冷めている左平
縁の下戦記久しぶりの更新です!
「左平、その荷物はこっちにお願い」
「…わかった」
結局左平はあの後押し切られる形で島井宗室の所で厄介になる事になった。
兄達の事もあってかまだ周りに心を開かない左平であったが、その真面目さ手際の良さに、体格も良く力持ちだった等が幸いし既に周りにはたいへん頼られていた。
「左平兄さん、あの棚の上の箱とって下さい」
「…これか?」
「はい、それです。どうもありがとうございます!」
左平に自覚はなかったがもう彼は島井家に無くてはならない存在となっていたのだ。
そんな中一つの出来事があった。
それは宗室の所に奉公している見習い商人達が左平に因縁をつけてきたのだ。
原因は左平にこの店で若い衆に人気のある八千代がよく左平といる事により、それに彼等が嫉妬した事であった。
左平は数人の手習いに店の裏に呼び出されていた。
(…なんじゃ、こ奴らは)
左平が彼等を何をするのか懐疑的な目で見ていると、真ん中で一番えらそうな眉毛のない手習いが前に出て話し始めた。
どうやら彼がこの連中の束ね役らしい。
「おい!木偶の坊。のろまで力しか脳のないお前が何故、麗しき八千代様の周りを何時もうろちょろしておるのだ?お前のような木偶の坊はそこらの適当な醜女と仲良くしとるのがお似合いではないか」
その言葉を皮切りにそうだそうだとはやし立てる周りの手習い。
言い出した眉毛のない手習いも胸を張りながらどうだと言わんばかりに左平を見下している(正確には左平の方が背が高いため、見上げてる形であるが)。
左平はそんな彼等を冷ややかな瞳で見つめる。
(人を呼び出して何を言い出すかと思えば……下らん。適当に謝ってやりすごすか)
「それはすまない、以後気をつけるとしよう。わしは仕事がある故失礼する」
左平は謝りその場を去ろうとするが、それが気に入らなかったのか更に手習い達は左平につっかかってくる。
「おうおう!てめぇ、逃げる気かよ。根性も無えのか腰抜け!」
(好きに言え。お主等の相手をするほどわしも暇ではない)
手習い達の罵声を意にも介さずそのまま左平は歩み続ける。
「待ちなさい!」
左平は手習い達のいる方と違う方角からしてきた声に足を止めた。
「や、八千代様」
その声の主は八千代であった。
彼女は眉間にしわを寄せながら左平にずかずかと近づいてくる。
そして左平の進行を阻むようにその前に立った。
「なんじゃ?八千代」
「……なんで何も言わず、言い返しもしないの?」
「言い返す必要がないし、理由もない」
「必要性と理由ならあるわ。理不尽と不当な辱めをあなたは受けたのよ?十分に有るじゃない」
「ならわしはそれを不当とも理不尽とも思っとらん、これで必要性も理由は無いじゃろ」
「…それでいいの?」
「構わん。それよりわしは仕事がある、他に用が無いならそこをどいてくれ」
左平はそう言うと、目の前の八千代をどかしてその場を去った。
(………左平)
「…って事があったんですよ。旦那様はどう思います?」
八千代は目の前の書物を片付けながらその隣で品の検品をしている宗室に話しかけた。
「ん?まぁ、さ……左平次も歳の割にどこか冷めた所があるからな。喧嘩沙汰にならなかったのは何よりじゃねえか」
「でもです!左平はあまりにも冷めすぎです。あれでは……何か良い案はありませんか?」
手を止めて少し考える宗室。
「良い案ねぇ…ならいっそ連中が木偶の坊呼ばわりに出来ないように左平に商いでも教えるか?」
「左平に商いですか?」
「おうよ。あんだけ真面目で勤勉なんだ、すぐ身に付くだろ?」
「なるほど、では早速誰か左平に商いの指南をするように手配しますね」
「ちょっと待った」
宗室は善は急げと動き出した八千代を止める。
「左平には俺が教える」
「だ、旦那様自らですか?」
「ああ、俺の感だか、左平はなんか持ってる気がするんだよ。それを見極める為にも俺が教える、いいな?」
「は、はぁ」
今からどうやって教えてやろうかと上機嫌な宗室であった。
義雪伝の方が盛り上がってたのでついつい放置気味に(汗)
こちらをお楽しみにしてる方には申し訳ない限りです