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変節  作者: 北角 三宗
47/47

47(終)

 米沢の冬は早く深い。初雪が訪れるや猶予なく降り積み、春まで白が消えることがない。

 珍しく轟に帰った宗信へ、政宗との面会希望を伝え、それが叶えられたのは、もう山が薄く雪化粧を始める頃合だった。


 定綱が塩松へ帰る意思を伝えると、政宗は意外な顔をした。

 前回会った時に比べて応対が柔和だったのは、屋敷を賜わりたいとの意向を受け、既に麾下と見なしたからだろう。

 人の言うことをすぐに信用するのは、流石名家の若様だ。


「これから雪が深うなろうというに、塩松へ帰ると申すか」

「はい。雪で屋敷の普請も滞り、いつまでも遠藤殿にご厄介になり続けるのも気が引けます。それに塩松にても諸事滞り、兎に角、一度帰って来るようにとの催促がうるそうて」

「そうか。これは儂が至らなかった。ならば、父にも会うて行くがいい。父は其方がお気に入りだ」

 微笑んだ顔には、定綱に対し何らの悪意を抱いている様子でもない。


 政宗の能力の見極めは、結局殆ど何も進展しなかった。

 しかし、如何に彼が有能だったとしても、この家中をまとめ上げるには、これからそれなりの時間を要するだろう。麾下諸将の人見知りや功名心や、若者特有の排他的な風潮は、今後の伊達家の大きな課題となる筈だ。それを思えば、暫くは政宗の施政そのものではなく、輝宗の関わり方が重要となるのではないか。

 定綱は伊達家の今後について、政宗に安定政権を託すのなら、輝宗はもう暫く院政を敷くべきだと思っている。しかし輝宗にその動きはない。されば政宗の舵取りは、初めから波乱含みとなるだろう。伊達家のお家芸「内紛」は、存外近いのではないか、と。当の輝宗は内紛を避ける為に隠居したと言っていたが、現在でもその懸念は払拭されていない。


 政宗に謁した後、定綱は館山を訪ねた。

 相変わらず輝宗は、穏やかな優しい顔で迎えた。

 定綱が暇乞いの挨拶をすると、輝宗は深刻な顔をして、傍らの基信と見合わせた。その真意を慮ったのでもあろう。


「――儂が山城を引き止めるものだから、其方の世話を文七郎に任せきりにしてしまった。窮屈な思いをさせたことと思う。引き継ぎだ何だと、時間をやれなくてな」

「そのお言葉に救われる思いが致します」

 定綱は既に心が決まり、落ち着いている。輝宗が幾ら済まなそうな顔をしても、はなむけにしか聞こえない。


 基信は頻りに責任を感じている様子だった。

「文七郎とは、米沢にて先日久しぶりに夕餉を共にしたのですが、ちょくちょく轟にて貴殿のご相伴をしていると言うておりました。さりとはいえ、何かと至らぬ面もあったかと思います。吾奴も、御館様にお取立てになったばかりで、まだ意気込みばかりが勝っている様子。どうか今回に懲りず、春になったら是非是非戻ってくだされよ。それがしも来春までには一切の雑務を終わらせる所存ですので、その折には鷹狩りなどご一緒できたら、と考えておる故、のぉ殿」

「山城、大内殿は我らと違うてまだまだ現役ぞ。遊んでばかりいる訳にもいくまい。されど儂とて、そうあれば何よりと思うておる。焦る気持ちは重々解っているつもりだ。あれのことは、どうかもう少し長い目で見てやって欲しい」

 輝宗は基信と共に笑って定綱を見送った。その顔には、主従というたがから解放された安堵感が満ちている。

 定綱は、何だか無性に、親綱に会いたくなった。


 二日後、小雪舞う中を定綱一行は出発し、板谷の峠越えに掛かった。

 前日から米沢城下の遠藤屋敷に遷っており、ここからの出立となったが、見送りはなかった。

 風は追い風、山に差し掛かるにつれ、根雪も深くなってゆく。

 馬を止めてふと振り返ると、もう米沢の街場は山陰に消えていた。


「『虎に翼を着けて放てり』か――」

 定綱が呟くと、供の一人が怪訝な顔で、その言葉を確かめようとした。だが定綱は取り合わず、再び馬を進めた。


 記録を見ると、『変節』は大体2004年から翌年にかけて書いた作品です。


 話はこの後、塩松に戻った定綱が政宗を迎え撃つも敗れ、二本松を経て会津へ落ち、艱難の末、転身して正式に政宗の麾下となるまでを描いています。


 つまり、今回連載した内容は、元々の作品の全編ではありません。長さで云えば、丁度半分程度を消化した段階です。


 今回、後半部分を削った理由には、以下の三点が挙げられます。

 先ず、冗長である為。

 次に、削った部分での展開は、既に色んな先人の作品にて描かれた政宗モノと立場が逆になるだけで、さして目新しいものではない為。

 最後に、前項と重なる部分もありますが、時代をなぞることで定綱の行動が汲々としたものとなってしまい、それまでの人物像とはまるで別人のようになってしまった為。

 些か乱暴ではあるけれど、まとめて一言で済ませれば、「あまりにも下手」だからです。


 しかし、斯様にバッサリと切ってしまう終わり方では、その後の歴史とのつじつまあわせが完了していない部分があるじゃないか、との指摘を受けることも想像が付きます。


 それに対して用意している返答は、以下の二つです。

1.歴史は勝者が作るものです。ましてや政宗は万事周到な男なれば、自分に都合の悪い記録は極力潰してから死んでいると考えるべきです。しかし中には、歴史を疑うということに抵抗を感じる方もいるかも知れません。そんな方には、本作製作のスタンスは『治家記録』などの公式記録を時系列の確認程度にしか捉えていないので、歴史との相違が出てくるのも当然のことだと云いましょう。

2.本作は歴史上の出来事を扱っているとは云え、あくまで小説、書いてある内容は絵空事です。それにも関わらず、読んだ方が歴史との相違点に対し異論を唱えることがあるとしたら、それはその他の部分に信憑性を認めている証左になります。

 それこそ作者の思うつぼだということです。


 今回、連載に当たって全編を読み直し、改めて構成の甘さ・文章の拙さに辟易したのですが、誤字や掲載上の修正点を除き、極力手を加えずにupしました。

 面倒だったということもあるのですが、いつかちゃんと書き直したいなあとの思いを抱いたからです。ちゃんと書くときの為に、今は不完全なままで晒しておこうと。

 それだけ、技術面の巧拙はさておき、ネタ自体は面白いと、改めて感じています。


 取り敢えず、本作はこれで擱きます。

 当面、他にやることがあるからです。阜如記やら夜半の月やら。

 気分転換のつもりで始めた連載で、本サイト全体を見渡しても少し毛色の違う作風だったかも知れませんが、それでも一定数の読者がいてくれたということは刺激になったし、また何か新しいものを書いてみたいなあという気持ちを惹起させることもできました。

 また本サイトにて連載できるときを楽しみにしています。ありがとうございました。

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