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義雪伝外伝 縁の下戦記  作者: 戦国さん
第一章 農村の少年
5/7

大切なものは今は……

第一章完結です。

前回のカオス雰囲気から一転してシリアスな展開となってます。

「すまぬな菊奈、もうここまででいい」

「「えー、家まで行きたいよぅ!遠慮はよくないぜ、左平ちん」」

(遠慮しとらんし!というか、結局勝手について来た挙げ句このまま人の家にあがる気か)

左平はとりあえず勝手について来た双子を無視し、菊奈に礼を言った。

「わざわざ見送りありがとう菊奈」

「礼はいらない、私は自分の仕事を果たしただけ」

そんな左平に双子は抗議する。

「しどい!左平ちんはことごとく一緒に見送ってあげてる萌鳥達を無視するんだね。訴えてやるぅ!!」

「…仕方ないよ萌鳥。魅鳥達は所詮左平ちんにとって都合の良い女だったんだよ」

「…」

左平はそんな双子の行動と言動に疲れたのか深いため息をついた。


菊奈達と別れた後、左平が帰宅したのは色々あったもののまだ真夜中で辺りは暗いままだった。

普段通りの静かな我が家。

床に着こうとした左平であったが、一つ異変に気付く。

「兄者とちびは?」

左平の寝床の隣で寝てるはずの兄志郎と、妹千穂の姿が見当たらないのだ。

当初厠に行ったのかと思って少し待った左平だが、待てども待てども二人が帰ってくる様子はない。

(なんじゃ、この胸騒ぎは)

嫌な汗が滲む。

左平はとりあえず二人を探す事にし、納屋を出た。

そしてふともう一つの異変に気付く。

(そう言えば父上のいびき声が聞こえんな。起きておるのか?)

更に深まる嫌な予感を頭からぬぐい去りながら父弥太郎のいるであろう母屋に向かう。

そして、そこで左平が見たのは大金を手に薄汚い笑みを浮かべる父の姿であった。

「……父上」

「ん?…なんだ、左平か。なんかようか?」

弥太郎は会話をしつつも目は左平を見ず、金勘定に勤しんでいる。

「……その大金はどうしたんじゃ?」

「ああ、これか?これはな……」


『志郎と千穂を売っぱらった金だ』


(な…ん…じゃと?)

左平は固まった。今父が言った言葉が理解出来なかったからだ。

(兄者と……千穂を…)

いや、正確には理解していただろう。

(売っ………)

しかし、それを左平の頭、体、心、全てが理解を拒んでいたのだ。

「大分いい金になった……当分は遊んで暮らせるな、へへへ」

左平の中で色々な物が崩れ落ちる。

目を開けていても真っ暗な視界、体には感覚がなくなっていく。


そして左平は父を殴っていた。

何度も、何度も、何度も。

その手や体を父の血で染めて、一心不乱にただ殴り続けた。

全く動かなくなっても、左平は無表情で殴り続けた。

家の周りに生々しい肉を殴打するおとが鈍く響く。

左平の父に対する暴行は朝方まで続いた。

その時、父の顔は最早原型を全く留めていないほど歪んでいたという。

左平はそんな父を放置し、おもむろに立ち上がった。

その目には最早生気はない。

(兄者ぁ…ちびぃ…)

そのまま左平は人気のない山奥へゆらゆらと姿を消した。


「……何が起こった」

恒坂焉綜達が左平との約束通り家を訪れたのはその僅か後の事であった。

とにかく焉綜は目の前の重傷である弥太郎を手当てし、彼から事情を聞く。

(なんということを)

目の前の男の所業に言葉を失って呆れる焉綜。

「…最低」

「こいつ、殺しちゃおうよ」

「うん、思いっきり残酷に殺そ」

「ひっ、ひい!」

娘達は怒りを露わにして目の前の男を殺そうとする。

「止めておけ、時間の無駄じゃ……殺す価値もない」

それを焉綜は制止した。

(わしがあの時左平と共にすぐに出向いておればっ!)

恒坂焉綜は自分の昨晩の行動を悔む。

(しかし、まだどこかにおるかもしれん。志郎達も救わねば!!)

「今すぐ菊奈は志郎達を、魅鳥、萌鳥は左平を探すのじゃ!」

「御意」

「「まかせろい!!」」

菊奈達はその場を勢いよく飛び出した。

(左平、志郎、そして二人の妹よ、無事でいてくれよ。おぬし達はこんなはした金で失って良い才能の持ち主ではない!!)

焉綜は左平、志郎、千穂の無事を仏に祈った。


それから数日後、左平はどこかわからない見たこともない森の川のそばで倒れていた。

(……あれからいくら歩いただろうか)

周りには一切見覚えのある景色はなく、そこが自分が住んでいた場所から大分離れた場所だということがわかる。

(わしは……死ぬのか?)

意識が朦朧とする左平。

もう目が霞んで周りがどんなものかもよく見えない。

(兄者、ちび、会いたい……)

もう会えないであろう大切な家族の事を思う左平。

彼はそのまま眠るように意識を失った。

そしてそんな絶好の獲物を待っていたとばかりに狼の群れが茂みから姿を現す。

もはや左平が彼らの餌となるのは時間の問題であった。

そんな時だ、一発の銃声が森の中に反響し群れの一匹が悲鳴を上げて倒れ込む。

狼達が現れた茂みの反対側からそれを撃ったであろう人物が彼らの前に姿を現す。

「人様を食べようなんざ、度胸のある野獣共じゃねえか」

さっき放った銃を捨て、新たな銃に火を入れ構える。

「全員上質な毛皮にしてやる」

構えた銃が火を噴く。

これには狼達も分が悪いと諦めたのか、そそくさとその場を逃げ出した。

「けっ、度胸の無い。最近の武士みたいな連中だ」

あまりに情けない野獣達に唾を吐く。

すると奥からもう一人そそくさとやってきた。

「旦那様、無事ですか!?」

「あんな野獣にやられるかよ。つうか、手習いのお前がなんで隠れてるんだよ」

「だって…鉄砲二丁しかないのにあんな群れに普通挑みませんよ。というかこの童、どうするんですか?」

「気に食わないからつれて帰る」

「は?」

手習いは素っ頓狂な声をあげた。

「こいつ、あの状況で目が完全に諦めてやがった。普通は少しは生きてえって思うもんだ」

「だから連れて帰ると?意味がわかりません」

「あー、もう!とにかく連れて帰るからな!!お前はそこの狼の死体を担げ。毛皮にして売るからな」

「はあ?まぁ旦那様の気まぐれは今に始まったわけじゃないですし、とりあえずわかりました」

呆れ顔で手習いは狼を担ぎ上げる。

「とりあえずってのが余計だ」

そして旦那様と呼ばれた人物は左平を持ち上げる。

(どんな事情かは知らねえが、餓鬼がしていい目じゃねえ。この俺が助けたんだ、きっちり生きて貰うからな。んで利子付けて返して貰う!)

彼の名は島井宗室。

博多の一、二を争う豪商である。

左平は、何の運命かその豪商に運良く(?)拾われ命を現世につなぎ止めた。

この出会いが吉となるか、凶となるか、この時の左平は知る由もない。

島井宗室(笑)

皆様色々思うことはあるとは思いますが

、あくまでフィクションなので、まぁ、多めに見てください。

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