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変節  作者: 北角 三宗
17/47

17

 ――夜、小浜城に戻った後、斉義は義綱に塩松でのやりとりを聴き取り、また改めて宮森での経過を詳しく聞かせた。


「塩松城でのやりとりの様子をお聞かせくだされ」

「うむ……。其方の言うておった通りに、備中謀叛の旨を言上したのだが、殿は一向にお信じにならない。そこへ摂津が同座し、二言三言、儂と同様のことを申しただけなのに、殿はおもむろに座を立たれ、宮森の様子を窺おうと望楼へ向かわれた」


 義綱はそれを自分の能力不足と捉えているようだが、恐らくそれは違う。尚義の中で蓄積された備中への疑心が、たまたま摂津の言葉で臨界に達しただけのことであろう。

 しかし斉義は、それを義綱に言って慰めることを潔しとしなかった。


「狼煙は見えましたか」

「殿は茫然と眺めておられた」

「誅伐の言上は?」


 義綱は一度深く息をついてから、話し出した。

「今回のことで儂は、摂津を見る目が変わった。あれは恐ろしい男じゃ。あの場で殿は、まさに摂津の言いなりとなっておった。殿は摂津の言葉を反復するように『備中が首を挙げし者に宮森を与えん』と仰った」


 義綱は思い起こすように暫し黙ったが、気を取り直したように、逆に問い掛けてきた。

「――其方の方の首尾は如何だったか」


「軍勢を二手に分け、助右衛門に街屋敷へ向かわせ、私は大手より攻め入りました。殿は形式を重んじるお方。城攻めは大手からが本来であります」

「しかし搦手も開いておったぞ」

「それは石川殿の所作です。流石石川勢は到着が早かったですぞ。一緒に出発していたら、大きく置いて行かれるところでした。本丸主館を囲んだのは、僅かに我らの方が早いくらいのものでした」


 石川勢の武勇は元々塩松随一との聞こえが高かった。それに、石川領たる日山丘陵は、塩松一の良馬の産地である。

 宮森城は南大手北搦手だから、小浜城から攻めるのならば緒戦を搦手にするのが便利である。それでもわざわざ大手から攻め込んだところに、斉義は酔っていた。その一方で、石川勢の熟れた動きに対し、これから共同戦線を亙ってゆく仲として、ふとすると一転して危険な存在にもなり得るという危惧を感じてもいた。


 翌朝、斉義は義綱に伴われ、塩松城へ出仕した。

 城内で摂津も合流し、三人で尚義に謁見する運びとなった。摂津は二人を見ると、ニコニコといつもの笑顔を見せた。だが二人とも、その裏の顔を見てしまっている。義綱と摂津が並んで座り、斉義は義綱の後方に座を占めた。


 尚義はいつにも増して血色のない顔で現れた。この頃とみに痩せてきて、頬がこけている。それら顔色の悪さも併せて、増え続けている日酒の影響が亮かである。

「大儀であった」


「備中が首は、もう検分されましたでしょうか」

 尚義は義綱の上申には答えず、相好を崩して斉義へ声を掛けた。

「大活躍だったそうではないか」

「恐れ入ります」

 斉義は平伏した。


 摂津が口を開いた。あくまで明るく、朗らかな口調である。

「今回の手柄は、太郎殿に全て持って行かれたようなものですな」

 摂津は少し腰を傾け、チラと後ろを見た。ニコリとされ、斉義は逆にゾッとした。


 尚義も「そうかそうか」と上機嫌になったが、すかさず義綱が口を開いて、和やかになりかけた雰囲気を断ち切った。

「備中が首を挙げし者に宮森を下されるとのお達しでありましたが、我らの駆け付けた時には既に、甥の宗四郎の手によって彼の首は胴と離れておりました。その宗四郎も自害し果てた今、宮森は誰にくだされましょうや」


 斉義は義綱の発言を浅ましく感じた。自分と摂津のやりとりに不審を抱いていることは窺えるが、それをあからさまに口頭に出すのはいただけない。

 尚義も話の腰を折られ、黙ってしまった。


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