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変節  作者: 北角 三宗
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 日を選ぶと、尚義は留守を義綱に任せ、ものものしく出陣した。


 一行は塩松を出ると、川俣を経て月見館へ至った。

 伊達郡内では広瀬川の流れに沿って北上する。即ち、三春方面から塩松・川俣・懸田を経て梁川で仙道の本街道と合流する、「小手道」と呼ばれる南奥州を縦断する脇街道として古来重要視されている道である。


 川俣領主桜田氏は伊達氏の麾下ではあるが、比較的自立性が強く、周辺の領地は自治領となっている。よって、川俣・懸田の中間点に当たる月見館の地峡部から、本式に伊達領となる。


 天文末年に晴宗が当地方の領主懸田俊宗を滅ぼす以前から、当地は要衝として重要視されており、伊達治下になってからは更に新たな城砦や関所が築かれ、街場も大きくなっていた。

 その理由は勿論、塩松への警戒ということもあるにはあるが、それよりも相馬に対する備えとしての色が強い。

 即ち、月見館南北麓から東へ向けて、海道まで通じる二筋の分かれ道が走っているのだ。いずれも相馬軍による伊達郡遠征の際に通り道・関門とされ、天文の乱当時も、行方郡の小高を本拠とする相馬顕胤の軍勢が幾度となくここを通って、懸田氏の助勢に駆けつけている。


 相馬氏は、乱終結後間もなく急病に斃れ夭折した顕胤の跡を、若年の嫡男盛胤が継いでいた。爾来暫く、盛胤は自領内の統治に力を注がねばならぬ状況となり、それは晴宗が懸田討伐を容易に成し遂げ得た要因にもなっていた。


 尚義一行が小手道を北上すれば、月見館本館は右手に現れる。

 それ自体は小型の山城であるが、周囲は塩松の中心地にも劣らぬ活況となっており、川俣以降人の往来も増えていた。

 これが伊達領の南限の一関門であることを併せ考えるに、斉義は伊達家の規模の大きさに打ちのめされる思いがした。

 その様子に気付いたのか、尚義は気分良さそうに馬に揺られている。


 一行は関所通過後、懸田から小手道をはずれ、保原城へ至った。

 ここまでが一日の行程である。


 当城は晴宗の功臣中島伊勢の居館である。現在の流れとは離れたが、当時の当地は阿武隈川の氾濫原上に存し、川から導水して堀を為し、曲輪を形成する平城としてあった。


 尚義と斉義は、この城内で晴宗に対面した。

「これは塩松殿。ご足労いただき恐縮」

「我らにできることあらば、何なりと申しつけくだされ」

 斉義は二人の様子を窺っている。尚義は幾分緊張が表情に出ているようだ。


 晴宗は口元を小さく歪めているが、どうやらそれが喜んでいる表情らしい。されどその造作は、鋭く厳しい目つきともあいまって、神経質な性格をよく醸し出していた。


「輝宗は些か猜疑が過ぎるようだ。気持ちは解らぬでもないがの」

「と、言いますと」


 輝宗が警戒しているのは、今伊具郡で起きている紊乱そのものだけではなく、その処理如何によっては領内のどこまでも飛び火し得るという家中の統治体制にある。

 今回、田手宗光への対応が余りに寛大な処置では、家臣達は皆、主家を甘く見るようになるだろうと考えているのだ。

 現に中野宗時の動きは余りに輝宗、延いては主家を蔑ろにした行為であり、晴宗の意を受けたものでは勿論ない。


 晴宗はそれを承知しながらも、長い間苦楽を共にしてきた重臣達をただ見殺しにする訳にも行かなかった。

 また、輝宗の意見通りに締め付けを強めれば、家中諸士の反発を招き、家が四分五裂してしまうやも知れないという懸念もあり、ずるずると斯様な状況へと落ちてしまったのだ。


 この状況を正しく理解していれば、晴宗とて始めから尚義に調停そのものを期待などしていないということは、判ろうものだ。


 即ち、現在の伊達家中を元の鞘に収められる者は、一人しかいない。


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