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変節  作者: 北角 三宗
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 定綱は差し当たって米沢の北郊、轟にある遠藤氏の居館に滞在するよう、あてがわれた。


 館主の遠藤山城基信は、一度顔を見せに来たきりである。

 かなり忙しいらしく、挨拶もそこそこに帰っていった。彼はこのところ、館山と米沢の間を行き来しては、隠退に向けて仕事の引き継ぎに多忙な毎日を送っていたのだ。

 たった一度の面会のときに、「用向きや不便などありましたらば、何でも愚息に申し付けくだされ」と済まなそうに言っていた。


 その宗信の方もこの屋敷には殆ど顔を出さず、米沢の屋敷に滞在しているようだ。

 聞けばこちらも多忙を理由としていたが、実際にはどうもそうではなく、接待を面倒がっているだけのようだった。「どうか早く当家に馴染んでくだされ」などと言っておいて、どこへ案内するでも誰に紹介するでもない。たまに帰ってくれば、自分と同年代の若党を連れており、その若党も定綱に挨拶することすら殆どなく、食事を共にすることもまるでない。

 政宗に再び面会したい気持ちもあったが、小者に伝達を頼んでも、どうも伝わっているような反応がない。

 

 どうやら伊達家では、当主の交代に伴い多くの家で世代交代が行われたようで、家中全体がばたついている。

 それら新たなあるじは、政宗から気に入られようと、また自分の家中に於ける求心力を高めようと、必要以上に張り切り、背伸びをしている。

 一方で隠居した親達は、それぞれ子の立身の後ろ盾に廻り、或いはまだ老いぼれてはおらぬとて若党に対抗心を燃やしている者もある。

 これらは、家中の騒動を避ける意図で、輝宗が仕組んだことなのか。それはしかとは判らぬが、定綱の立場としては、居づらい上に不便この上ない。


 定綱の扱い自体は、思いの外緩やかなものだった。特に監視が付けられることもなく、行動に制限があるでもない。

 とはいえ不案内な土地故、殆ど出歩くこともできないまま、日は無為に過ぎてゆく。

 屋敷普請の話も、一応輝宗から政宗に伝えられたようではあるが、一向に進んでいる風でない。


 秋が深まるにつれ、定綱の焦りは募った。いつしか揺らいだ思いは元来望まぬところで固まり、巡らす思惑に人知れず心を震わせた。

 塩松からは、長門や岩角玄蕃らから使者が訪れては、田村の近況を報せてくる。

 輝宗が言っていた通り、田村清顕が塩松へ調略の手を入れてくるような動きは、定綱が米沢へ来て以降、皆無となっている。

 そして彼らは必ず、同じことを問う。「いつ帰るのか。早く戻られよ」と。


 このまま、軟禁のような状態で春まで擲っておかれては、定綱の塩松に於ける立場・権威といったものはなくなってしまいかねない。

 塩松では大将が戻り次第「いざ田村を攻め滅ぼさん」と、意気盛んな状態。これまでの隠忍を晴らすときはすぐそこまできているのに、米沢の麾下になったからと鎮めるのは、容易なことではなかろう。


 また、片平からも書簡が届く。

 親綱は定綱が米沢へ来るのと同時期に、会津黒川へ向かっていた。盛隆の法要へ参列する為である。

 横死した盛隆の後継は、生まれたばかりの嫡男亀若丸にすんなり決まり、家中結束して幼君を盛り立ててゆく意気込みで、以前よりも寧ろ勢いを感じるという。

 親綱の娘は盛隆の側室となっていたこともあり、葦名四天王松本家の欠損の跡を受けて、家老に推挙されるのではないか、との声も挙がるほどに、親綱は同家中にての地歩を進めていた。


 同じ代替わりでも、随分と違うものだ。

 凶事によって当主が横死し、急遽その幼児が新当主となったにも関わらず、表向き平穏で意気盛んな葦名家。一方、当主の隠居に伴い嫡男が跡目を継ぐという、至極緩やかな世代交代に関わらず、諸将緊迫し、しかもいま一つまとまりが見られぬ伊達家。


 定綱は今後の算段をしていた。最初に答えを出してから。


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