じいさんと知恵比べ
連続投稿です。
実は何だかんだ言いながら義雪伝書きながらコツコツ書いてたりしてたんですよね(●´ω`●)
左平が二人に連れられて向かったのは林の中の小さな寂れた寺だった。
ここは兄志郎や銀次郎といった近所の子供たちがよく集まる場所で左平も何回か来たことがある。
左平にとってはあまり珍しくもない見慣れた場所であったが、その寺の縁側にはいつもの見知った子供達以外に行商人風の白髪の老人とその後ろに無表情な女の子が座っていた。
老人の前には様々な見たことのない物が置かれてあり、子供達はそれに目を光らせ見つめている。
「じっさん!もう一人じっさんから物貰えそうな奴連れてきたぜ!!」
銀次郎は目の前にある珍しい物を指差し老人に対してこれでもかと言うぐらいに胸を張る。
それに対して老人はと言うと、銀次郎の後ろにいる左平を興味深そうに眺めていた。
老人は左平をその何でも見通すかのような瞳で観察する。
「ほほぅ……今度はそこにいる童が相手かの?」
「…兄上、会わせたい奴とはこのじっさまか?」
「ああ!」
志郎も老人の前にある珍しい物に目が向いていた。
「因みに相手とはどういう意味じゃ?」
「相手ってのはじいさんと勝負する奴の事だ」
「………兄上、そういう意味ではなくてな…」
兄の的外れな回答に呆れ顔な左平。
兄のこういった言動や性格には馴れてるため別に気にはしてはいない左平ではあるが。
「ふふふ、童よ。わしが説明してしんぜよう。わしはな…賢い童や強い童が好きでのぅ~で、力比べと知恵比べをしとるわけじゃ。無論力比べは体があまり丈夫ではないわしでは相手にならんから自慢の孫娘と勝負してもらっとるがのぅ。童はどっちの勝負にするかの?勝てばここにある好きなものを一つくれてやる」
左平は考えた。
無論、ただで何か貰えるなら貰えるに越したことはない。
怪しいが、別に人攫いの類では無いみたいだ。
周りを注意深く見渡しても怪しい人影はないし、寺の中にもそんな気配はない。
この老人と少女ではここにいる子供たちをどうにかできはしないだろう。
問題は知恵と力どちらで挑むかだった。
左平は体は同年代の子供と比べ大きくはあるが力は普通ぐらいしかない。
自信と言う面では知恵比べの方が自信があるのだが……この老人は一癖も二癖もありそうだ。
とても簡単に勝たせてくれそうにはない。
(…となるとやはり勝てそうなこの娘との力比べがいいか……いや、まて)
左平はふと一つの事に気づき兄達に質問する。
「……因みに兄上達は勝って何か貰ったのか?」
「ああ!俺らは力比べでその子に勝ってこんぺーとーって菓子貰った!」
左平はおかしな事に気づいた。
「…他の奴も何も持ってないが、皆も菓子を貰ったのか?」
「んや?勝ったのは俺と銀次郎だけだ。皆その娘に挑んだけど勝てずに終わったな。実際俺達ももう少しで負ける所だったな」
「…」
他にも何人か子供がいるのに物欲しそうな顔をするだけでその手には何も握られていない。
兄達みたいに菓子を貰って食べたのなら話は別だが、皆が皆菓子を選ぶと言うのもあまりに不自然だ。
何なら他にも珍しく魅力的な物がこんなにたくさんあるのだから…。
そして一つの可能性を左平は考える。
もしや皆自分と同じ思考で勝てそうなこの娘に力比べを挑み負けたのではないか?
左平は老人と少女を見る。
(……自慢の娘か)
この老人は食えないな…そう思いながら改めて自分には知恵比べしかない事を悟る左平。
「さて、始めるかの?準備は良いか童よ」
「ちょ、まだわしは何も言ってな…」
「童の目や仕草を見ればだいたい解る。知恵比べじゃろ?違うか?」
「…」
(……本当に食えない老人だ)
左平は諦めた感じで老人の前に座り込んだ。
「で、知恵比べと言っても何をするんですか?」
「ほほぅ、他の童達と比べると非常に年上への礼儀をわきまえておるのぅ。なに、簡単じゃ。実際は知恵比べと言うよりはわしの問答に童が答えるだけじゃ」
「…『左平』です」
「ん?」
「わしの名です。問答をする相手に童はないでしょう。それに名乗らないのも失礼だ。」
「ふむ……確かにのぅ、これは失礼した。わしも名乗ろう。忠利じゃ。…では始めるとするかの?」
「はい、よろしくお願いします」
「さて………ではこれにするとしよう」
そういうと忠利老人は徐に懐から袋を引っ張り出すと中に入っている綺麗な色をした粒をとりだした。
「この菓子は金平糖といってなとても貴重な菓子じゃ…まぁ、先程左平の兄者に力比べの勝利の褒美にくれてやったものと同じものじゃな。ほれ、これを一つやろう。これを皆で分けれるかの?因みに皆が満足するように分けなければならんぞ?」
忠利老人は左平に袋から取り出した金平糖を一粒わたした。
「おい!じっさん!幾ら何でもこれをここにいる全員で分けるのは無理だろ!!」
確かに銀次郎の言うとおり物理的にこの一粒の金平糖を、ここにいる子供達全員に分けるのは無理だ。
割れてもせいぜい二、三分割が限界だろう。
更にたたでさえ小さな粒を更に小さく分割しては幾ら珍しく美味しい菓子でも満足するのは不可能に近い。
さて…いかにこれを分ければ良いだろうか?手を顎に添えて左平は考えた。
「降参かな?」
忠利老人は顔を不適にニヤけさせながら左平に聞いた。
「…………いえ、正解かはわかりませんが私なりの答は出ましたよ」
「ほほぅ、してどのような答えに行き着いたのかな?」
「簡単なことです、少し時間をいただきますがよろしいですか?」
「ふむ…別にかまわんよ」
「ありがとうございます」
左平は忠利老人からこんぺーとーを一粒貰い、それを兄志郎に渡し、そして何か耳元で言うと志郎は金平糖を持って何処かへ走っていった。
「まぁ……しばしお待ちください」
左平は堂々と忠利老人の前に座った。
それから一刻時がたったあたりで志郎が帰ってくるとその手には大量の干し柿が抱えられていた。
「待たせたな左平!これでいいのか?」
「ありがとう兄上!……忠利さん、これがわしの答えです」
左平は志郎の持っている干し柿を一つ取り忠利老人に見せる。
「……ほほぅ」
「金平糖一粒では皆は満足せんし分けられん。珍しいだけじゃ何の足しにもなりませんからな……だから珍しい金平糖をそれを求めそうな者に売り、その金で人数干し柿を買いました。……さていかがですか?」
「…」
沈黙が周りを包む。
そして………。
「ふむ!なかなかに面白い答えじゃ。お主の勝ちじゃ童……いや、左平よ。」
おおおおおお!
周りが歓喜の声で溢れかえった。
アクションと同じく頭脳戦(?)も難しいですね。
義雪伝とは違った意味で大変です