配なんて掛けさせないで、それでもあたしやテオやフェルフラムの事を一番に考えてくれて。他にも一杯一杯賢者には顔がある」

ああ、と思う。

ああ、そうなのかと思う。

自分が思うよりずっと、予測していたよりもっと、ユネル・カウンホータは、利口で賢く強いのだと。

「きっと、あたし以外が知ってる賢者はあたしが見るより怖かったり強かったり寂しがりだったりすると思う。それはきっと賢者から見た自分も入ってる。でもね、賢者。どんなに賢者が自分を解ってるつもりになったって、あたしは賢者より、ずっとずぅううううっと賢者の事知ってるよ」

恋する乙女は最強だ。

全ての理屈を感情で上回ってくる。

その愚かしさは何ものにも打ち克つ力を秘めている。

「賢者って悪夢を見てると少し泣いちゃうし、不機嫌だと逆に笑ってたりするし、水浴びしてる時は考え事してるし、歩き始める時はいっつも右足からだし、食事の時は左利きなのに何かを書く時は右利きだし、それから―――」

「もういい。解った」

バルコニーの手すりに寄り掛かって座り込む。

「オレがお前に敵わないなんて今更だったな」

傍にドレスが汚れるのも構わずユネルが寄り添ってくる。

「あたしはね。賢者が傍にいてくれれば、それだけでいいよ。賢者がそうしろって言うなら心配だけど声を掛けたりもしない。けど、やっぱり心配だから・・・」

手が繋がれる。

その手は少しだけ汗ばんでいて緊張していた。

「ダメ?」

見下ろしてくる瞳は変わらない。

出会った頃からその奥にあるものは一つも変わっていない。

善意、悲哀、克己。

一つ足されたものがあるとすれば、愛情。

「誰かに見つかるまででいいなら」

目の前にいるのは自分が幸せにしてみせると決めた女だった。

弱音どころか何もかも見通されていて当たり前なのかもしれない。

「・・・・・・」

月が雲に隠れるまでのたった数分間の繋がりが何にも代え難い日常だった。

嘘を吐く男と嘘にすら微笑む女。

どちらが惚れたかなんて一目瞭然の関係が今だけは冷やかされない。

それがありがたかった。



虚空に浮かぶ光景の中で巫女達が彼に力を貸していた。

賢者に巫女が寄り添っていた。

一際高い塔の上。

空が黄昏時に落ちていく。

「臥塔賢知」

その名を何度呟いただろう。

全てを押し付けてしまった彼の名に罪悪感を覚えて、目を瞑る。

最初はただの少年、そう思っていた。

それが変わったのはいつからだろう。

彼と初めて話をした時からか。

彼が巫女達を救い始めた時からか。

彼が一度帰った時からか。

彼に探し物を頼んだ時からか。

彼は期待以上の働きをしてくれた。

彼が死に掛ける度、彼に話しかけた。

彼は多くの巫女を救った。

彼は多くの民を救った。

彼が何かを言う度にバルトメイラは変わっていく。

その変化に驚きは尽きない。

彼は知っているのだろうか。

彼がこの場所に連れてこられた理由を。

たぶん、明確には理解せずとも予測されている。

彼を見ていれば解る。

彼は物語を見抜く。

変化に酷く敏感だ。

そうだとすれば、彼は自分をどう思っているのだろうか。

真実を知れば、どう思うのだろうか。

それを知りたいと思う。

「彼と話してから・・・私は・・・変わった・・・」

いつも諦めていた。

見下ろしては全てが仕方ない事だと思っていた。

なのに、彼は違った。

今まで誰を連れてきても上手くはいかなかった。

なのに、彼は他の誰とも違った。

ヲタクなニート予備軍高校生等と自らを卑下していた彼。

家も地位も学び舎での学業すら失って、バイトで食い繋いでいたらしい彼。

そんな現実はバルトメイラでは戯言だろう。

けれど、彼は何一つ変わっていない。

現実だろうとバルトメイラだろうと彼のスタンスは一貫している。

彼はそんな己をただの使えないヲタクだと今も嗤うだろう。

「抱きしめてあげてください」

そう彼に言った。

彼はそうしてくれた。

そうして多くを抱きしめた。

彼がいるならば、全ては上手くいくと確信している。

なのに、だというのに。

(悲しい? どうして・・・)

彼は気付いていた。

救って欲しいと思っている事に。

だから、本当はあの言葉は。

「私を・・・」

言ってしまいそうになって口を噤む。

そんな所作に意味は無いというのに。

此処はそんな場所ではないというのに。

ああ、彼がまた死にかけないかと不謹慎に思う。

彼がまた此処に来ればいいと思う。

(寂しいです。臥塔賢知)

そう、気付いた。

「!?」

空が変質する。

それが来るのが解る。

立ち上がると、もう空にはアレがあった。

竜を内包する黒いアレ。

バルトメイラの脅威たるアレ。

その時が迫っていた。

(知らせないと)

その方法は無いのだとしても。

彼を、彼と共にある巫女達を、多くの人々を、死なせたくない。

不意に足元が消えた。

「え?」

落ちていく。

何も無い闇に。

どうして今なのか。

何故こんな時なのか。

まだ消えるわけにはいかないのに。

飲み込まれていく。

緩やかに。

尽きぬ奈落に。

決して戻れぬ場所に。

一人ぼっちの終わりに。

「どうか、バルトメイラを・・・」

心残りは忘れ物ではない。

彼に探してくれと言ったものではない。

脳裏に過ぎるのは彼の温もり。

最後に見たのは見果てぬ世界に佇む無限の竜だった。

随時感想を受け付けています。連載中のSFノベルGIOGAMEもよろしくお願いします。

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