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義雪伝外伝 縁の下戦記  作者: 戦国さん
第一章 農村の少年
1/7

その名は左平

義雪伝の外伝的話です。

本編共々読んで貰えると、ありがたいです

その男一つの傑物なり。

されど万の将兵を率いる才はなく、また自らも一騎当千の強者ではない。

可もなく不可もなく…特に印象に残らぬ容姿。

なれば何故男は傑物なのか? 

それは彼が一人の英傑を影で支え、時には諭し、共に悩み導いたからだ。

史書による彼の記述はその大半が埋もれ、ただ『内政面でかの英雄を支えた』とだけしか記されていない。

その男の名は『立身左平義貞』。

自ら支えるべき人物のため進んで日陰者となった英傑である。

この物語は、その立身左平義貞がまだ幼き時。

彼が貧しき農村の次男として田畑を耕す事に必死に取り組んでいる時からはじまる。


この時、世は戦国と呼ばれる時代であった。

飢饉により既存の社会は崩壊し『道徳』よりも『欲望』が支配する世界。

義貞…今はまだ左平と呼ばれる彼の住む村はまだ比較的に平和であったが…。

その日左平はいつものように父弥太郎に言われせっせと田畑を耕していた。

「ふぅ……あともう少し……あと少しだ」

左平は真面目に田畑を耕す。

いつもは兄も一緒に耕してくれるのだが、先ほど隣村の悪友に連れて行かれてしまい現在は一人で大きな畑を耕している。

しかし疲れはするが別に左平にとってそれはどうでも良かった…というか寧ろ連れて行って貰ってありがたかった。

兄志郎はやる気はあるのだが力任せにめちゃくちゃに耕すので、結局それを直す行為で二度手間となってしまうのだ。

それに左平は畑仕事自体嫌いではない。

何かを作るという作業はやりがいがある。

「ふぁ……終わったぁ」

一通り畑を耕し終えると左平は畑のすぐ近くにある切り株に腰を乗せ昼食を食べ始めた。

畑にくる前に山で採った柿だ。

「んぐ……んぐ……ふはぁ!やっぱり働いた後に食べる柿は美味いなぁ」

袋に包んでいる柿を美味しそうに次々平らげる左平。

柿が好物であるのもそうだが、左平は元々食いしん坊でありたくさん食べる。

あっという間に袋の中にあった柿を食べ終えてしまった。

「ん~……まだ食べ足りないなぁ」

お腹をさすりながらもう一つの袋を見る。

一応その中にも柿は入っているのだが…。

「いかん!いかん!これは兄上とちびのぶんじゃ……食うわけにはいかん!!」

ぐるるるるるるるるるるるるる!!

頭では解っていても体は理解できないのか盛大に空腹を告げる音が鳴り響いた。

「……はぁ、帰るとするか」

左平は肩をがくりと落とし荷物を纏め家に帰った。

余談だが彼が昼食を食べたのは昼食と言うにはあまりにも遅い時間だったりする。


「父親に対してなんだ!?この糞ガキ!!」

「は!?父親なら父親らしい事してみろよ!毎日酒ばかり飲みやがって!!」

「とうさまもにいさまもけんかやめてー」

……またか。

左平が家の近くまで着くと家の中から兄と父の怒鳴り声、そして妹千穂の泣き声が聞こえてきた。

左平の父と兄はとても仲が悪く、顔を合わせては毎日のように喧嘩をしている。

今日は一体何が原因で喧嘩になったのだろうか?

まぁ……大方父が悪いのであろう。

左平はそう思いつつ荷物を納屋に片付けた。

左平も父弥太郎は好きではない。

かつて父弥太郎はこの村一の豪傑だったらしい。

しかしある戦で満足に戦えない傷を負ってからは毎日酒浸りの日々を送っていた。

母が生きている時は母を、亡くなってからは兄や自分…そして妹に働かせ暴力を振るい憂さ晴らしをしている最低な男である。

しかし何故左平は兄のように怒らないのか?

兄のように喧嘩をしないのか?

答えは『するだけ無駄』だからである。

何か言った所であの父が良くなるとはとても思わないし無駄に体力を失うだけ、ならば適当に流して相手をしないのが一番だと左平は考えていた。

もっとも、兄が変わりに怒ってくれてる…というのもあるわけだが。

「……ちびだけでも助けないと」

左平はとりあえず納屋に道具を置くと、納屋から出て家の窓から千穂に見えるように手招きし呼び寄せ、一緒に納屋に戻った。

「ちび、今日はちぃにぃと一緒に納屋で寝ような」

「…うん」

左平は妹を抱っこしその頭を優しくなでた。

「ちび、柿くうか?」

「うん!」 

左平から柿を貰い美味しそうに食べる千穂。

「おいしい!!」

「そうか、それは良かった…またたくさん採ってきてやるからな」

「うん!ちぃにぃありがとぅ!!」

その日その後やってきたボロボロの兄と共に三人は納屋で寄り添うように寝た。

そして寝静まった夜、ふと志郎は左平に話かけた。

「おい、左平。起きてるか?」

「……起きとるぞ兄上。なんじゃ?」

「今日はすまなかったな……仕事の事とか……さっきの事とか」

「別に気にしとらんよ。仕事の時は銀次郎が無理やり連れて行ったし、さっきのはどうせ父上が悪いんじゃろ?」

「まぁ……な。ほんとにお前には苦労をかけっぱなしだ。」

「わしが好きで掛けられてる苦労じゃ」

「…なぁ、左平」

「なんじゃ?兄上」

「俺はいつかここを出て行く。そして立派な殿様になる!その時はお前と千穂を何不自由なく養ってやるからな!」

「ははは、期待せずに待ってるよ。」

二人の夢見る若者の声が静かな夜に小さく響いた。

翌日。

左平がいつものように畑仕事をしていると遠くからこっちに志郎とその悪友銀次郎が凄く興奮した顔で走ってきた。

「左平!さへーーい!」

「おーーい!左平ぃぃ!!」

「おお、兄上。……それに銀次郎……また兄上を攫って行きよって、今日ははっきりと……」

「そんな事別に良いからちょっとついて来い!」

左平の手を掴む銀次郎。

「ちょ!いったいなんじゃ!?」

「話は後だ!お前に会わせたい人がいるんだ!!」

「はぁ?畑仕事はどうする…」

「んなもん、後で俺達も一緒に手伝ってやるよ!!」

有無を言わさず左平を連行する二人だった。

歴史上の人物としては左平君のモデルはだいたいおわかりかと思いますが、太閤秀吉の弟秀長です。

地味なんですが結構好きなんですよね。

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