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変節  作者: 北角 三宗
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 以降、顕綱は三春への出仕を完全に停止する。

 親綱にも同様に片平へ篭らせた。


 親綱は会津黒川へ使者を送ると、自分の長女を葦名盛隆の側室として差し出すことで、これまで数年の経緯を流すとの寛恕を得ることに成功する。

 葦名麾下になって以降の親綱は、伊達家を追われていつからか葦名の客分となっていた舅中野宗時(既没)の嫡男丹後時綱などと誼みを通じ、他にも顕綱が介在しない独自の人脈を築いていくことになる。


 顕綱には見通しがあった。このまま田村と手切れになったとしても、現在、田村には塩松と事を構えたくない理由が、幾つかあるのだ。


 先ず、縁談である。

 田村清顕の一人娘愛姫と伊達輝宗の嫡男藤次郎政宗の、婚礼の話が進んでいたのだ。この話がまとまり、姫が米沢へ輿入れするとなったら、塩松を通らぬ訳にはいかない。

 勿論、石川領を迂回すれば大内領を通る必要はないのだが、それまでの間はいずれにしても塩松を不穏にしたくはなかろう。

 尤も、既に輿入れの日取りまで決まっており、遅くとも来春にはこの理由は消える。


 しかしそれだけではない。清顕は本来、婿を取りたかったのだが、たった一人の娘を嫁に出してまでも伊達氏の後援を必要としているという状況が、もう一つの大きな理由である。

 南奥の状勢は日を追って田村氏に不利な方向へ動き、その威勢には翳りの色が濃さを増してきている。佐竹氏の北進は既に止まらぬところまで来ており、白河結城氏はもとより、葦名氏との関係も刻々と密接になっている。

 即ち、清顕は世情の変化から取り残された結果、南への備えに手が一杯となり、塩松と事を構える余裕は当面持てない訳だ。


 以上の理由によって塩松の安全は、数年間は保障される運びとなる筈である。

 当面は親綱に黒川との交誼と安積の諸勢力の糾合をしていって貰い、顕綱自身は伊達輝宗と誼みを通じてさえおけば、何処の麾下に就かずとも、攻め込まれる気遣いはない。

 その輝宗とて、依然として相馬氏との戦いが長引いており、当面、脅威となる恐れはなかった。


 顕綱は、これまで十年近くも田村麾下としてその国力に精通したことから、この間に自力を蓄え、畠山氏の協力を利用すれば、田村の勢力を打ち砕くことは充分可能だと踏んでいた。

 一気に田村氏を下し、塩松・二本松・安積・田村の勢力を一つにすれば、伊達・佐竹・葦名といった大勢力に充分伍してゆくことができよう。


 その後、二・三年の間、顕綱は伊達軍の伊具戦線へ援軍を送って輝宗との誼みを深め、清顕に対しては、出頭を促す使者が幾度となく訪れながらも、のらりくらりと言い逃れていた。

 予測通り、清顕は愛姫の嫁入りの後も戦禍に明け暮れ、塩松に制裁を下す暇を持てないばかりか、南方戦線にて国力を擦り減らしてゆく。

 逆に顕綱は着実に国力を蓄え、周辺への政事的な関与をして協力関係を強めてゆき、名声を更に高めていった。


 中でも二本松に対しては、天正八年に義国が死んだ後は、若い当主義継の義兄として一層干渉を深め、家中をも手なずけている。


 顕綱が見るに、義継は体格が良いだけでなく頭もなかなかに明晰で、利発な面も見て取れる。天正十年春には、田村氏の安積出兵に対して、葦名氏と連繋してこれを撃退し、その余勢を駆って田村与党たる同郡北部の高倉や日和田など数箇所を抜いて麾下に加えるなど、実績を着実に積み重ねている。


 二本松家中でも評判はうなぎのぼりで、「畠山の威勢を再興するのは若殿、右京亮義継様を擱いて他にない」と、期待を一身に集めていた。


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