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プロローグ

嘗て書いていたものを発掘して直しているのですが、その時は完結していませんでした。数章からなる一話を五つ投降して完結を目指しています。四話まで描き上がっているので直して全て投稿するのはそう遠い日の事ではないでしょう。では、昏龕世界バルトメイラ第一話『Youthful Day Vocation』プロローグを投稿します。

昏龕世界バルトメイラ『Youthful Day Vocation』


プロローグ


世の中には沸点の低い環境というものが存在する。

主に気圧が低い高地では簡単に水が沸騰するのは周知の事実だ。

しかし、沸点が低くなる環境は別に高地だけに限らない。

確かに沸点が低くなるような環境は身近にもある。

例えば、明らかにRMT狙いなプレイヤーというかDQNというか、ただのチートというか、ボットだろソレという集団に囲まれてプレイしている時。

あるいは徹夜に徹夜を重ね、研ぎ澄まされたプレイ中に突如として発生するエラーメッセージの群れ。

環境は人を変えるというが、環境は人を沸点の低い存在へと堕する事がある。

別に当り散らすでもなく、ただただ溜息が出る。

そして、結局眠るには遅く起きるには早い時間帯にシャワーを浴びてアスファルトを踏みしめる事になるのだ。

学校内部、安息の地である『図書室(エデン)』に向かえば、再びの安息を得られるのは嬉しいところである。

二度寝とは達人の域に存在するつわものだけがやり遂げる離れ業なので上手くいった例がない。

「・・・・・・」

目に隈はいつもの事であり、シャワーを浴びてから延々とニュースを見ているのもいつもの事である。

「・・・・・・」

七時には外に出ていつもの電車に乗り、いつもの如く満員とは程遠い世界で揺られるのも同じである。

「・・・・・・」

というサイクルが実は何よりも大切なものなのだと考える自分は変人である。

「・・・・・・」

という事は既成事実+周囲の太鼓判だから別に問題ない。

問題なのは電車がいつもとは少し違い、揺れた事。

ドアが開き、強風が吹き、グラリと揺らめいた拍子に地面と初めてのチュウとやらを感じてしまった事が問題なのであって、それ以外ではない。

何を思っていたのか、していたのか思い出せない程に痛い。

というか、何が沸点だったのかよく思い出せない。

(何が問題だ?)

それが分かれば苦労はしない。

痛いのが問題であるが、このまま死体ごっこをしているわけにもいかないので渋々顔を上げた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


爽やかな涼風が吹き抜けていく。

蒼穹に雲一つ無く、太陽は優しげな光を大地に恵む。

地平の彼方まで続く薄い緑の絨毯と白い花弁。

微かに甘い空気。

ジャリッと手の下の地面がアスファルトでは在り得ない音を立てる。

恐ろしいまでに現実が遠い

まるで画面内部の如何にも幸せな国。

とりあえず魔王とか聖女とか賢者とか巫女とか竜とか王国とか剣と魔法とか。

そんなものが似合いそうな健康的で仄々した空間。

鳥肌が立ちそうな程の大地で生きてるって素晴らしい感。

あまりの現実に自分の中の大切な何かが萎える。

倒れこんだままケータイを覗いた。

電話を掛けてみる。

119番か110番か迷い、家電に掛けてみた。

【――――――】

速攻で消し、ポケットに押し込む。

予測は三通り。

対処は三通り。

現実的行動は複数。

しかし、どれも何も全部どうでもいい感じに眠気だけが襲ってきた。

それこそが人類の英知を結集した究極の現実対処手段。

人それを夢オチと言う・・・が、発動されようとして。

「あ、あ、ああああああああああああああああ!!」

やかましく、目覚ましには程遠く、どこの幼馴染が起こしに来ても絶対にこの音量だけはないだろうという感想が頭痛となっていく間にも心がダークサイドに落ち込んでいく。

沸点が下がっていく。

意識が落ちていく。

「あああああああああああああああああああああああ」

意識が落ちて、

「ああああああ!! ああああああああああああああああ?! ああああああああああッッッ」

意識が落ち、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

意識が落、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

無意識のポテンシャルか。

ポケットに突っ込んだままのケータイが音源に向けて音速で射出された(様に感じた)。

「あ―――ガフゥッッ?!」

いつの間にかケータイを投擲していた腕が持ち上がる。

沸点は下がり切っていた。

「やかましい」

人は理不尽に対し理不尽を持って相対する事がある。

目を渦巻きにした初めて見る類の人間(推定。衣服らしきものを着ている)に対し、観察もそこそこに近づいた。

観察結果。

牝。

着崩れた民族衣服着用。

十代。

赤茶けて跳ね乱れた長髪。

顔は童顔。

身体は貧相。

音声は極悪の部類。

目を回している。

起き上がる気配はない。

周囲に延々と続く北側の野原の果て(太陽位置から推測)に四角い形状の何かを発見。

「・・・・・・」

荒れ果てたプラットホームの上。

屋根も看板もない線路すらない世界の只中でその日最初の労働を自分に課した。

人として最低限の良心は持ち合わせている故の優しさだった。

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